プール開き
プール開きのお知らせ。そうプリントされた用紙にもう一枚、保護者の皆様へと書かれた紙が追加されていた。
「夏になると水の事故が増えるので、その予防と対処法の講習会です」
服を着たままの水泳教室と、溺れた時の救助と応急の方法。たしかに学んでおいて損はない。
「特にお父さん方には参加をお願いしています」
「…………」
プリントを持ったまま渋い顔で固まっている草加の顔を、角松が不思議そうに覗きこんできた。暗い声で白状する。
「…私、泳げないんです」
「だったらなおさら参加してください。子供が溺れてからでは遅いんです」
もっともだった。
草加に下心がまったくなかったなんて綺麗ごとはいわない。むしろ下心がなかったらわざわざ泳げもしないのに近づきたくないプールになど来ないだろう。先生の水着姿が見たかったのだ。
「30分休憩です」
しかし今日はただの水泳教室ではなかった。
講師役の角松も当然プールに入ったが、その他の保護者と同じように衣服を着ていた。休憩を告げて薄手のパーカーを脱いだものの、その下にはTシャツを着ている。他の先生方に何事かを言って、プールを後にしてしまった。
草加は息子と一緒にいる子の父親に声をかけて、さりげなく角松の後を追いかけた。向かった先は更衣室やトイレなどの入った建物なので、誰も疑わないだろう。
更衣室に入った角松はよもや草加が覗いているなど夢にも思わず、大胆に脱いでいった。脱衣棚にパーカーを置いてTシャツを脱ぐ。カーゴパンツの下には水着を着用していたが、それもやはり彼は脱いだ。
タオルで体を拭いている角松の肌は日焼けの痕がついている。腰から下、白くて丸い、引き締まった双丘が草加の網膜に焼きついた。
濡れたものを無造作にビニール製の鞄につめた角松が新しく取り出した服を着始めた。
ぼうっとその姿を見ていた草加はようやく我に返った。今の状況はまるっきり痴漢そのものである。冷えていたはずの体が嫌な感じに汗ばんだ。角松が女性であったら言い訳のしようもない。良かった、男で。おかしなことに草加は角松が女性であったらと思ったことが一度もなかった。むしろつい今しがた見たたくましい体を組み敷き、喘がせたいと淫らな欲を抱いた。
休憩を挟んで、次は救急救命だった。乾いたシャツと半ズボンに着替えた角松が講習をしている。暑さのためだろう、前ボタンが2つ、外されていた。
彼が屈むたびにちらりと垣間見える鎖骨の窪み。ごくり、と草加は咽喉の渇きを覚えた。