随想の窓

2007年12月24日

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ついに始めてしまった、都心での自転車通勤

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 私は、もうかれこれ20年以上にわたって、ほぼ毎日自転車通勤をしてきた。といっても、通勤の全区間を自転車で通うわけではなく、自宅から最寄り駅までの区間のみである。転居の都度その距離は変わるが、近かった所では駅まで1km弱、遠い所では約7kmである。なお、休日には、さらに長距離をサイクリングに出かけることが、しばしばある。このように自転車に始終乗っている私であるが、幸い、現在に至るまで、一度も事故に遭ったこともなく、また、自ら事故を起こしたことも一度もない。とはいえ、油断は禁物で、これからも安全運転と細心の注意は心がけていくつもりではあるが。

 さて、現在住んでいる所は、最寄りの駅までは約3kmある。引っ越してから数年は、この3kmの区間を自転車通勤していた。しかし、この駅とは違う方向かつ違う路線で、自宅から約7km離れた所に、電車の便の良い拠点駅があり、その駅の周辺は繁華街になっていて、私も、休日には、買い物などをしに、そこに自転車で頻繁に出かけていた。そこで、結局、通勤経路もその後、そちらの駅経由に変更し、その駅まで7kmを自転車通勤することにした。この7kmという距離は、自転車で通うと所要時間は通常約30分弱で、また、特に、川沿いにある自転車専用道(サイクリングロード)を利用する場合には比較的スピードを出すことができるので約20分強であった。いずれにせよ、さほど遠くもなく、適度な距離である。

 しかしながら、自転車通勤の場合の問題は、雨天の日の通勤方法である。特に、自転車通勤の距離が長いほど、その対応には頭を悩まされることになる。幸い、私の場合、7km離れた駅まではバス路線が通っており、雨天の場合にはバスを利用することにした。また、途中で雨に降られそうな時も用心して最初からバスを利用した。さらに、飲んで帰った日とか、体調がすぐれない日なども、やはりバスを利用することになる。結局、自転車通勤が原則、とはいっても、意外に、バスを利用する日が多くなってしまったのである。ところが、バスの運賃は結構高く(地下鉄運賃の約1.5倍程度)、通勤手当が出ない状態でこれを毎月相当日数自己負担することは、薄給の私にとってはなかなか辛いものがあった。それやこれやで、結局、7kmの自転車通勤は数年であきらめ、2年ほど前から、「原則バス通勤、時々自転車利用」というスタイルに切り替えることにしたのである。

 そして、この時である。私が都心での自転車通勤を検討してみようと思ったのは。通勤の全区間、電車やバスを利用していたのでは、とにかく、運動不足になる。さりとて、スポーツ・ジムとかに行く時間的な余裕もない。特に、この頃から、週末も教壇に立つことになり、その準備等も含めて休日もまとまった運動時間を確保しづらい状況になってきた。さて、困った、どうしよう。さらに、悪いことには、今で言う「メタボ」が進行しつつあった。血圧もコレステロール値も上昇傾向にあった。何とか、知恵をしぼって、時間をやりくりして、運動量を確保せねばならない。これが至上命題となった。

 そして、考え出したのが、通勤経路のうち、都心での地下鉄区間約7kmを何とか自転車で通えないものだろうかというものであった。今までは、自宅から最寄り駅までを自転車通勤していたが、今度は逆に、都心での地下鉄区間、すなわち、郊外電車と地下鉄の乗換駅から都心の勤務先までの間を自転車通勤してみようというものである。7kmという距離については、全く問題がない。何しろ、今まで自宅の方の自転車通勤で通い慣れた距離とほぼ同じだから。ただし、郊外と異なり、都心部は信号が多く、歩行者も多いだろうから、時間は多少余計にかかるかもしれない。でも、途中で雨に降られたり、疲れたりした場合でも、地下鉄の駅がそこらじゅうにあるので、自転車をとりあえず置いておいて、5分も歩かないうちに、容易に地下鉄に乗ることができる。このような場合の地下鉄運賃を自己負担したとしても、バスに較べると相当リーズナブルな金額になる。このようにいろいろ考えてみると、都心での自転車通勤という方法は、一見突飛なように見えて、案外合理的なのかもしれない。とりあえず、一度試しにやってみよう。

