天使に子守唄を
1.ブラックアウト
なんか最近変なんだよなという角松は、本日桃を持参していた。昨日はメロン、一昨日は近所の人からのおすそわけだという枇杷であった。持ち込んだ食料は皆にも平等に分けられるので誰も文句を言わないが、普段艦内でそういうことをしない角松だけに、誰もがうん副長おかしいよなと角松の変化をいぶかしんだ。
「変なの」
水気たっぷりの桃を実に美味しそうに食べている角松を見た、尾栗の素直な感想だ。角松は好き嫌いなくなんでもよく食べる男だが、どちらかというとボリュームのあるものをがっつり食うことを好んだ。その角松がこのところ果物三昧なのである。
「…だよな」
本人が同意しているのでは世話がない。
「今日飲みに行くか?」
「いや、…やめておく」
そんな気分じゃないんだ。言って角松は首を傾げた。酒を飲む気になれないなんて一体どういう心境の――というか体の変化だ。菊池がやや心配そうに、自分の桃を彼に譲りつつ言った。
「疲れが溜まってるんじゃないか?検査してこいよ」
護衛艦の副長は、それでなくても激務だ。30を過ぎて体力が落ち始めてきた上に激務によるストレスではいくら丈夫な男でも体を壊す。佐官になった者はそのあたりを心得て年に一度は健康診断に行くし、食生活にも気を使う。角松は不満そうな顔をしながらもうなずいた。歳を認めるのは厭なものだ。
「…トシなんかな――…」
ぽつりと零す。いつになく弱気になっている角松に親友兼恋人でもある菊池はいとおしそうに目を細めた。
「…洋介!どうだった!?」
「昨日の今日で結果がでるわけないだろ」
昨日病院で健康診断をうけてきた角松に息せき切ってやってきたのは尾栗だ。自分も同じ速度で来たくせに、菊池は窘めている。2人の様子に角松は力なくくすりを笑った。
「病気じゃないって言われたけど…」
「なんだ、じゃあやっぱストレスが原因か?」
なにはともあれ良かったとホッとする2人に角松は首を振った。どこか呆然としている。
「…洋介?どうし……」
菊池が顔を曇らせた。角松はじっとその顔を見つめ、大きく深呼吸する。周囲に他に誰もいないことを確認すると、今さらのように尾栗にちょっと離れていてくれと頼んだ。その真剣な顔に、尾栗は何も言わずに引き下がる。2人の関係を知っている親友は、2人でしか話せないこともあることを寂しく思いながらも理解していた。声が届かないところまでいくと、壁に寄りかかって見守る体勢をとる。大切なことならば自分にもいつか話してくれるという信頼がそこにはあった。
「洋介…?」
「おめでた、だって」
うっすらと頬を染めた角松を可愛いと思いつつ、菊池の耳は彼の言葉をスルーした。いや、意味を理解しなかった。
「………。は……?」
「だから、妊娠したんだ」
お前の子だ、どうする?言ってみて不安になったのか角松がわずかにうつむいた。菊池はなんのリアクションも起こさなかった。彼の優秀な頭脳は『妊娠』の言葉の意味を検索していた。
「雅行!?」
「おい――…っ?」
そして検索の結果、一件の項目が見つかりました。菊池は意味を悟り、満面の笑みを浮かべた。
そこで、彼の意識は途切れた。
菊池が医務室で目を覚ました時には「角松懐妊」の報はすでに艦内を駆け巡っていたのだった。
2.めざせジパング
すごい量ですね、と男は笑った。無遠慮に体の奥をかき回す指が粘った淫らな音を立てている。自分で吐き出したくせに。羞恥に耳まで赤くなりながらキッと睨んでくる角松に、草加は彼以外の者が見たのであればほれぼれしそうなほどうっとりとした笑みを浮かべた。
「…孕んでしまいなさい」
「……っ、ざけ、…ッな……」
「ねえ…角松さん」
