一周年企画は根性の悪いことに条件つきでした。
『まず、「熱く」語ること。
「こんな感じで」という、萌えシチュエーションを400字以上で。
加えて、なにかひとつセリフをいれること。』

以上の条件にさらにその萌え語りを発表します、といってありました。

スプー99さんのリクエストです。(反転してください)

草×松です。
菊池、角松が一緒にいるシチュエーションで、草加のことが気になる角松、という構図が見たいです。角松の仕草で草加のことが気になっている所が菊池にはよくわかる、みたいな。
草加のかっこよさも強調されるとなお一層萌えます!草加のかっこよさって何?と言われると即答しかねるのですが、あのわが道をすすむ不思議っぷりに惹かれて振り回されてしょうがない角松の姿が見たいです。で、惹かれている自分に「やばい、やばい!」と焦りながらも草加が気になる角松が…萌えです!
草加の気持ちとかはよく分からない感じがいいです。あくまで角松が草加が気になる!というシチュエーションが見てみたいです。
それを取り巻く環境で、菊池は親友で、そんな角松のことを純粋にはらはらして心配している、というのが今回は見たいです。親友の幸せを願ういいやつ、菊池、も萌えです。
尾栗ならスマートにフォロー入れる姿が想像しやすい上、読んだりしたことがあるのですが、菊池も親友としていいやつだ!!というのが草加の周辺で見たいです。
で、”頼りになる菊池”がたまには見たい!です。

萌え台詞
草加の言葉で「そんな所、好きですよ」と角松に言って角松を照れさせてほしいです。



これをいただいた時に、まず困ったのが「頼りになる菊池」でした(笑)。想像できなくて。
リクエストどおりになっているかどうか不安ですが、スプー99さん、受け取ってください。
この作品はスプー99さんのみお持ち帰り可です。










                                                      花が散るように





 海の上に交番はない。
 ゆえに艦は艦長を頂点に、すべての人々が規律に従い仕事をこなして生きている。
 おとしものは警察へ。
 そんなルールは地上だけだ。拾った者が責任を負うしかない――たとえそれが取り扱い要注意であったとしても。

「…楽しまれている気がするんだ」
「何が」
「草加。あっちこっちウロチョロして」

 デパートのおもちゃ売り場の子供状態。ぼやく角松に菊池は苦笑した。たとえが微笑ましいのは平和ボケか。
 資料室と医務室を行き来するだけだった草加は、怪我が治ってきたとたん「みらい」を歩き回るようになった。海軍だけあって艦内に特に用事のない者はそこにいるだけで邪魔であることくらいはわきまえた行動をしているようだが、目障りなのには変わりない。加えて守秘義務といったややこしい問題もあいまって、草加の放浪に角松は頭を痛めていた。かといって角松が四六時中つきそっているわけにもいかないし、軟禁するのも今更だ。
 しぶい顔の角松に、菊池は思うところがあった。話していいものかどうか迷う。自分の考えはあくまでも憶測にすぎないのだから。ひょっとして、という話。しかも内容が、彼にしてはどうも子供っぽい。平和ボケも極まれりか?だがあの海軍少佐に平和というのはいかにも不釣合いだ。

「…雅行?」

 何か言いたげな菊池に、角松が言えと催促する。菊池はわずかなためらいの後、言った。

「仲良くしたいと思ってるんじゃないか?」
「草加が皆と?」
「…いや、おまえと」
「俺限定?」

 菊池はうなずいた。艦内をうろついているのなら乗員たちと、と思うのももっともだが、草加の行動は角松が探しに行くことを前提にしている。かくれ鬼のように。
 仲良くなる方法にはいくつかある。単純に同じ時間を過ごすことが多ければ、自然と親密さは増していく。学校で出会い、10年以上つるんでいる自分たちのように。だが短時間で親密になることだってある。相手のことを考え、互いの理解を深めていけば、時間など関係ないだろう。菊池の言い分に、角松はまんざらでもなさそうな顔をしたが、納得はしていないようだった。草加が角松と親しくなってどうするつもりなのかまではわからない。菊池はつられたように、しぶい顔をした。



 草加が最終的に落ち着くのは甲板――海だ。角松はこの数日でそれを学習したが、早く捕まえたほうがいいことに変わりはなく、地味に聞き込みをしつつ捜索をするのを日課にしつつあった。
 仲良くなりたいのではという菊池の推測はともかく、こうしている間に草加のことを考えているのは確かだ。ヤツの思う壺にはまっているのかと思うとどうも癪にさわるが、角松は捜すのを止めなかった。
 草加が海へと辿り着く前に、見つけ出さなければならない。そんな焦燥にも似た思いが角松を急かしていた。
 しかしその日、結局見つけたのはやはり海であった。

