一周年企画は根性の悪いことに条件つきでした。
『まず、「熱く」語ること。
「こんな感じで」という、萌えシチュエーションを400字以上で。
加えて、なにかひとつセリフをいれること。』

以上の条件にさらにその萌え語りを発表します、といってありました。
なぐもさんのリクエストです。(反転してください)


三羽で花火を見に行っているという場面から話は始まります。
菊池がなんでか(・・気を利かせて・・?)遅刻していて、角松を尾栗が二人で花火を見ている。
儚くて美しく、力強くて艶やかな花火を見ている。
花火の光に照らされる洋介の横顔に、康平が見とれてしまう。
 
《・・・くはー、この先の色っぽいシーンは、私には表現できません!!!!
二人で「仲良く」していただきたいんです!(はあはあ・・・)》
 
 
目を瞑る洋介の耳に、花火の爆音だけが聞こえて・・・・・。
 
 
洋介は目を醒ます。
爆音は今も鳴り響いているが、康平がいない。
自分ひとり。
花火もない。
傾いた「みらい」の艦内で、倒れている。
爆音は砲弾の音・・・艦が爆発している音だった・・・。
 
ある海戦に自分はいたのだと思い出す。
「みらい」が被弾し、沈没は免れないと判断した角松は、退艦命令を出したのだ。
艦長の最後の仕事。
一人艦内確認に残り、角松は走り回っていたはずだった。
気づかぬうちに気を失って倒れたらしかった。
あんな夢を見てしまうなんて・・・。
 
 
《以下、ちょっと抜粋です・・・ホンッと、しょうもない駄作の表現ですので、どうかシチュエーションとしてお読みください。江葉さんの美しい文章で表現していただけたら、夢のように嬉しいです・・・・!》
 
 
『角松は陣頭指揮をとっていた間、自分が負傷したことにも気がついていなかった。
退艦命令のあと、最終確認のために艦内を走り回っていて、
誰ももう残っていないことが分かったとたん、
手脚が冷え、ゾクゾクと悪寒が走り、体が崩れ落ちた。
どうしてなのか分からず、自分の身体をみるとべっとりと血に濡れている。
 
戦闘中の、いつだったか、どの被弾だったか・・・・。
なにかの小さな金属片が数個、身体を貫いていた。
見たとたんにぐったりと力がぬけ、焼けるような痛みが吹き上げてきた。
「・・・まいったな・・・」
苦笑し、なんとか自分も退艦すべく身を起こそうとしたが、
どうにも身体が動かない。
角松は「みらい」の天井を見上げた。
「お前ひとりで海の中に沈むのも、かわいそうだもんな・・・」
「彼女」に呟く。
「キャプテンは昔から船と運命を共にするもの・・・と言いたいのか?」
「彼女」は答えず、海に引きずり込まれる軋みと唸りを上げた。
ゆっくり目を閉じる・・・。
部下達のボートが、どうか無事に引揚げられますように・・・・・。』
 
 
 
《はあ・・・・もう、ここにコピペするのもお恥ずかしい・・!
何かひとつセリフを、ということでしたので、
もしよろしかったら上記抜粋の太字の部分をお願いします。(ひとつじゃないですね・・すみません)》
 
 
 
洋介は再び瞳を閉じる。
そこで、肩をたたかれた。
重いまぶたを開けると、そこには「いるはずのない」康平が立っている。
洋介は驚愕して・・・しかし次の瞬間、とても安堵して親友を見上げる。
 
 
 
 
《この先はお任せします。
締め切りぎりぎりで、あわててメール作ってしまったので、話が前後してしまってますね。
わかりにくいお話になってしまい、本当にすみません。
 
・・・ていうか、もう日付変わってしまう〜〜〜!
リクエスト、間に合うのでしょうか??
 
 
「いるはずのない」康平というのも、洋介の状態も、
もう「死にネタ」になってしまって、こういうのがお嫌いでしたら申し訳ありません。
追い詰められて、ぎりぎりの状態で求め合う・・・という切ないのが私好きでして・・・。》



これをいただいた時、真っ先に思ったのは「いっそのこと自分で書いて欲しい!!」でした。ここまで構成されているというのに、私に何を?といった感じでした。
あと、セリフをひとつ、というのは甘かったかな、と(笑)。予想外でした。
リクエスト通りになっているか不安ですが、なぐもさん、受け取ってください。
この話はなぐも(飛鷹まなみ)さんのみ、お持ち帰り可です。










