あふれる涙






ぽたん、と零れ落ちてきたあたたかい水に、シャアは固く閉じていた瞼をなんとかこじ開けた。
体を揺すられて、軋むように痛い。特に大きく広げられた両足が。
もう若くはないのだと自覚するのは厭なものだが、以前に比べて体が固くなっているのは確かだ。こうやって誰かに足を開くのも何年かぶりなのだから、無理もないような気もするが。
およそ今の状態とは関係のないことを考えて痛みを紛らわせようとする間にも水滴は降ってくる。ぽたん、ぽたん、と。

「ア、ムロ……どうした、んだ……?」

自分の体の上に乗っかって無体を強いている男に、シャアは尋ねた。この場合、痛い?という定番のセリフを言うべきなのはアムロで、泣いているのは自分でなければならないはずだ。しかしなぜか逆である。もっともアムロにしてみても痛いかもしれないが―――それは仕方がない。こちらは久しぶりだし、アムロは初めてだというのだ。男とのセックスは。




運良く生き残ってしまった戦いの後、もう誰とも戦うことなく独りで生きていこうとしたシャアに、半ば無理やりついてきたのはアムロだった。
小さな部屋を2人で借りて、自分の名前を捨てて、お金はイザという時のためにシャアが作っておいた銀行の隠し預金を使って、生活をしている。2人が体を重ねたのは自然の成り行きだった。一番近くて一番遠い、一番わかりあいたい相手。

「…あなたの、」

泣きながら、アムロが言う。

「そばで、いきていきたい」

ぽたり、ぽたりと零れ落ちてくるのは体内にまで受け入れた男の感情だった。

あなたのそばで生きていきたい。