なけなしの勇気






人は恋をすると弱くなる。これは予想外だった。そのひとのためならばどこまでも強くなれる、とガルマは盲目的に信じていた。
同室になったもののシャアのガルマに対する態度は実にそっけなかった。ガルマが必死になればなるほど、冷ややかな眼を向けられた。どうしたらよいのだろうと思い悩むガルマのことなど、知ったことではないといわんばかりに。
ザビ家の御曹司では、彼には通用しないのだ。わかっていても生まれたときから「ザビ家の男子として」育てられたガルマには、そうでない自分など想像できなかったし、どう振舞えばよいのかの見当もつかなかった。自分の実力なんて、シャアには及ばないことがわかっているだけに余計に。

バスケットボールのゴールポストを揺らして、シャアがダンクを決めた。
シャアは飛ぶというよりは浮いているかのように、空中に舞い上がる。誰もが見惚れずにはいられない。ガルマはそのなかの単なる一員にはなりたくなかった。

なけなしの勇気を出せ。きっと勝つことなどできないのだから、せいいっぱいのことをやろう。
ガルマは言った。

「勝負しろ!シャア!!」