「…草加」

 手すりに体重をあずけ、海を見ている草加に、角松はわざとキツイ口調で呼びかけた。草加はちょっと気まずそうな、はにかんだ笑みを浮かべた。
 この瞳が嫌だ。角松は思う。草加が甲板へ行く前に捕まえなくてはと焦るのは、この瞳を見るのが嫌だからだ。それならまだ、いつもの何を考えているのか読ませないアルカイックスマイルのほうがマシだと思える。それはそれで腹が立つが、今のように奥底で何を見ているのか知るのが怖ろしいと感じさせる瞳よりはいい。
 何をそんなに不安に思うのか、角松は自分の心に戸惑うばかりだ。そして草加はそんな自分をお見通し、とばかりに海に向かっていく。誘うように。

「…鯨でもいたか?」

 角松は草加の隣に立った。隣ならば顔をつきあわせなくても会話を続けられる。

「いいえ」
「じゃ、何してたんだ」

 ひとりで。海を眺めながら考え事をするのは角松も好きだが、毎日艦内をうろついてゴールが海、というのに何の意味があるというのだろう。

「あなたがむかえに来るのを待っていた」
「…なんだ、それは」
「むかえに来てくれる人がいる、というのは、いいものだな」

 夕方のおむかえを待つ、幼稚園児か。角松は脱力しそうになる。
 待っていてくれる人はいる。草加にも、当然誰かがいるだろ。家族や友人、仲間。陸で彼の帰りを待つ人が。しかし彼らは決してむかえに来てはくれない。ただ待つだけだ。
 それくらいは割り切らなければ艦上勤務にはつけない。草加の言葉は真実だろう、だがすべてではない。ならばなぜ、そんな瞳で待っているのだ。角松は口を開きかけ、止めた。自分の懼れている部分に触れる気がした。
 変わりにちいさなため息をひとつ。

「…じゃあ艦内に戻るぞ」

 ごはんよ、と呼びかける親のような声。それに逆らえるものは滅多にいないだろう。草加はふっと彼を見た。くちびるの端がわずかに持ち上がるのが視界の隅に見えた。淋しげな笑み。

「…訊かないのだな」
「…………」

 草加は海へ目を転じた。角松が促しても、足が貼り付いているかのように微動だにしない。
 仲良くしたい?どこがだ。角松は心の中で菊池に反論する。コイツはそんなもんじゃないぞ、と。ヤバイ、危険だ。わかっているのに惹きよせられる何かをコイツは秘めている。その瞳の奥で見つめているものを、気づきたくないのに。

「大丈夫だ」

 草加が言った。角松は自分が呼吸を忘れて草加を見つめていたことに焦りを覚えた。

「…あなたがむかえに来てくれる」

 そっと角松の腕をつかんだ、草加の手はわずかに震えていた。



「あんまり係らないほうがいいと思うな」
「そういうわけにもいかんだろう。保護責任者が」
「問題は、草加がおまえを保護者として見ているかどうかだ」
「…違う、と言うのか?」
「さあな。俺は草加じゃない」

 そっけない菊池に、角松は眉をしかめた。しかし言い返しはしない。そもそも菊池は草加を助けるのに反対したのだ。だからといって元の場所に捨ててらっしゃいとは菊池も言えない。なんせそこは海の中だ。
 角松の中にある、草加へのわだかまりを、自分にどうにかできるわけでもないだろう。菊池はそう思っている。角松は肝心なことを他人には語らないのだ。親友である自分たちにさえ。必要な時に言葉を惜しむことはないが、角松は無言で実行することで、部下に示す。そして部下に考えさせるのだ、答えは自分で求めるしかないのだと。

「…だが、だからこそ言えることもある。忘れるなよ、洋介、草加は戦争をしている軍人だ」
「…わかっている」
「ならばわかるだろう、軍人は保護者の必要な子供じゃない」

 菊池は言い切った。草加のなにが角松にそのような感情をもたらすのかなど知ったことではないが、部下として親友として、力になるのが自分の役目であると彼は思っている。
 角松は曖昧に笑ってみせた。彼にも自分が何故草加を子供のように捉えているのかよくわかっていないのだった。守ってやらなくてはという庇護欲ではなく、どこか憂鬱な気分になってしまうのはなぜなのか。その瞳で本当はなにを見ているのか問うことができないのはなぜなのか。わからない。理性がそれを拒んでいた。わからないことを放っておくのは好きではないのにわかりたくないと思うのはなぜなのだろうか。



 草加はこの日、資料室にいた。角松は意外さを隠さずにパソコンに釘付けになっている草加を見つけた。さらに驚いたことに草加が見ていたのはこの時代の資料ではなく、デスクトップ画像だった。それは角松の知っているシンプルなものではなく、華やかな花束の写真に代えられていた。

「自分で代えたのか」
「ああ…適当にいじっていたら変更されてしまったのでな。どうやってやるのか試してみたのだ」

 壁紙やスクリーンセイバーは初めから入っていたものもあるし、乗員たちが趣味でインストールしたものもある。見ていて飽きなかったのだろう。

「こういう花が好きなのか…」

 パソコン画面には角松の知っている名前の花と知らない名前の花が飾られている。とくに感心なさげな角松に、草加は答えた。

「艦内に花はないのでな」
「………?」
「花を手向けたい、と思ったのだが…」

 誰に、とまで言わなくても理解できる。彼が飛び立った後も攻撃を受けた、艦の死者たち。
 グラフィックは機械の中でこそ美しいが印刷すればまるで別物になってしまう。方法を教えてもらっても、どうしても違和感はぬぐえない。