ああ、まただ。また。すでにドロドロになっているその場所に、再び熱が押し入ってくる。指などとは比べものにならないそれから逃れようとし、角松は動かない身体を揺らした。頭上で硬く縛られた手首は傷つき、おそらくは皮が剥けて血が滲んでいるだろう。ひりひりと痛んだ。
「草加…!」
「角松さん…角松さん」
この男は狂っている。激しさを増す律動に強制的に昂ぶっていく身体とは逆に心が冷えていくのを角松は感じていた。わたしのものだと草加が言う。あなたはわたしのものだ。何度も繰り返し。その眼からはぽろぽろと涙が零れていき、角松の頬や胸に降りそそいだ。
まさかの現実を突きつけられた時、角松の心にあったのはひとつの決意だった。青褪めた角松に心配そうな顔をしてどうしますかと尋ねた医者に、即座に産みますと答えていた。父親が誰でどのような経緯で授かったものであれ生命は生命だ。角松に殺すことはできなかった。
誰にも、特に父親である草加には絶対に知られてはならない。角松は極力普段と変わらぬ生活をしていたが、それでも親友2人と艦長にはすぐに気づかれてしまった。
「産むって、お前…」
父親が誰なのか、角松は口を割らなかったがそれがかえって3人に悟らせた。望ましい行為の結果ではないことも。憤る菊池を梅津が宥め、尾栗は意固地になっている角松を解きほぐしにかかった。笑顔がぎこちなくなったのはしかたのないことであろう。
「生むんだったらな、もうちょっと身体をいたわれ」
ハッと角松が顔をあげた。
「反対はしねぇよ。皆だってそうだと思うぜ?アイツのことはムカつくけど…お前は俺らの副長だからな」
皆で育ててやるよ。「みらい」が母親で、俺らがパパだ。な?当然のように駆け巡る草加への憎悪と未来への暗い予想をあえて振り払うように尾栗は笑った。
「…まあ、明るい話題には違いない」
やれやれと梅津が苦笑する。絶対に反対されると思っていた角松は、ここにいたってようやく安堵したのか、張り詰めていた糸が切れたように意識を失った。
草加に知られてはならない。けれど知らせないわけにもいくまいと梅津に説得される形で角松は草加を呼び出した。呼び出された草加はあいかわらずの冷笑を浮かべていたが、角松が懐妊を告げるとそれが崩れた。
「…本当ですか?」
驚愕と疑惑を顔いっぱいに浮かべる草加をなるべく見ないように角松は本当だと答えた。
「それ、で……」
「産む、つもりだ」
草加に言うのを最後までためらったのは、この男がどういう行動にでるか予想がつかないからである。自分ひとりならまだいい。だが自分の腹にはちいさな生命が宿っているのだ。まだ本当に微かな息吹。乱暴にされたら消えてしまうかもしれなかった。たとえ父親が草加であっても、いとおしいことになんら変わりはないのだ。
草加は苦々しいものを飲み込んだような顔をしている角松から視線を下ろして彼の腹を見た。守るようにそこに置かれた手がスクラムを組んでいる。あの浅ましいほどの交わりで、本当に。
「角松二佐…」
草加がそっと抱きしめると、角松の肩がビクッと跳ねた。
「…角松さん!」
「うわっ!?」
角松より痩身の身体のどこにそんな力があったのか、草加はひょいっと彼を持ち上げた。あわてた角松が草加にしがみつく。草加は歓喜を爆発させた。大声で笑いながら角松を抱えてくるくると回る。何事だと「みらい」メンバーが飛び出してきた。2人の邪魔をしないように(もちろん角松に何かしようものなら助けるつもりで)見守っていたらしい。
「やめろ、草加っ」
「あなたと子供のために、必ずやジパングを実現させてみせます!!」
「だからそれをやめろ、草加ぁ!」
笑いながらとんでもないことを誓う草加に、ああコイツは本当に俺が好きなんだと角松は思った。
3.Proud of you
