終わってしまった話




 買出しのためにアウドムラを降りるクワトロに、アポリーが護衛としてついていくことになった。
 クワトロとアポリー。どちらかというと強いのはクワトロなのだが、MS戦ならともかく、彼よりも強い者がおらず、かといってエゥーゴの最重要人物となった彼に護衛がつかないわけにもいかず、しかたなく気心の知れたアポリーが選ばれたのだ。

「ま、荷物もちだと思ってください」

 気楽にそう言ったアポリーは本当にそのつもりなのか、クワトロが買い込んだ荷物を手にとった。

「護衛が荷物をもってどうする。いざという時のために、両手を開けておけ」
「だって俺より大尉のほうが強いじゃないですか。いざという時はおまかせしますよ」
「職務怠慢だ」
「そう言わないでくださいよ」

 クワトロは笑ってまた荷物をアポリーに渡した。

「なら、全部持てよ。言っておくが、他の者のぶんも頼まれているから、多いぞ」
「おまかせください」

 そう答えたのをアポリーはちょっぴり後悔した。



 本当に多かった。



 車で来ておけばよかったと思っても後の祭り。隣りのクワトロは涼しげな顔で笑っている。機嫌が良さそうだ。
 対するアポリーといえば汗だくで、息切れまでしている。

「アポリー、すごい汗だぞ」

 誰のせいだよと思ったが、言い出したのはアポリーだ。文句は言えない。もう、
どうでもいいから荷物を降ろしたい。早く帰りましょうと急ぐアポリーを、クワトロは引きとめた。

「アポリー、ちょっと待て」
「なんですかっ」

 くわっとばかりに振り返ったアポリーの頬に、ハンカチが当てられた。ぽんぽんと汗を拭っていく。

「た、大尉!?」
「ほら、じっとしていろ」

 至近距離でクワトロの顔がある。いつものように大きなサングラスをかけているが、これだけ近ければその向こうの瞳が笑っているのがわかる。
 ああ、もう、このひとは。
 これが計算でやっているのではないことがアポリーにはわかった。これがこの人なのだ。ふだんはめちゃくちゃ厳しいくせに、ふとした拍子に優しい。しかもその優しさというのがどこかズレている。フツー男が男にこんなことしないだろうということでも、クワトロは平気でやり、さらに似合ってしまうのが恐ろしい。それよりなにより、ときめいてしまうというのが間違っているとアポリーは切実に思う。ちょっと待て、この人はクワトロ大尉だぞ!?そう自分につっこみをいれてみても、嬉しいものは嬉しいのだ。

「アポリー?」

 小首をかしげる仕草が可愛いなんて、終わっている。何が終わっているのかよくわからないが、自分のなかの何かが終わってしまった事をアポリーははっきりと自覚した。




 やがてアウドムラに戻ってきた二人だが、両手に荷物を抱えてそれでも幸せそうなアポリーと、それがさもあたりまえのようなクワトロに、「女王様と下僕のようでした」と後に目撃した人は語ったという。









これは予想外に受けました。シャアとアポリーの関係って
こんなイメージがあります。