*この話は「高校球児ザワさん」のパロディです
フォッサマグナ
プロテインという飲み物がある。
粉状のものを水に溶かして飲む、たいして美味しいものではないがスポーツをやる者にとってはおなじみの飲み物だ。筋肉増強・体力増量を手助けしてくれる、たいへんありがたいものである。
「ダマになるんだよなー。どうしても」
専用のシェイカーに適量を入れて、よく振ってお飲み下さい。パッケージに書かれたとおりにやっているというのに、どうしてイメージどおりにならないのだろうか。糖分が多すぎて袋の中で固まっている『粉』に、武藤は苛立ちをあらわにする。ダマが舌の上で溶けるとでろっとした、マックシェイクを生温くしたうえに糖分を倍にしたようななんともいえない味が口いっぱいに広がるのだ。美味しくないというよりは、まずい。これなら粉のまま口に入れて塊をつくり、やわらかい飴状にしてくちゃくちゃ食べていたほうがマシなように思える。しかし飲み物にしてしまったほうが、一気に飲めるし口直しにしやすいのである。何事もそう上手くはいかない。
そんな武藤の愚痴を、チームメイトもうんうんとうなずいて同意した。
「かといって水を多めにいれると薄くて不味いし」
「ミキサーでやったらうまくいくんじゃね?」
「専用シェイカー、役にたたねえな!専用なのに」
結局のところ、自分の好みを見極めて水と粉を入れ、よく振って飲むしかない。武藤はいっそうの力を込め、シェイカーを上下した。
「…洋介」
「んー?」
さて今度はどうかなと武藤がプロテインを飲んだ、その時、今まで黙ってグラブを磨いていた海部がぼそりと言った。
「フォッサマグナ」
唐突なひと言は狭い部室に響きわたり、一瞬沈黙が落ちる。最近野球部で流行しているギャグ『フォッサマグナ』。なにがどうおもしろいのか説明できないというか自分でもわからないところが妙におかしく、笑ってしまうのだ。
「…ぶっ……っ」
案の定、武藤はプロテインを吹きだした。とっさに手で口を抑えたものの、もう遅い。白く濁った、やや粘りのある液体は彼の口元だけではなく、胸や腹まで汚していた。
「か…っ、かずきっ、てめ…、あははっ」
ふいうちを食らった武藤は抗議するが、笑ってしまって言葉にならない。その姿に海部が、海部だけでなく笑って見ていたはずのチームメイトまで息を飲んで凝視している。
「ちょ、あーあ。プロテイン制服にまで飛び散ってるじゃねえか。ぷ…っ、くくっ、フォッサマグナは食事中禁止って言ってあるだろもー、はははっ。ど、どうすんだよっ」
武藤は笑い続けているが、黒い学ランに口から溢れた白濁液が付着している姿はあらぬ妄想を彷彿とさせる。はっきりいって、エロかった。
『ん…っ、かずきのえっちなミルク…おいひぃ…ッ』とまで言う淫らな武藤を思い浮かべた海部は、決意をあらたにグッと拳を握りしめる。
とりあえず、高校球児たちの今夜の『おかず』は決まったようだ。