洋介、と語尾にハートマークすらつけたような声色で夫が夜の営みを強請ってきたのを、妻である角松洋介は拒絶した。
「…洋介」
今度はやや不満そうに再チャレンジ。だが断固として拒否する妻に一大事!とばかりに尾栗康平はベッドから起き上がった。
「具合が悪いのか!?」
角松は横になったままで首を振る。よほどのことがなければセックスを拒まれたり拒んだりすることのない、円満な夫婦に訪れた危機かと尾栗は焦った。
「洋介…」
「…赤ちゃん、できたかも」
「……は?」
呆然とした表情と声をもらした夫に、くすりと微笑して角松も半身を起こした。
「ほ、ほんとか?」
「たぶん。ここんとこ調子悪かったから…もしかしてと思って市販の検査キットで確かめてみたんだ」
今朝のジョギングでは途中で体調を崩し、真っ青な顔で隣人にタクシーで送られて来た。それを思い出して尾栗は勢い込んだ。なにより心当たりなら充分にあるのだ。そしてずっと望んできたことでもある。
しかし、いざ現実になってみるとどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
「明日、病院行ってくる」
「お、俺も行くぞ!」
尾栗がなぜか力いっぱい張り切って言った。角松は言ってすっきりしたのかにこにこしてそんな夫を見つめた。
病院での結果は6週目。
本人たちはもちろんのこと、周囲も大喜びだったが、若干の例外も存在した。出産予定日と仕事の調整をはじめた角松への風当たりが強くなったのだ。尾栗と角松が結婚した時にもいろいろと言われたものだったが、長年子供ができなかったから親友の延長のようなものと思われていたらしい、油断していた。あからさまではないものの尾栗まで非難の対象となったことで角松の機嫌は急降下した。ついでにストレスは上昇傾向にある。
「気にすんなよ」
「わかってる…が、腹が立つ!」
「イラついてるなー…。もしかしてそーゆーのも悪阻なんじゃないか?」
「これがか?」
「人によってイロイロあるって本にも書いてあったし」
妊娠が確定した直後、本屋に直行して出産についての本を大量購入した2人である。なんといってもなにもかも初めてのことで、不安も心配も山のようにあった。
「好きなだけ怒っていいからな。いつだって俺がついてる」
「康平…」
尾栗は角松に抱きつくように胸に顔をうずめた。常に隣にあり、慈しんできた身体に、自分たちの遺伝子で作られた新しい生命が宿っている。不思議で、心の底からくすぐったくなるような嬉しさをともなったあたたかな気持ちだ。
「あーどうしよ。今すっごいお前のこと抱きてー」
「………。コラ?」
グリグリと頭を胸に押し付けて、尾栗がぽつりと言った。さっきまでのほんわかとした雰囲気をだいなしにするあからさまな要求に、角松は彼の髪の毛を引っ張った。
「控えろって言われたばっかりだろ」
安定期に入るまでは夜のほうは控えてくださいね。ありあまる体力を発散するかのように毎度激しい行為を繰り返されている妻を気遣って、医者は夫に釘を刺したのだ。
「わかってるけどさー…」
言いつつも尾栗は手を動かして角松の身体をまさぐった。慣れた体はすぐさま反応を起こすが、角松は最後まではと拒否をしめした。
「…これで双子になったりしないかな」
もっとも、それを尾栗が聞き届けたかは定かではない。
4.大歓喜
妊娠したと告げた時、如月克己はおおむね角松の予想通り顔色ひとつ変えることなくそうかと言った。
予想はしていたものの、なんの反応もないのは腹が立つ。それだけか?お前の子だぞ。いわば共同責任であるのに知らない顔をするつもりなのか?悪阻もあいまって落ちた食欲に、角松はイラついていた。
「……っ」
「ならば、酒はやめておいたほうがいいな」
