その魚を見たのは買い物をする妻を待つ間。ペットショップのショウウィンドウ。真紅の鰭をなびかせて漂う姿は、忘れたくても忘れられない「彼」を思い出させた。
 関わったのは短い時間だった。それでも「彼」は私に、強烈な印象を残した。・・・短い時間、というのは、もしかしたら語弊があるかもしれない。昔から関わってはいたが、実際に接した時間が短かった、というべきだろう。
 じっと魚を眺めてみる。大きな水槽の中には「彼」と、「彼」よりも小さな魚たち。「彼」と同じ種類の魚は、なぜかいなかった。小魚は群れている。
 「彼」もそうだったなと、私は思う。同じ組織に属していても、一人だけ異質なもの。アムロやカミーユにはかたわらによりそう相手がいたのに、彼は常にひとりだった。
 私は彼の孤独に気がついた。手を差し伸べたいと思い、そうしようとしたことも、一度や二度ではない。放っておけない。なんとかしてあげたい。そう思ったのは、父親になったからかもしれない。
 しかし私は、結局何もしなかった。
 一番の理由は、僻みだったのかもしれない。ジオン・ダイクンの忘れ形見。NTのさきがけ。赤い彗星の二つ名。それらはいたって平凡な私にはあまりにも世界が違いすぎた。NTというのならアムロやカミーユもそうだが、彼はアムロほど親しくなく、カミーユほど聞き分けのない子供でもなかった。ひとりの大人だった。独りでも彼は生きていける。だから彼には私の同情など必要ないと。私は群れの小魚の一匹でしかなく、同じ魚で同じ水槽に泳いでいても、彼とは全く別の生き物なのだ。有り体にいうなら彼は私の手には負えないということが、私にはわかっていたのだろう。

「お待たせ」

 ぼんやりと水槽を眺めていると、妻が戻ってきた。あら、ベタを見ていたの、と言う。それで私はその魚がベタであると知った。

「知ってる?ベタって雄同士を同じ水槽にいれると、どちらかが死ぬまで闘うんですって」

 だから一緒には飼えないの。続けられた言葉に妙に納得させられた。なるほど。だから彼らは共に歩んでいくことができないのか。

「どうしたの?ブライト」
「いや・・・それって淋しくないのかなと思って」

 きっとこの次に出会う時が、彼らの。







ブライト語り。
はじめて書いたなあ、そういえば。