手をつなぐと
そんなに心配なら手綱でもつけておけばいいじゃないですかと言ったのはカミーユだった。外出するたびにトラブルに巻き込まれている厄介な体質の持ち主である自分を心配してくれるのはありがたいが、あんまりしつこく言われると厭味っぽく感じられる。だからそう言ったのだが、相手はそれが良いと判断したようで、手綱どころかしっかり首輪までつけてきた。大いに不満なカミーユに、手綱兼首輪は言った。
「そんなに嫌そうな顔をしないでもらいたいな、カミーユ君」
「別に、大尉が嫌だってわけじゃありません。ただ……」
「お目付け付きで遊びたくない気持ちはわかるが、たまには私の息抜きにつきあってくれてもいいだろう?」
エゥーゴの制服を脱ぎ、私服のクワトロはカミーユと反対に楽しそうだ。
クワトロと二人きりなのはカミーユにしてもたなぼたというか嬉しいのだが、子供じゃないんだから保護者同伴でというのはやはり気に食わない。もっともクワトロはそんなカミーユの心境などお見通しなのだろう。
「大尉も息抜きしたくなる時があるんですね」
そうカミーユが言うと、
「私だって戦争のことばかり考えているわけではない」
不貞腐れたようにクワトロは答えた。
いつだったか、ベルトーチカが言ったことを聞いたのだろう。根にもってたのかと思うと可愛くて、カミーユは笑った。
「それで、どこへ行くんだ?」
「別に…この町は初めてなので、あちこちを行ってみようかと」
「迷子にならんようにな」
「大尉!」
街へ出ると、すごい人ごみだった。地図を片手にぶらぶら歩く。ふと隣りを見ると、クワトロはトレードマークともいえるサングラスを外していた。
「大尉…サングラス」
「ん…。こういう時くらいは外してもかまわないだろう」
前髪をさらりとかきあげる。君しかいないしと言って微笑むクワトロは、だいぶリラックスした様子だ。確かにアウドムラではいつ敵が来るがわからない、緊張状態を常に強いられる。だが、仲間といるより人ごみの中のほうが楽だというのは、カミーユには哀しく思えた。
「こうしてると…デートみたいですね」
だからそんな気分を振り払うようにカミーユは言った。
「デート?」
唐突な言葉に、クワトロはちょっと眼を見開いて思案した。そうして、にっこりと極上の笑顔を向ける。
「じゃあ、手をつなごうか。そのほうが恋人同士に見える」
言うが早いか、クワトロはカミーユの手をとった。
「―――で、その後夕焼けを観に、海の見える公園に行ったんです。そうしたら、そこにいた男の人が写真を撮ってくれたんですよっ。『お似合いのカップルだね』って!」
アウドムラに戻ってきて、カミーユはその写真を高らかに掲げて見せた。写真には確かに金髪碧眼おまけにハンサムな男性と、彼によりそう深い緑色の髪と瞳をもった華奢な体つきの人物が写っている。
写真を見せ付けられたハヤトとアムロはお互いに目配せをし、いっせいにため息をついた。浮かれてくるくると回りの人々に写真を見せびらかしているカミーユをどこか生温い瞳で見つめた。
「なあ・・・これって、どーみても……」
「ああ。たぶんあのひとはわかってやったんだろうな……」
この後どん底まで不機嫌に落ち込むだろうカミーユに、二人は心から同情し、また重いため息を吐き出した。
「これだとどう見ても、カミーユは女の子ね」
そうハッキリ告げたのは、日頃あんまり仲の良くないベルトーチカだったという。
からかわれるカミーユ第二弾(笑)。