父親なんだから、とさすがに怒鳴りつけようとした角松に先んじて、如月が真剣な顔で言った。吸い込んでいた息が行き場を無くす。
「何ヶ月目だ?」
「ろ、6週目…」
6週?如月は驚いたのか聞き返した。ずいぶん早くわかるのだな。妙に感心している。
時代の差とはすなわち技術の差でもある。60年前の日本にはまだエコーなどあるはずもないし、発見が遅ければそのぶん流産も多かった。角松らの時代は週で数える胎児の成長だが、如月たちは月単位である。
「悪阻はあるのか」
「ああ。ひどいもんだ、ロクに食えない」
まず香りの強いもの、味付けの濃いものがダメになった。金曜恒例のカレーなどもってのほかだ。食べる以外の楽しみなどほとんどない艦乗りにとって、これほど辛いこともないだろう。
「果物とかスープとか…あと、甘いものならなんとか入る」
悪阻で味覚が変わるとはよく聞く話だが、これほど劇的なものだとは思わなかった。この時代ではいわば贅沢品に入る部類のものばかりしか食べられないので料理担当が四苦八苦している。角松のぼやきに如月はそうかと思案して、いつものホテルではなく一軒家へと角松を案内した。数ある滞在用の家のひとつだという。管理は他人任せだが、如月がくることを事前に伝えてあるので邪魔はこない。
「夕飯は俺が作る。あんたは休んでいろ」
狭いが清潔の保たれた和室に座布団を敷き、さっと茶をいれて如月は買い物へと出て行った。なんだか如月らしいようならしくないような態度に角松は首をかしげた。もしかして、と思う。それは、如月が帰ってくると確信に変わった。
如月は両手に果物を抱えていたのだ。
「如月、…もしかして浮かれてるのか?」
「なにを言っている」
あたりまえだろう。嬉しくてどうにかなりそうだ。如月はどこか怒ったような口調で言い切ると、割烹着を身につけて台所に陣取った。不思議な光景だが、それが妙に似合ってしまっている。
ほぼ果物の夕食を終えると、きちんと正座した如月が言った。
「明日、梅津艦長にお会いしに行こう」
「え……」
「それから両親にも会ってほしい」
順番が逆になってすまない。あくまでも如月は真剣だ。
順番。それってもしかしてそういうことなのだろうか。翌日海軍の第一種軍装に身を固めた如月は「みらい」の士官室で梅津と面談した。士官室には角松をはじめとする主な士官たちが集まっていた。
如月は緊張しているのかよくわからない態度で彼らに敬礼し、梅津に頭を下げた。今まで日本海軍の将校といえば夢の国へ突っ走る男とか傲岸不遜なクラスヘッド、あるいは歴史的有名人ばかりだった「みらい」にとって、如月は実に新鮮だった。角松が選んだ特務中尉はまことに礼儀正しく文句のつけようがないほどである。できることなら角松二佐には艦を降りてもらいたいのだが無理のようなのでどうかくれぐれも気をつけてやっていただきたい。私もできるかぎりのことはします。下艦の言葉にそっぽを向いた角松に苦笑して、梅津はもちろんだよと請け負った。
「…なあ、如月中尉ってもしかして子煩悩?」
その後、角松が如月の両親に挨拶をすませた後のことである。補給の荷とともにドカンと大量にとどけられた如月家からの支度品に(主にそれは食料だった)眼を丸くした尾栗が言った。
「そうかも。この間帰った時なんてさ、」
角松の妊娠もあって「みらい」はほぼ休戦状態になっている。基本的に角松は「みらい」に常駐しているが、医者に見てもらう時ばかりは如月とともに彼の家に帰っているのだ。そのときのこと。
如月はきわめて真剣な顔で、角松の腹に耳をあてた。この段階の胎児は豆粒大で、心音はまだ聞こえないと説明すると、それはもうおっかなびっくりまだ膨れていない腹をそおっと撫でた。
そして彼は言った。
「2人目は俺が産む」
