愛娘



 実に困惑した表情でソレを着込んだ上官を見たとき、ドレンは心底軍を辞めようかと考えた。
 だがしかし、自分が辞めて軍がどうにかなるわけではなく、かえって敬愛するこの上官に忍び寄る魔の手が増えるだけであろうと思うと、そんなわけにもいかなかった。

「なんだって少佐、ドレスなんですか」
「ドズル中将の命令だ。…おそらくなんらかの密命があるのだろう。あの方は真面目なひとだから」

 シャア自身もそうやって自分を納得させているようだが、アンタ騙されてるよと言ってしまいたくなる。真面目なのはドズルだけではない。
 確かにドズルがこういった嫌がらせをするとは考えにくいが、その周囲のものは異例のスピードで出世したシャアに反感や、邪な思いを抱いているものが少なくない。おそらく上手い具合に丸め込まれてしまったのだろう。ありえそうなことだ。
 濃い青を基調としたドレス。首筋には喉仏をごまかすための真紅のレースがまとわりついている。軍人としえは大柄ではないシャアだ。化粧などしていない今でも、

「……よくお似合いで」
「………。そうか………?」
「少佐、くれぐれも、充分に、気をつけてくださいよ」
「ああ、わかっている。なに、夜会くらいで私がへまをするわけがない」

 仕事の問題じゃないんですがね。
 ひらりとドレスの裾捌きもあざやかに去っていく、魚のようなシャアに、ドレンはつい重苦しいため息を吐く。
 おそらく今夜は帰ってこないであろう愛娘を、彼は見送った。






「大佐」一周忌……