狼にはほど遠い
ネオジオンには変な軍人が多い。
そもそも総帥からしてアレなのだ。あの男のファンクラブといえなくもないこの軍が総じて変なのも仕方がないのかもしれない。いいのかよ、それで。そう呆れながらもそれに染まっていく自分を自覚して、ギュネイは重苦しいため息をついた。そう、きっかけは、自分のたった一言なのだ。
「ハロウィンって、なんですか?」
その言葉に他意はなかった…と思う。近頃の街でとりどりに飾られているカボチャや蝋燭が気になって、ついシャアに訊いてしまったのがいけなかった。なんだお前は知らないのかと問い返され、正直に知りませんと答えたのが運の尽き。それなら今年はお前のために盛大にやろうと楽しげに、しかも自分を口実に楽しもうと企む男を止める事もできずに、気がつけばおかしな格好の―――というか、頭のオカシイ軍人で周りはいっぱいだった。予算をこんなところに使い込んでいいのかという疑問は、おそらく通用しない。お祭りなのだ。楽しむものなのだ。娯楽の少ない軍隊で、いいじゃないかこれくらいと言われるのがオチだった。
「ギュネイ、楽しんでる?」
にこにこと美しい顔に微笑をたたえてやってきたのはナナイだった。手にはパンプキンパイをホールで持っている。
「はあ…」
呆れています、とは言えずにギュネイは曖昧にうなずいた。NT研究所の敏腕所長といえどもさすがは女性、食うのかホールごとと思っていたギュネイは「はい」とパイを渡された。
受け取ったもののどうすればいいのかとナナイとパイとを見比べていると、相変わらずの微笑をはりつかせたまま、彼女は言った。
「ハロウィンは子供のお菓子をあげる日よ。あちこち回ってもらってきなさい」
思いっきり子ども扱い。確かに平均年齢の高い軍内では、ギュネイが最年少だ。
Trick or treat
そう言って回るのよ。そう念を押して、ナナイはさらに一言。
「あなたが楽しまなきゃダメよ」
…コワイ。
暗に、「余計なことを言ってくれたオトシマエをつけてこい」と言われ、ギュネイはこくこくとうなずいた。
「と、ところで所長の仮装は何なんですか?」
ナナイは単に黒いマントを羽織っているだけだった。この会場内では比較的まともだ。
「吸血鬼よ」
夜な夜な血を求めて男を襲う、女吸血鬼。
「……よくお似合いで」
ある意味、ナナイにぴったりだ。誉めているのか貶しているのか、ギュネイは自分でも微妙だった。
「ありがとう。あなたも犬の耳と尻尾、似合ってるわよ」
言うだけ言って、さっさと踵を返すナナイに、ギュネイはぽつりと呟いた。
「……狼男です」
ネオジオンのハロウィン風景。
ギュネイが可愛がられています。(いろんな意味で)