「…情けない」

 角松は内心でため息をつく思いだった。絆されているのだろうか。しかし戦場で散っていった戦友を偲んでいる草加を冷たくあしらえるほど、彼は戦争に慣れてはいなかった。そして、靖国で会おうがどれほど虚しいことかを知っていた。

「花にこだわらなくてもいいんじゃないか?」

 どのみち死者が蘇ることはないのだ。そして死者は何物も受け取ることができない。手向けはいわば生きている者の慰めだ。心が込められているのなら、形は関係ないだろう。
 角松はコピー用紙の束から色のついたものを選ぶと、びりびりと破りはじめた。なにを、と呆気にとられた草加におまえもやれと目で示す。草加は彼と同じように色紙を抜き取ると、そっと破っていった。
 やがて一片が爪ほどになるころ、草加も角松のやろうとしていることがわかってきた。理解の目を向けた草加にうなずいて、もくもくと破いていく。
 2人は甲板に出た。
 角松は辞退したかったが、草加に見届けて欲しいと言われればそれ以上拒む理由がなかった。時折強い風が吹き、手の中から紙片をさらっていく。
 草加が両手を開いた。
 それを待っていたかのようにひときわ強い風が行き過ぎざまに紙吹雪を舞い上げる。一瞬の花びらが虚空へと消えていった。草加がなにかをつぶやいたが、角松には聞き取れなかった。
 草加を見ていたのは、そう、怖いもの見たさというやつだ。角松は自分にいいわけをした。角松は草加を見ていた。その瞳に宿っているものを。
 ああそうなのか。ふいに角松は納得する。闇に消えた残像を追っていた草加が振り返る。物憂げに笑った。
 その瞳を知っている。もう随分昔のことだ。まだ角松洋介が子供だった頃。
 あれは初夏だった。
 汗ばむ日差しのなかを、目的は忘れたが歩いていた。海の歓声が遠くから聞こえていた。
 緑のあぜ道に零れたインクのような黒。ツバメが落ちていたのだった。
 おそらく巣立ったばかりだったのだろう。カラスにやられたのか猫にやられたのか、燕尾の体は傷ついていた。近づいていくと脅えて空を飛ぶことのできなくなった翼を力なく羽ばたかせる。好奇心にかられた子供が手のひらに収めると、ツバメは暴れるのをやめた。
 手のひらの中のぬくもりと、ちいさな鼓動は不思議な感動だった。そして、なによりも子供を惹き付けたのは瞳であった。泣いているかのように潤ませて、そのちいさな生きものはひたむきに何かを見つめていた。子供のちいさな手の中で。
 やがて、ツバメは鼓動を、すべての生命活動を停止させた。
 あの瞳だ、と角松にはわかっていた。あの時子供の自分を感動させ、今懼れさせているもの。
 死を見つめている瞳。
 諦めと悟り。もがき、生きのびることを捨てて、ただ自分に訪れる死を見つめている。
 菊池の言ったとおりだった。この男は危険すぎる。あの時、助けるべきではなかった。後悔ではない、もっと漠然としたものだ――死にゆく運命は変わらなくても、ツバメをそっとしておくべきであったと角松洋介が感じたのと同じ感慨である。そして、子供が手にとらずにはいられなかったように、彼もまた草加を助けずにはいられなかったのだ。同じ場面に遭遇すれば必ず繰り返す。禁忌に触れる予感を孕みながら、角松は草加を見ずにはいられない。

「…角松二佐」
「なんだ。…また泳いででも仲間のところに行くって言うんじゃねえだろうな」
「そう…言ったらどうするのだ?」
「おまえこそ、」

 角松は言った。挑むように睨み付ける。草加はツバメではない。生きる為の活動をその体はしているではないか。ならば。

「どこまでむかえに行かせるつもりだ?」

 草加は角松を捉えた瞳をまぶしげに眇めた。虚ろであったそれに欲望が灯ってゆく。草加は言った。

「世界の果てまで行っても、あなたはむかえに来てくれるのかな」
「その時は覚悟しておけ。こんな所まで来させやがって、とぶん殴るだろうからな」

 冗談ではなかった。実際に世界の果てなんぞに行かれたら(そこがどこなのかは知らないが)辿り着くまで一苦労どころではないだろう。一発殴らなければ気がすまない。もっとも、行こうとした時点ですでに殴っている可能性が高いのだが。
 それは御免被ると草加は笑った。角松の拳で殴られたら骨の一本や二本は覚悟しなければなるまい。肩を揺らして笑い、それから草加はおもむろに笑いを収め、言った。…あなたの、

「そんな所、好きですよ」

 瞬間、角松は鳥肌を立てた。草加の瞳から死の匂いは消えていたが、もっとタチの悪いものを彼はそこから嗅ぎ取った。心臓が早鐘を打つ。
 角松が手に取った生命は彼の鼓動を刻み付けて羽ばたいていくつもりなのだ。やがて彼の瞳の中で、生命が消えてゆく瞬間を勝ち取るために。