私の音楽日記

2003年5月4日

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物憂げな春の宵には"Airs de Cour(エール・ド・クール)"

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◇5年ほど前の4月下旬の頃に、ある初期バロックの音楽会を聴きに行ったことがある。それは、Fons Musicae(フォンス・ムジケ)という古楽アンサンブルによるMichel Lambert(ミッシェル・ランベール)のAirs de Courを中心とした音楽会である。

◇フォンス・ムジケは、リュート奏者の今村泰典をリーダーに、カウンター・テナーのパスカル・ベルタン、ソプラノのモニック・ザネッティ、ビオラ・ダ・ガンバ奏者のギド・バレストラッチ等で構成される古楽専門の室内楽アンサンブルで、ヨーロッパを中心に活躍している。私が聴いたのは、その来日公演で、その時は、上記の4人のみでの演奏であった。演奏した曲目は、ミッシェル・ランベールのエール・ド・クールの4曲を中心に、他に、マラン・マレやクラウディオ・モンテベルディの声楽曲や器楽曲も演奏された。

◇これらの演奏曲目のうち、私が特に感銘を受け、また、印象に残っているのが、ミッシェル・ランベールのエール・ド・クールである。ミッシェル・ランベールは、17世紀フランスの作曲家で、ルイ13世に仕えた宮廷音楽家であった。彼は、エール・ド・クールという宮廷歌曲の作曲家として知られている。ちなみに、ルイ14世に仕えた著名な作曲家であるリュリは、このランベールの娘婿に当たり、ランベールが集大成したエール・ド・クールの分野を、さらに発展させ、フランス・オペラの礎を築いた。

◇また、エール・ド・クールとは、文字通り宮廷(クール)歌曲(エール)のことで、16世紀末から17世紀中葉にかけて、フランスの宮廷を中心に演奏された室内声楽曲を総称するものである。エール・ド・クールは、一般に、声楽の重唱とリュートなどの伴奏を組み合わせて演奏されていたようである。エール・ド・クールの作曲家としては、ゲドロンやランベールが知られている。

◇私が演奏会で聴いたランベールのエール・ド・クールの4曲は、いずれも、バロックの開花期以前の初期の時代らしく比較的素朴で素直な曲であった。しかし、素朴な中にも、ソプラノとカウンター・テナーの重唱とリュート、そして、ビオラ・ダ・ガンバの掛け合いが実に面白く、また、いずれの曲も、何かしら物憂げな哀愁を帯びた旋律で、それが、心の琴線を揺さぶるような聴き心地を覚えた。こうした印象は、フォンス・ムジケの見事な演奏によるところも非常に大きい。

◇さて、演奏会の終了後は、ロビーで恒例の(?)サイン会があり、当日の演奏曲目を収録した新譜CDを販売する傍ら、購入者にはフォンス・ムジケの4人が、その場でサインをしてくれるというものであった。私も、それにつられて、つい、CDを購入し、そのジャケットとCD背面に4人にサインをしてしてもらい、さらなる満足感に浸った。それ以来、このCDは私の大切な宝物となった。

◇このCDは、その名もズバリ「Airs de Cour」というタイトルで、ランベールの作品を中心に、全体で14曲のエール・ド・クールが収録されている。もちろん、演奏はすべてフォンス・ムジケである。

◇以後、私は、このCDを聴くたびに、このときの演奏会の情景を、そして、その時のフォンス・ムジケの面々の顔と表情を、あたかも昨日のことのように思い出すのである。ただし、未だに不思議に思っているが、ビオラ・ダ・ガンバが小節の終わりに複数の弦を連続して震わせる音(この演奏技法を専門用語と何と呼ぶかは知らない)だけは、CDでは再現できない。この音は、生演奏で聞くと背筋がゾクゾクとするほど美しいものである。

◇ともあれ、このCDに収録された14曲のエール・ド・クールは、やはり、いずれも哀愁を帯びた美しい旋律の曲である。私は、特に、物憂げで、また、幾分艶めかしい春の宵などに、このCDを無性に聴きたくなることがある。そして、そのような時には、このCDを聴いて、感傷的な気分にどっぷりと浸るのである。

◇そして、この14曲のエール・ド・クールの中でも、私が、とりわけ好きな曲は「L'amour, Le Seul Amour」である。これは、旋律の美しさが群を抜いており、また、ソプラノとカウンター・テナーの掛け合いが特に素晴らしい。

◇以上のようなわけで、物憂げな春の宵にはエール・ド・クールがお奨めです。