もしも ぼくが いつか きみと であい はなしあえたら、






写真にはうつらない







 ネオジオンの軍人募集のポスターを見たのは、薄汚れた街の片隅だった。
 まっすぐにこちらを見つめる瞳のなんて挑発的なことだろう。こんなところに募集のポスターを貼る軍隊なんてロクなもんじゃない。嘲笑いながらも、ギュネイはそのひとから目が離せなかった。

 なあ、あんたは知っているのかい?オレが探し求めている言葉の意味を。

 ギュネイはポスターに書かれていた住所を記憶して、その場から立ち去った。迷わなかった。ただそれを訊いてみたい一心で、ギュネイはネオジオンに入隊した。
 ネオジオンには、ギュネイと同じような若者がたくさん集っていた。いわゆる戦災孤児だ。
 彼らは口々に言う。

「戦争をなくしたい」

 それならば何故戦争をする軍隊に入ったのかとギュネイが尋ねると、決まって答えはこうだった。

「戦争を終わらせるための戦争だから。もう終りにしたいから」

 おまえら馬鹿だろうとギュネイは真剣に思った。戦争を終わらせるための戦争?そんなものがあるはずがないだろう。いったん戦争が始まれば必ず死ぬ人が出て、その死を悲しむ人が死者よりも多くなる。そういうものだ、戦争は。時がたっても消えることのない痛みを生み出すだけ。
 そんなギュネイに、彼らも尋ねた。では何故おまえは軍人になったのだと。ギュネイの答えはこうだった。

「三食くいっぱぐれる心配がないから」

 半分は本心だが、半分はウソだった。
 あの男に会いたいからだと正直に言ってみても、不可能だと鼻で笑われるのが目に見えていた。ネオジオンに入隊して、ギュネイは初めて知った。あの男がシャア・アズナブルであり、キャスバル・ダイクンであるということを。ネオジオン総帥。一介の兵卒ごときが会えるはずがなかった。






 ニュータイプ適性テストを受けてみないかと教官はギュネイに言った。
 ギュネイはニュータイプというものを特別な人間、いわゆる超能力のことだと思っていたので、その提案は意外だった。確かにギュネイは他の者よりも武器の扱いが上手く、勘も良い。訓練についていけたし、そのうえ怪我一つしない。ようするに運動神経が抜群に良いのだった。
 ニュータイプ適性有りと認められれば、能力を強化してもらえるだそうだ。強化人間。あんまり響きはよくなかったがギュネイはうなずいた。MSに乗れるぞ。教官のこの一言が決めてだった。MSはギュネイのあこがれだった。
 時折ホログラフで見ることのできるあの男のかたわらには、演出だろうが真紅のMSが付き従っていて、それはとても美しいとギュネイは感じていた。なんて完璧な一対。人間とではなくMSと深く結びついているあの男。ねえ、あんたに会いたいよ。
 少しでも近づきたい。
 ギュネイは強化人間になった。
 いろんな薬を飲まされ、さまざまなテストを受けた。ギュネイは何の感慨も感じずにそれらをこなしていった。
 ある日、研究員が一人の女を連れてきた。ずいぶんと迫力のある女だ。偉い人なのだろう。研究員たちがやたらへりくだっているからだ。いつもギュネイのことを研究材料としか見ていない人間たちが。
 無表情のギュネイに、女は眉をひそめて、一つの質問をした。

「ギュネイ・ガス、あなたは何故ネオジオンに来たの?」

 研究所で、ナンバーではなく名前で呼ばれたのは彼女が始めてだった。その質問がテストの一つであることはギュネイにはわかった。この質問に、ウソでもって答えれば、斬り捨てられるだろう。薄氷の上を進んでいるような恐怖がギュネイの足元から迫ってきた。
 オレを捨てないで。

「…会いたいんだ。会いたい」

 オレを見つけてくれ。その手を差し伸べてくれ。その瞳にオレを映してくれ。
 オレはもうとっくにあんたのものだ。
 だから、そのことをあんたも認めてくれよ。
 面影のなかのあの男にギュネイは訴える。
 彼女はギュネイの答えにアッサリとうなずいた。

「いいわ。会わせてあげる」





 その言葉にウソはなく、ギュネイは数ヶ月を経てシャアに会うことになった。数ヶ月も経ってしまったのは、ギュネイのデータをMSに組み込んでいたからだ。ギュネイのMS。それを、当日になって知らせに来たニュータイプ研究所所長兼総帥付き秘書は困ったような難しい顔つきだった。

「あの方はどうもやることが子供っぽいというか…。あなたを喜ばせたかっただけなのよ。遅くなってごめんなさいね」

 まさか専用機がもらえるとは思っていなかったギュネイは、驚きのあまり声もなくただぽかんとそのばかでかい機体を眺めていた。
 しかしコックピットが開いていくのを見て、はっとする。
 彼だ。
 蝶が殻を脱ぎ捨てて生まれ変わるかのように、エメラルドグリーンとゴールドにカラーリングされたMSの胸部、コックピットから、鮮やかな真紅がのぞく。



 後ろにまとめられた金髪。整った美しい顔。
 挑発的な蒼い瞳。
 ギュネイを見つけて、ゆるやかに微笑した。

―――なんだ。こんなところにあったのか。

 求めていた言葉の意味はこの男だ。ようやく見つけた思いで、ギュネイは安堵した。
 なんだ、あなたがそうだったんですね。



 シャア・アズナブル。
 無重力の中をゆっくりと、ギュネイの想い人が降りてくる。






 そんな ときは どうか あいの いみを しってください。




一周年記念はギュネイ。シャアと会う前の一年間だと思ってください。
一年かけて好きな人と会うというのは、どんな感じでしょう。
ちなみにギュネイはひとめぼれというやつを無自覚でやっています。
あとでシャアにからかわれるでしょう。

最初と最後の誌と、タイトルはブルーハーツの「リンダリンダ」。大好き!