彼は眼を覚ますと不安そうに視線を泳がせた。「ここだよ」と言うとほっと息を吐く。

「ぼくが怖くないの?」

 そぼくな疑問だった。こんな姿で現れたというのに彼はなぜ安心しているのだろうか。

「君が?なぜ?」

 掠れ声でシャアは笑う。まだ辛そうだった。

「君が私に害を与えられるはずがないだろう」

 と、続いた。信頼されているのか虚仮にされているのかわからない。そういえば、彼はいつもこうだったなと、隣に在った過去を思い出す。彼はいつも口ではぼくを褒めちぎっていたが、瞳は嗤っていた。それでも一度たりともぼくの信頼を裏切ることはなかった。彼のやり方は、見事としか言いようがない。一撃必殺の機会を狙い、そしてそれを逃さなかった。裏切られたのだとわかった次の瞬間、ぼくが反撃を考える時間すらなくなる瞬間まで、彼は待ったのだ。
 だからぼくも初志貫徹する決意を固める。おあつらえむきに、役者もそろった。
 ドン!
 扉が叩かれる。
 ドン!ドン!ドン!
 体をぶつけているのだろう。
 ガチャガチャッ!
 ノブを回している。
 カキ。バン!バン!
 撃鉄の音と、銃声。とうとうドアが壊された。
 完璧なニュータイプ。さあ、あいつの眼にぼくはどう映っているのだろう?

「シャアから離れろ!このバケモノめっ!!」

 バケモノね。
 あいつが銃を向けて、撃つ。衝撃を受けてベッドが振動した。それにあわせて、シャアの体がちいさく跳ねる。
 肩で荒い呼吸をしているあいつが、みるみる赤く染まるベッドに眼を見張る。
 ベッドの上のシャアはぼくを見て、にっこり笑った。

「よくできました」

 あいつの絶望的な悲鳴。そして「彼女」のけたたましい叫び声に、ぼくは消えてゆくのを自覚した。君の幸せそうな笑顔。それが見たかったというのに、それを与えられるのはぼくではなくあいつなんだね。あいつに殺されること、その権利を与えることが、君の望みだったわけだ。
 なんだ――こうなることまで結局君の思惑どおりだったのか?