 ということで、2年ほど前から、試行的に都心での自転車通勤を始めてみることにした。まずは、郊外電車と地下鉄の乗換駅付近に駐輪場を借りて、駐輪場所を確保した。そして、次に、というかほとんど同時に、自宅で乗り慣れた使い古しの自転車を、約30kmの距離を乗って、この駐輪場まで持って行った。そして、いよいよ通勤開始となるのだが、その前に、通勤ルートを地図上で予め調べて選択する作業を行った。その場合、ルートは、予め複数選んでおくこととした。まず、最短距離のルート。さらに、何せ始めてのことであり、また、帰りに夜の暗い中を走ることになる可能性もあるので、回り道になっても、とにかく幹線道路沿いで、かつ、曲がる回数が最も少ない、いわば絶対に道に迷わないわかりやすいルート。そして、これらの中間で、いくつかバリエーションをつけたルートを2つほど。結局、4つのルートを用意した。

 そして、いよいよ、通勤開始。まず、初日は、最短ルートを使うことにした。ところが、実際、自転車で走ってみると、歩行者が非常に多くて、とても自転車がスムーズに走れる状態ではない。そうかといって、車道はどうかというと、そのような場所ほど路上駐車が多く、こちらも自転車が走行するには非常に危険である。結局、最短距離ルート=最短所要時間ルートではないということがわかった。その後は、いろいろなルートを試行錯誤したうえ、当初に想定した4ルートではなく、自転車走行にとって最も危険が少なく、かつ、比較的所要時間が短いルートに落ち着くことになった。

 なお、都心部を自転車で走ってみて、いろいろと新しい発見があった。それは、まず、第一に、東京都心部は意外に坂が多いということ。ほとんど坂の登り下りの連続といっても過言ではない。これは、歩いて通る場合と較べて、自転車の場合は走行距離が長いので特によくわかる。幸い私の自転車は18段変速のギアが付いているので、かなりの勾配の登り坂も比較的楽に走行することができる。次に、第二は、都心部は意外に緑が豊かなことである。大きな公園も多いし、背の高い街路樹がずらっと並んだ並木道も多い。このように緑に恵まれた沿道の環境を満喫することは、私にとって、都心部で自転車通勤する際の大きな楽しみとなっている。そして、第三に、地下鉄通勤と自転車通勤との所要時間の差は、それほど大きくないということである。地下鉄のルートは必ずしも最短距離で引かれてはおらず、むしろ迂回する場合の方が多く。加えて、乗り継ぎをするような場合にはロス時間も結構かかる。他方、自転車の場合には、最短ルートに近いルートを走ることができる。私の場合、地下鉄と較べて片道約10分余計に時間がかかる程度で済んでいる。さらに、自転車の場合には、地下鉄と異なり、事故や渋滞で遅れるといったことがなく、所要時間はほぼ正確に予測できる。もっとも、極く稀にチェーンが外れるといった突発事態が起きることはあるが、3分もあれば直すことができる。なお、パンクはタイヤにパンク防止剤を注入しておけば、まず起きることがない。

 というようなわけで、最初は、試行的に始めた都心での自転車通勤も、次第に乗る頻度を増やしていき、また、春夏秋冬、いろいろな気候条件の季節を経て、持続可能性もチェックしていった。そして、これは続けられるという自信が出てきたので、とうとう本年4月から、全面的な施行に踏み切ることにした。つまり、都心部では原則自転車通勤とすることにしたのである。

 なお、自転車は環境に良いとか、地下鉄に較べてテロや火災のリスクが少ないとか、大地震等で交通がマヒした場合にも有効であるとか、まあ、いろんな効用を並べ立てることができるかもしれないが、結局のところ、私の場合は、都心部で自転車通勤を始めた目的は、もっぱら健康のためということに尽きる。地下鉄で満員電車にすし詰めになって揺られていくより、多少時間がかかっても、春夏秋冬の沿道の景色を満喫しながら、悠然とペダルを漕いでいく方がずっと良い。これは、ある意味では、最も贅沢な時間の使い方ではないのか。ストレス発散にも良い。一度、始めたら、もう病み付きになる快感がそこにある。

 うれしいことに、最近は、都心部を走っていて、私と同様に、自転車通勤をされる人を見かけることがめっきり多くなってきた。かなりの数である。特に、年輩の方も多く見かけるようになってきたのは、私にとって、非常に心強い限りである。今後も、健康が許す限りは、都心部での自転車通勤を続けていきたいと思っている。