5.奇跡の人
「妊娠!?」
念のためにと行った舷一郎の健康診断の結果に、大声をあげて仰け反ったのはなにも孫市だけではなかった。舷一郎の2人のきょうだいはもちろん、雲井も驚いたし、彼を診察した医者ですら驚いていた。診察を受けた本人はいうまでもないだろう。
「妊娠…って、できるのか?」
当然の疑問だった。いくら2人のきょうだいとそういう関係があるからといえ、男の舷一郎が懐妊するなどということが、生物学的にありえるのだろうか。医者も冷や汗をぬぐいつつ、まったくないとは申せませんと答えた。現に目の前の舷一郎の腹では胎児が育ち始めているのだ。
「…で、どちらの子だ」
額に青筋をうかべた孫市は努めて冷静を装って尋ねた。彼の気分はなんというか――愛娘をならず者に寝取られてしまった父親のそれに似ているだろう。
「2人の子ですよ」
驚きから立ち直った舷一郎はおっとりと微笑んだ。見た者がついつりこまれてなごんでしまうような幸福な顔だった。真正面からそれを見た孫市は苦虫を噛んだような表情を思わずひきつらせてしまった。
「2人のって…」
「そうとしかいいようがありません。…その、思い当たること…は、2人としかしていませんし…」
顔を赤らめて舷一郎が言った。
逆算することは可能だ。3人が避妊せずに事に及んだのはここ数ヶ月で一度しかなく、まちがいなくその時の子供だろう。
「今はそんなことよりも、スケジュールの調整をしないと…」
父親である羽と張も、そんなことはどうでもいいといわんばかりに舷一郎を抱きしめた。雲井がどことなく羨ましそうな顔でそれを眺め、手帳を取り出した。なにせ孫市は、これから柳家という日本でも有数の名家の正当な後継者である舷一郎を、自らのカードとしてフル活用するつもりだったのである。出鼻を挫かれたともいっていい事態だ。
「まさか、産む気なのか?」
きわめて不愉快だ。孫市は苛つきを隠そうともせず吐き捨てるように却下した。
「今、この時点ではタイミングが悪すぎる。堕ろせ」
「な……!」
「なに言ってやがる!」
「なんてことを言うんです!」
羽と張だけでなく雲井まで驚いたように孫市を糾弾した。わずかにひるんだが孫市がそれで軟化するわけもなく、再度言った。羽と張は何があってもいいようにと、舷一郎を守る体勢をとった。
「…当然だろう。君には役に立ってもらわなくてはならないのだ。それを――」
「あなたのために?」
暗い声。ハッとして全員が舷一郎を見つめた。彼は肩をふるわせて言った。
「…自分の子供も守ることができないような人間に…この国を…救う力なんて、ありません」
それはまぎれもない脅迫だった。堕胎させるというのならば孫市に協力はできないと彼は言っているのだった。何の力も持たない舷一郎が、孫市ホールディングスのトップに脅しをかけている。自分の体を使った取り引き。考えて見なくても自分の子を堕ろしてしまった『母』がどれほどの絶望に襲われるのか、想像に難くないだろう。ましてや舷一郎だ。絶望に打ちひしがれた舷一郎に人々がどんな反応を示すのか――孫市に対しどういった行動をしてくるのか、孫市にも読めなかった。彼の影響力にははかりしれないものがある。
まっすぐに孫市を見ていた舷一郎の目から、ぽろっと涙が落ちた。
「舷」
「舷一郎…」
張が額に、羽が手の甲にキスをする。2人の男は舷一郎を守るためならなんでもするだろう。ここで孫市が認めなければ、彼をどこかへさらっていくに違いなかった。
「…わかった。許そう」
孫市は白旗をあげた。ただし、と条件をひとつつけて。
その後、舷一郎の出産・子育てのドキュメンタリーが全世界の日本人に向けて(つまり世界中の人々に向けて)流され、孫市の思惑を遙かに超えて熱狂的な支持を得たのだった。