束の間の休息





 家事と育児のほぼ全般を受け持っている草加が休めるのは、子供から解放されたひとときだけだ。
 とはいえそれが苦かというとそうではなく、むしろ子供の寝顔を見ながらビールを飲むのは至福の一時に他ならない。
 …だが。
 ふう。かすかに酒臭いため息を吐き出して、草加は汗で湿った息子の前髪をかきあげた。眠る子供というのはいつも体温が高くて汗ばんでいる。夏には少し気の毒だ。就寝時にはエアコンを使用しないので、草加はこうして団扇であおいであげる。自分がこうしてもらった記憶が好ましいものであるからこそ、腕が疲れることなど気にしない。
 子供は可愛く、愛おしい存在だ。それに嘘はない。ただちょっと、角松との口実に利用しているのが後ろめたいが、邪魔にもなっているのでプラスマイナスゼロであろう。
 以前なら、角松と出会う前であればこの時間は間違いなく至福だった。他に何かを望むことなど考えもしなかっただろう。なのに今、草加はやるせない淋しさを感じている。
 こんな感情は知らなかった。ひとりではないのに、幸福なのに、淋しいなんて。
 隣に角松がいない。ただそれだけのことが、こんなにもぽっかりと自分の中に穴を開ける。今、彼は何をしているのだろうか。やはりひとりで、草加と同様に淋しさを感じているのだろうか。なんてことのない時間を、つまらないと思っているのだろうか。
 明日は日曜日。幼稚園は休みだ。角松に会う口実などなく、こうして時折、ふとした瞬間にため息を漏らすことになるのだろう。きっと、何度も。
 携帯電話に手を伸ばす。先生、と色気もない登録名を表示させてみるものの、通話ボタンを押すことができなかった。
 会いたいです。
 ひと目見ることも叶わないのなら、いっそ休日なんて、なくてもいいのに。