5:おかえりなさい





「安心する………」

 ようやく三人そろったことに安堵したのだろう。張に抱きついた舷一郎はそうつぶやいた。抱きつくというよりはしがみつくという形になってしまっているのは体格が違いすぎるからなのだが、そのせいかどうにも微笑ましい。
 元気だった?会いたかったよなのど会話の合間にも張の手は舷一郎の体をぱたぱたさぐっている。手になれないスーツの感触だからか単に物足りないのか。とりあえずこの場に当たり前のようにいる公文や雲井らは退出してもらったほうがよさそうだと羽は考えた。二人が本格的にエスカレートする前に。
 しかし、やはりというか、かれらは不思議そうな顔をした。羽はため息をついた。

「…目のやり場に困っても知らんぞ」
「目のやり場って――」

 かれらは反射的に二人を振り返った。そして羽の忠告どおり、目のやり場に困ってしまった。
 舷一郎の足が床についていないのだ。舷一郎の腕は張の太い首に回されており、かれはがっしりと舷一郎の腰に手を回して抱きしめている。つまり。

「………んっ……」

 かれらの想像を肯定するように、甘やかな息が舷一郎から漏れた。さすがに羞恥心を刺激され、公文でさえ気まずげに赤面する。

「義兄弟ってすごいな………」

 あらゆる意味で。
 勘違いした雲井のつぶやきに羽は吹き出しそうになった。よほどのことがなければ今夜は来ないほうがいい。そう再び忠告して、羽はかれらの想像を逞しくしてやった。いくらなんでも、ここまで言えばこないであろう。かれらはその言葉にしばし固まり、そして部屋を出て行った。

「……ふっ………んん………」

 その間にも羽の二人の兄弟たちの抱擁は激しさを増していく。羽も正直混ざりたかったが、邪魔をしては悪い。なにしろこの数ヶ月、張はずっと舷一郎に会えなかったのだから。
 だから羽は、海峡同盟メンバーがいなくなったのを幸いと張が脱がせてしまった舷一郎のスーツをハンガーにかけて、部屋をでることにした。
 ドアノブに手をかけ、そういえばまだ言っていなかったなと振り返る。張はひょいと舷一郎を腕に抱きかかえたところだった。もっときちんと触れるところへ移動するのだろう。

「張」
「ん?」

 邪魔をされたことを怒るでもなく張は立ち止まった。舷一郎はかれの腕の中で安堵している。

「おかえり」

 やっと「家族」が再会したのだ。張は破顔した。

「ただいま」