甘いのはお好き





 スーパーでどっきり。なんて、あるわけないと思っていた。

「あれ、洋介くんのお父さん」
「拓海です。先生、お買い物ですか」

 スーパーに来ているのだから買い物に決まっている。マヌケなことを聞いてしまった。角松先生はにこにことうなずく。買い物カゴの中には男性が買うにはちょっと照れるようなお菓子の材料が入っていた。小麦粉、バター、生クリーム。そして砂糖。

「…お菓子作りなさるんですか」
「…ああ、趣味というかなんていうか…」

 珍しくはっきりしない言い方だ。ちら、と草加を伺いまあいいかとでもいうようにため息混じりに小声で告げた。

「ストレス溜まると甘いものを作りたくなるんです」
「作るんですか、食べるほうではなく?」

 そうなんですよね、と彼は照れくさそうに苦笑した。作っていると集中するのでストレスの解消になる。食べるのは二の次。
 なぜ菓子類なのかというと、子供は目の前で料理、とりわけ菓子を作ってやると喜ぶのだ。店に並んでいるようなケーキなど、魔法を見るように顔を輝かせる。加えて菓子に混ぜ込んでしまえば苦手な野菜を食べられる子も多い。菓子作りのスキルはあると便利なのだった。
 照れくさそうに言った彼は、それから甘えるように草加を見つめた。

「…ところで拓海さん、甘いもの、お好きですか?」

 草加が即行でうなずいたのは、いうまでもない。