×天使
狼男ですとつぶやいた少年は、どことなく哀愁を帯びて見えた。頭に着けられた耳が垂れているせいもあるかもしれない。狼の鋭い牙を未だ持たない少年は、まさしく犬だろう。
ギュネイはちぇっと口を尖らせて、手に持ったパンプキンパイにフォークをつき立てた。そしてふとこちらに視線を流して、目を丸くする。
「………大佐」
ぱくりとそのまま齧り付くあたり、こいつは結構いい度胸をしている。時々、彼はこちらの地位というか立場というか、肩書きを、誤解しているんじゃないかと思うくらい、態度が不遜だ。
「なんですかそのけったいなふわふわは?」
けったいときたか。
ごっくんと飲みくだして、行儀悪くフォークの先でシャアの背中を指す。
「なにに見える?」
「……タカラヅカ?」
ハロウィンを知らないくせに、なぜそんな地球の劇団を知っているのだろうか。シャアは心底ギュネイの育った環境を疑いたくなった。
「違う。悪魔。堕天使だ」
神に逆らい地球に災いをもたらす天使。いつもの赤い軍服の上から背負い込んだ黒い翼をゆすぶって、ぴったりだろうとシャアは笑う。ギュネイはあいまいに笑って、言葉を濁した。
「で、大佐は何をくれるんですか?」
その場をごまかそうとして、ギュネイは手を差し出した。
「Trick or treat…でしたっけ?」
「ああ………」
ごそりとポケットを探ったシャアだったが、あまりにもやる気なさそうなギュネイに気がそがれた。
そして、悪戯っぽく笑う。ギュネイの嫌いとする笑みだ。いかにもなにか企んでいます、というような。案の定、ギュネイはぎくりと顔を強張らせた。
「ギュネイ、その言葉の意味は知っているか?」
「………いいえ」
「お菓子をくれないと、悪戯をするぞ―――という意味だ。…ギュネイ」
私は君にお菓子をあげないから、悪戯しにおいで。
そう言うとギュネイはぽかんと口をあけ、次いでその顔を手で覆ってがっくりとうなだれた。
予想通りの反応に満足してうんうんとうなずき、待ってるよと追い討ちをかけてやると、
「あんたどっちかっていうと堕天使っていうよりペ天使ですよ……」
などという失礼な感想が返ってきた。
ハロウィン後編。
シャアは天使でしょー。良くも悪くも(笑)。
背中で背負うタイプの翼は本当に売ってます。以前某ゲームのキャラのコスプレした時に
試してみたけど、案外重たいので発砲スチロール製の漫画ちっくな羽にしたことが…。
何年前だろ、懐かしい(笑)。