親友≧恋人





 尾栗と菊池は正座をしていた。正確には、正座をさせられていた。
 2人の前には親友の角松洋介がいつもよりしぶい顔をして立っており、その後方には2人の知らない男が気まずげに佇んでいる。
 実際この部屋の空気の気まずさといったらなかった。目撃した者とされた者のなんともいえない沈黙がまたたまらない。

「わ、悪気はなかったんだ…」
「………」

 しかし、呼び鈴をならすくらいの配慮はできたはずである。一般常識というか、マナーの問題だ。だいたい、鍵がかかっていれば、普通は留守だと思うだろう。

「どうせ今年も独りのクリスマスで寂しいだろうと…」

 予想外に恋人がいたのは結構なことだとしても、まさか男だったとは。逆転満塁サヨナラホームランである。しかも今まさにいいところ、という場面を邪魔してしまったのだ。尾栗と菊池の言い訳はしだいに萎んでいき、沈黙が再び落ちた。
 いいかげん黙っているのも業腹だと思ったのか、角松がいつもよりドスのきいた声で言った。

「…で、他に言うことは?」
「「…ごめんなさい……」」

 2人がそろって土下座をしたところで、ようやく角松も肩を落とした。彼と同様にむすっとしている草加にまあ許してやってくれという顔を向ける。

「2人とも、こいつは草加拓海――なんというか、友だち以上恋人未満といった関係だ」

 暗にお前らが邪魔さえしていなければ恋人へと昇格していたんだぞと言ってのける。未遂とはいえ現場をばっちり目撃されているのだから、もはや遠慮もへったくれもなかった。

「草加、こいつらは尾栗康平と菊池雅行。大学時代からの親友だ」
「…角松さん」
「この2人には隠す必要はないぜ。…まだ怒ってるのか?」
「ええ。あなたの考えているのとは違うことで」
「…?」

 思いがけない草加の返答に、角松はきょとんとした。尾栗と菊池もその理由がわからず正座したまま草加を見上げている。見当もついていない角松に草加はさらに苛立った。

「2人がここに入ってこれたということは、合鍵をもっているということですよね」
「ああ」

 角松はアッサリうなずいた。この2人には部屋を借りた時に好きなときに来ていいといって合鍵を渡してあった。草加にはわからなかったが、部屋には彼らの私物がいくつもある有様だ。
 親友2人はそこに怒るのかとつっこみたそうにしている。正座したまま。そろそろ足が痺れてきたのか、居心地が悪そうに足をもぞもぞさせた。

「親友だし、別にかまわんだろう」

 それのなにがおかしいと言う角松に、草加は訴えた。

「では、なぜ、か、仮にも恋人である私にはくれないのですか!?」

 自分で仮にもと言ってしまうのが哀しい。
 草加は必死なのだが、角松はなぜか眉を寄せた。恋人といわれることに今さら異論はないが、草加に合鍵を渡すことに彼は躊躇いがあった。その点で、角松には容赦がなかった。

「…俺まだそこまでお前のこと信用してないから」