おもいでばなし





「村越、覚えてる?」

 唐突に達海が言った。
 場所は村越の部屋のベッドの上だ。達海の肢体はまだ熱いままで、声は艶めいて擦れていた。
 村越は彼に水の入ったコップを差し出し、自分も一口飲んで何をですかと聞き返した。達海は機嫌よく笑う。

「俺がおまえに一番最初に言ったこと」
「…………」

 つい眉を顰めた村越に、覚えてるんだーと言ってまた笑う。コップは受け取られず、仕方なくそれをテーブルに置いた。
 覚えている。
 新人の自己紹介が済み、緊張しまくっていた村越の前に立った達海は、今の彼とさほど変わらない何でも楽しもうという好奇心溢れる表情でこう言った。

 ――おまえ、ホントに20代?

 あわれな新人は憧れのひとの第一声にピキンと固まり、達海の性格を良く知るチームメイトはあっちゃーという表情になった。達海だけが飄々とした笑顔であった。
 22です。復活を果たした村越に、老けてんなーとこれまた無神経なひと言を放つ。よく言われます。まじめな顔を崩さない村越がおもしろかったのか、達海が声をあげて笑った。

「なんか、よーやく歳相応って感じ」
「あんたこそ、よく覚えてますね」
「そりゃあね」

 達海が体を起こした。汗は引いたがまだうっすらと欲情の色が滲んでいる。白い肌に目立つ、村越がつけた痕。村越は目を細めた。

「おまえ、俺のことずーっとニラんでたんだもん。ちょっと、怖かった」
「そんなことは……」

 あの時は。
 遠くからしか見ることのできなかったひとと、これから一緒にプレーできるのだと嬉しくて興奮して、緊張していた。失敗しないようにとそればかり必死だった。第一印象を悪くしたくなかったのだ。どうやら逆効果だったらしいが。
 村越が思い出していると、トンと達海の指が額を突いた。

「眉間にシワ」

 むらこしー。眠たげに間延びした声が呼ぶ。おいで。寝よ。村越が素直に隣にすべりこむと、ちいさな薄っぺらい胸に頭を抱きこまれた。

「かわいいな」

 10年たっても達海の発言はとんでもない。さらりと言ってのけると同時に、村越の想い人は眠りについた。