?――クエスチョン――





 僕は走っていた。呼吸をするのもやっとなほどの全力疾走。そんなことをしている理由といえば待ち合わせに遅れそうだからだ。たまには待ち合わせて出かけてみませんか、と誘ったのは僕のほう。いつもいつも、あのひととは隠れるようにして会っているから。
 いやそれは正確ではないな、いつもいつも、会ってはいる。ただやはり、仲良くいちゃつくにはギャラリーがいては困るのだ。お互いに。
 僕の大好きなあのひとはそのことを少し後ろめたく思っているようで、スリリングなひとときはそれはそれで楽しいのだけれど、たまには誰にばれる心配も無く、デートをしてみたいという僕の心がわかったようだった。
 いいよ。という返事をひとつ。そして僕らは子供が秘密基地に向かうように計画を練った。
 待ち合わせ場所は賑わいの街中。僕はあのひとよりも早く待ち合わせ場所に着いて、あのひとを待つつもりだったのに、現実はこうして遅刻寸前で走っている。ただちょっと、ショウウィンドウの中の機械に見惚れていただけだったのに。
 クワトロ大尉は美人だ。本人は金髪碧眼なんてよくいるじゃないかと笑うが、それが彼についているというだけで一際際立つ。本人がそう意識していなくても目立つので、声をかけられる――ようするにナンパだ――に引っかかっているんじゃないかと思うと不安なのだ。どうしても消せない年の差は、僕を不安にさせるのに充分だった。大尉が他の男に愛想とはいえ笑いかけているのを見るのは、はっきり面白くない。嫉妬は醜いとは思うのだが、どうしようもない。





 走りに走って待ち合わせ場所に着く。時間はぴったりだった。
 やはりというか、クワトロ大尉はすでに居て、しかもやはりというか、声をかけられていた。――男に。
 自分も男だというのにむかむかとしたものが胸に込み上げてくる。クワトロ大尉は僕に気がついて、今まで男に向けていた『とってつけた』微笑からぱっと嬉しそうな笑顔に変わった。こちらに小さく手を振って、男に何事か言う――なんだか自慢そうだ――そして小走りに僕の前まで来た。

「ぴったりだな、カミーユ」
「もうちょっと早く来るつもりだったんですけどね。大尉がナンパされないうちに」

 刺々しいセリフにクワトロ大尉はくすっと笑った。

「やきもちをありがとう。しかし悪いが、私はああいう手合いのものにはよく声をかけられるのだ」
「………わかっていますよ。これからは、僕が守ります」

 誰にもわたすものかと決意を新たにする。この気まぐれな猫みたいなひとの、僕は騎士になるのだ。手をつないで引っ張っていく。しかし大尉は僕の決意など気にもしていないように、気楽に言う。

「さっきの男に、どんな奴だと訊かれたよ。君のこと」
「………なんて答えたんですか?」
「ん。年下で、我儘で、やきもち焼きで、機械マニアで、私が他の誰かと話しているだけですぐ拗ねる――」
「大尉…馬鹿にしてるでしょう」
「まさか。正直に答えただけじゃないか」

 すると男は呆れかえったあげくに、なぜそんな相手と付き合っているのかと訊いてきた。

「あらためて訊かれると、咄嗟に答えがでないものなのだな」

 ケンカ売っているのか、それともからかっているのか。クワトロ大尉は楽しそうに続ける。

「何故だろうと、私が考えていたら、君は走ってやってきた。私を求めて。君の頭の中は今、私のことでいっぱいだと思うと、嬉しかった。だから私はあの男に言ってやったのさ」

 クワトロ大尉は繋いだ手を絡め、さっき見せた自慢げな笑みを浮かべた。


「――愛しているからだ、ってね」







4000番ゲッター様さえ様に捧げます。
カミクワでほのぼの…というリクでしたが、思っていたよりもラブになりました(笑)!