カレの部屋





 角松の部屋に足を踏み入れた草加は、自分が酷く緊張していたことにようやく気がついた。
 彼の趣味で集められたのだろうものたちが雑然と置かれている。散らかってはいないが、きちんと片付いているというわけでもない、生活感に溢れた部屋だった。ここで角松は暮らし、日々を憩っているのだ。

「なんだか…落ち着きます」
「そうか?まあ好きにしてくれ」

 コタツに潜り込んでほっと一息ついた草加にコーヒーをいれてやりながら、角松は結構複雑な気分になった。まがりなりにもつきあっている相手の部屋にいて、落ち着くものだろうか。どういう意味だ。思春期に戻ったようにドキドキと緊張しているのは俺だけなのか。
 角松は先ほど手土産に渡されたケーキの箱を開けて、目を丸くした。おなじみの幼女がイメージキャラクターを勤める有名菓子店のクリスマスケーキなのだが、丸ごとひとつ、しかもてっぺんにはお菓子の家とサンタまで乗っかっている。男が二人で食べるにはいささかどうか。いやそれより、これを一体どんな顔をして、草加が買ってきたのだろう。
 視線に気づくと草加はらしくなく、赤くなった。

「なんだか食べたくなったんです…つい。食べ切れないかもしれませんね」
「お前、甘党だったか?」
「いえ、それほどは…」

 ようするに浮かれていたのだろう。角松は嬉しくなった。2人がかりで食べればなんとかなるだろう。冷蔵庫にしまっておく。

「責任とってけよ」
「はい」

 草加が緊張を解いたせいか、角松も気を楽にした。なによりここは自分の部屋だ。草加の部屋のように罠が待ち構えている可能性は100%ない。ゴロゴロとコタツにもぐりこみ、他愛もない話に花を咲かす。何をするでもなかったが、途中で話が途切れても気まずさはなく、あたりまえのように草加は角松の部屋に存在していた。

「そうだ。忘れないうちに」

 そう言って角松が隣の部屋から持ってきたのはちいさな箱だった。濃紺の包装紙と銀のリボンでラッピングされている。角松は気負った様子もなくそれを草加に差し出した。ぽかんとした草加が何度も瞬きをする。

「え……、と?」
「クリスマスプレゼント」

 ほら、とさらに差し出されて、草加は受け取った。まじまじと眺め、彼はうっすらと頬を染めた。純粋な感動に包まれている。角松からプレゼントを貰えるとは思っていなかった。あれだけのことをしておきながら、好意を受け取ってくれているだけで、こうして一緒の時間を過ごせているだけでも草加には幸福だった。その上部屋に招かれ、一晩を共にする。
 許された、と思った。
 礼を言った草加は自分のコートのポケットからちいさな箱を取り出した。彼のことを考えて選んだプレゼントを渡す。角松は笑って受け取ってくれた。

「角松さん」
「草加…?」

 頬に手を伸ばし、キスをしても角松は拒まなかった。草加はさらに手を伸ばした。シャツをまくり、胸にくちびるを寄せる。下肢をそっと擦ると、ビクリと角松が震えた。

「あ……」
「…角松さん」

 その時だった。

「洋介ーいるかー!?」

 呼び鈴を鳴らすこともなくどかどかとあがりこんでくる足音。硬直してしまった2人は、そのままの体勢で侵入者の目にさらされた。
 そして、