                                                       なすよしもがな





 三人の休暇が重なる日は、滅多にない。その上に花火大会と重なるのは本当に幸運としかいいようがない。三人が集まって観にいこうというのは、至極当然のことだった。
 三人揃えば自然と気分は学生時代に還っていく。三人とも大人の分別は忘れなかったが、はしゃいでいた。尾栗は屋台で次々に食べ物を買っては角松に与え、角松は角松で遠慮なく食べた。菊池は呆れた顔をしながらも、止めることはしなかった。
 スピーカーからもうすぐ花火の打ち上げが始まるとアナウンスが流れると、人々の足が止まった。角松もわくわくした気分で夜空を見上げる。尾栗がそんな彼をいとおしそうに見つめた。
 菊池は本当に、それはもう本当に惜しいと思ったが、気を利かせてやることにした。二人がかかえていたゴミを取り上げると「捨ててくる」と言って立ち去ってしまう。尾栗を睨みつけておくのも忘れなかった。うまくやれよ。尾栗が感謝するというように片目を瞑る。角松が引き止める間もなく菊池は再び動き出した人の波に沿って流れていった。

「なんだ…?雅行のやつ」

 不満と淋しさの入り混じった角松のぼやきに、尾栗は眦を下げた。彼はあいかわらず鈍感で、平等だ。三人の時はあくまで三人で楽しみたいと思うらしい。気を利かせた菊池が知ったら呆れ果てた、しかしまんざらでもない笑みを浮かべることだろう。

「ま、せっかく二人きりなんだ。楽しもうぜ」

 言うが早いか、尾栗は角松の手をとって歩き出した。赤面した角松に、こんなことならホテルでも予約しておけば良かったと囁くと目を丸くして、それでも繋いだ手を握り返してきた。
 ドン、と花火があがった。歓声。
 二人は会場を避けた場所で花火を見上げた。同じように会場からあぶれた人々がいたので二人きりとはいえないが、充分だった。そこにいる人々は二人と同じような仲の良さを見せつけ、周囲にまったく遠慮なく彼らの世界を築き上げていたからだ。

「綺麗だなぁ」

 角松が言った。小学生のような感想だと尾栗は微笑ましくなった。腹の底と大地を震わせる爆音を遠く響かせて打ち上げる花火は、その派手さと比べるとあまりにも儚く散っていく。ぱちぱちとちいさな拍手にも似た火薬の爆ぜる音。花火は次々とちいさな花を咲かせ、夜空を彩って消えていった。一瞬の星たちが網膜を焼く。
 首が疲れてきたのか角松がその場に寝転んだ。花火大会のために整備された土手は草が刈り取られ、濃い土と草の匂いがした。
 その頬に髪に瞳に、色彩の光が降る。音と光はどちらが早く彼に届くのだろうか。角松は気持ち良さそうにそれを浴びている。音が響くたびに光が彼を彩った。

「…何を見てるんだ?」
「花火」

 角松が訝しげに訊く。当然というように答えた尾栗はじっと彼を見つめたままだ。

「康平?」
「うん」
「……ここではダメだぞ」

 睨み付けられたにもかかわらず、尾栗の顔には笑いがひろがった。ここじゃなければいいんだと言って、揚げ足をとるなと窘められる。しかし角松もその気にはなってきているのだ。その証拠に、辺りを覗っている。花火の最中に他人の様子に気を配っている者は、よほどのひねくれ者だろう。幸い周りの者たちは空と自分たちに集中していた。
 指を絡ませる。大きくあたたかい手を愛撫すると、とろりと瞳が潤んだ。きらきらと、花火が映っては消える。尾栗はうっとりとそれを見つめ、ため息をついた。しだいにたまらなくなってくる。

「…もう帰ろうか」

 誘いをかけるが角松はいや、と繋いだ指に応じた。尾栗の熱がそこから伝播したように、体の奥に疼きが拡がっていくのを自覚した。そして、それを弄ぶのを楽しんだ。
 ドン、と花火が大気を震わせる。瞼を閉じるとうすぼけたフラッシュのような光が闇に散った。





 角松は目を開けた。
 覚醒したばかりでぼんやりとした目を彷徨わせる。ここは、と思う間もなく体が揺れた。爆音。しかし花火ではなかった。夏の草いきれは消え、油の匂いが鼻腔を刺す。角松はようやく今自分が「みらい」にいることをはっきりと自覚した。ここに、彼の親友であり情人でもある男がいないことも。
 敵との交戦で、ミサイルが直撃したのだ。
 沈没が免れないと悟った時に、角松は全員に退艦を命じたのである。角松が「みらい」に残ったのは、それが彼に許された最大の贅沢であるからだった。必死で引き止める尾栗を初めとする部下たちに、角松は笑って許せと言った。部下を死なせるのは指揮官として失格だ。だが潔さを見せられるのは、指揮官だけの特権でもあった。なにより角松には、どうしても「みらい」を捨てることができなかったのだ。
 最終点検。取り残された者がいないかを確認する為に角松は「みらい」の中を走り回っていた。思い出のつまった宝箱のような「みらい」を懐かしむ暇はない。かたむきはじめた艦をゆっくり回る余裕はなかった。
 何度目かの爆発で、弾薬庫に引火したらしい。激しく壁に叩きつけられた角松は一瞬にして気を失ったのだった。
 腹の底にまで響きわたる爆音。あの夏の花火を思い出したのはそのせいだろう。それからのことをまで思い出して、そんな場合ではないというのに角松は赤面した。雰囲気に飲まれるとはああいうことをいうのだろう。結局我慢できずに、車まで戻った二人はそのまま体を繋げたのだった。車のワイパーに、先に帰るという旨の菊池からのメモが挟まれていた。邪魔者は来ないとわかったとたん、焦らされた体が突き動かされた。男二人が事に及ぶには狭すぎる密室。花火がどのような終焉をむかえたのか、角松は覚えていない。
 まったく。誰にというわけではないが自分に恥ずかしい。こんな時に。結局俺はそういう男なのかと思うとなんとも情けない。はは。もうちょっとくらいかっこつけてもいいだろうに。
 角松は立ち上がろうとして失敗した。ぬるりと手が滑り、足にも力が入らない。いつのまにか、血まみれだった。

「…くっ……」

 作業服で血を拭い、立ち上がる。もう少しだ。もう少し、見栄を張ろう。艦長として。誰にというわけではないが、あえていうなら、そう――「みらい」に対して。
 向かった先は艦橋だった。
 艦長席に座っている人の姿を角松は今でもはっきり思い出すことができる。その隣が彼の低位置だった。辿り着いた角松はどさりと床に座り込んだ。あくまでも艦長席に座りたくなかった。ある意味でそこは彼の聖域である。座席に頭をもたれかける。全身から汗が噴き出し、指先からゆっくりと冷えていった。
 いつこんなに負傷したのか、はっきりとは覚えていない。肩や腹に衝撃を受けただけのはずだった。爆発によって吹き飛んできた「みらい」の破片かなにかだろうそれが、角松の体を貫いていたらしい。。血が止まらない。どこにどれだけの傷をと確認した角松は後悔した。体は冷えていくのに確認した途端、傷口は焼けるような痛みを彼に訴えた。

「…まいったな……」

 つぶやいた角松は苦笑した。一瞬、ほんの一瞬だけ、退艦しときゃよかったと思ってしまったのだ。生まれてきたことを角松は後悔していない。だからこそ、後悔した。純粋な死への恐怖であった。それを彼は見栄とプライドで押さえつけた。男にはそれが必要だと思い、そんな自分に苦笑した。ひどく照れくさかった。
 揺れ続けている「みらい」の天井を見上げる――そういえば意識して天井など見上げたことはなかった。角松はぽつりと言った。

「おまえひとりで海に沈むのも、かわいそうだもんな……」

 「みらい」は答えなかった。代わりに角松から離れたところで、今までで最大の爆発を起こした。フィナーレのつもりだろうか。やたら派手な音が世界を揺らした。

「キャプテンは昔から船と運命を共にするもの…と言いたいのか?」

 なるほど、だから船は女性に喩えられるのか。納得してしまうではないか、愛する男を身の内に抱きこんだまま果てようとするなど。まさしく女だ。ならば男が逃れられるはずがない。
 角松は目を閉じた。「みらい」は彼が出合ってきたなかで最高の『女』であった。胸を張って言える。だから頼む。逃げ出した男、自分の部下たちが、彼女の怒りに巻き込まれずにどうか無事に誰かに、敵であった者たちでも構わないから引き上げられますように!ただそれだけを願った。
 そして「みらい」は瓦解した。爆発によって開いた穴から容赦なく海水が入り込み、彼女の体を食い破り、飲み込んでいく。「みらい」は大きく傾いて軋みと唸りをあげた。ただ見ていることしかできない男どもを嘲笑うかのように。愛する男が自分の中で死んでいくのを歓喜するように。すべての者を畏怖させる断末魔をあげた。






 ふいに、肩を叩かれた。

「洋介、よーすけー?」

 聞き慣れた、しかし場違いに陽気な声。角松は重い瞼をこじあけて声の主を見た。霞む視界になぜだか見慣れた男が映る。笑っていた。いつもの見慣れた、どこか諧謔さを感じさせる笑みだった。
 康平、と呼んだが、声にならなかった。くちびるが動いたのかどうかもわからない。意識だけがゆらいでいた。
 尾栗がいる。ただそれだけで角松は安堵した。心の底から安心しきった、どこまでもやわらかい笑みを浮かべた。尾栗がはにかんだように笑い返し、角松をそっと抱きしめた。角松は力の抜け切った頭をそっと彼の胸に寄せた。つもりだった。実際に動いたのかどうかはわからなかった。冷えた体に染み込んでゆく尾栗のぬくもりをただ感じていた。ふわりと体中を撫でられる。そこかしこが痛いというのに、喉を鳴らしたくなるほどの心地よさ。時に乱暴に残酷に器用に動く男の指が今は羽のようなやさしさで角松を包んでいた。

「洋介、眠いのか?」

 角松は応える代わりに力を振り絞って頬を手のひらに押し付けた。なにも怖くなかった。体の感覚が消え、意識すら闇に落ちていこうとしているのに。

「……花火、終わっちまったな」

 いとおしげな声が、終わりを告げた。