台所にて




 気の迷いだったとしか、いいようがない。



 ジオンマークのついた赤いエプロンを見つけた時、まあこれくらいならいいかなと思ってしまったのが、そもそもの間違いだったのだ。
 たかがエプロンひとつくらいで。
 ―――ここまでその気になるとは。









「どうだ?似合うかい?」
「…似合う……」

 冗談まじりに赤いエプロンを身につけて、シャアがくるりと回って見せれば、ガルマはソファの上に突っ伏して笑いながらそう言った。

「まさかわざわざエプロンを買ってくるとは思わなかったな」
「君があんまりがっかりしていたから、用意したんだ」

 せっかくだからお茶でも煎れよう。そういってシャアが移動すると、動きに合わせて腰で結ばれたリボンがひらりと揺れた。ひらひらと揺れる魚の尾鰭のようなそれを目で追い、ガルマはキッチンへ向かうシャアを見送った。
 すでに勝手知ったる間柄の、ガルマの部屋の台所。シャアは悪戯が成功した子供のように上機嫌だ。
 ガルマがじっと見つめていると、シャアが振り返ってくすくす笑う。

「なに?」
「いい光景だな、と思って」
「……。なんの変哲もないただのエプロンじゃないか。そんなに気に入ったのか」
「ああ。気に入った」

 はっきり肯けば、シャアは少し言葉を詰まらせて自分の姿を改めて眺めた。シンプルな赤いエプロンは特に色っぽいアイテムではないし、まして男の自分にはふくよかな丸みはない。それなのに、そこまで喜ばれてしまうとは。遊びのつもりだったのだが、シャレにならなくなりそうな予感がして、シャアは冷や汗をかいた。
 いや、シャレにならない、とかそういうのではなく。
 見つめてくるガルマの、熱っぽい視線を感じて、シャアはかぁっと体が熱くなった。
 ひょっとしてこれは、自分が誘っている、ということになるのではないだろうか。
 冗談じゃない。ほんの遊びのつもりだったのだ。シャアは大いにあわてた。

「も、もう脱ぐよ」
「どうして?」

 いつの間にか、さりげなく背後に回っていたガルマの手が、後ろで結ばれたリボンを解こうとしたシャアの手を掴んだ。

「ガルマッ」

 そうして、解きかけていたリボンをシャアの両手首に巻きつけて、ガルマは抵抗を封じた。

「僕のために、こんな格好をしてくれたんだろう?だったら期待に応えないとね」
「なにを…勝手なっ」

 低く耳元で囁けば、抱きしめた腕の中でシャアの体が小さく震えた。
 本気で嫌なわけではないだろう。本気で嫌なら、シャアはこんなふうに反応しない。冷たい微笑でもてきっぱりと「NO」を言い渡す。
 けれどもこの状態は、かなり屈辱的なのだろう。なんとか自由を取り戻そうと、もがいている。ガルマにとってはそれらすべてが扇情的だ。

「やめ…ガルマ…!」

 文句を言う唇を、唇で塞ぐ。背中から腰、その下のなだらかなラインを撫でると、彼の肢体が跳ね上がった。大きく息を吸い込もうとした隙を見逃さずに、舌を滑り込ませる。

「…っンぅ……・・」

 くち、と音を立てるほど口内の粘膜を擦れあわせる。その間にも手を休めずに双丘を揉みしだき、片方の脚を持ち上げて内股に自分の熱を押し当てると、育ってきているのが伝わったのだろう、シャアが吃驚したように大きく目を見開いた。


「あ…………」

 恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、頬を染める。

「シャア…可愛い」
「そういうことを言うのはよせ」
「本当のことだよ」
「くだらない事言ってないで、これをはずせ」
「どうして?」
「どうしてって……」

 このまま、しよう。そう宣言してシャアの体をひっくり返す。暴れだす前に手を前に回すと、先程までの行為にかすかに反応していたそこに触れた。

「あっ」

 一瞬、びくりと体が硬直し、すぐさま弛緩した。ゆっくりと、布越しに弄ると、シャアはいやいやをするように頭を振った。見え隠れする耳朶が赤い。表情が見られないのが残念だと、ガルマは笑った。

「はぁ…あっ、……や…」

 快楽に侵食されるのを嫌がるような、蕩けた色に、その美しい顔は染まっている事だろう。想像するだけで、下肢に血液が集中していくようだった。
 シャアの下半身の衣服を脱がせてしまうと、白い双丘があらわになった。拘束した手首が嫌がって、リボンがピンと張り詰める。そのせいでかえって結びがきつくなった。指先が白く色をなくす。跪いて指先に優しいキスを送ると、ガルマは双丘を割って薔薇色の蕾に口付けた。

「ひぁ…!ガ、ガルマ…!?」

 戸惑った声が耳に心地良く響く。狼狽するシャアの体は腰を掴まれているせいで身動きがとれない。かまわずにガルマは唾液をたっぷりのせた舌でそこを撫でた。

「いやだっ」

 恐怖すら含む声にぞくぞくする。雄の加虐心と征服欲を刺激する、高い悲鳴のような声。うんと甘やかして優しくしてやりたいと思うのと同時に、うんと酷いことをして鳴かせたいとも思う。いつも冷静で威厳すら感じさせる彼の、そんな取り澄ました顔を引き剥がして、乱れきった表情が見たい。
 尖らせた舌先を中へと潜り込ませると、強張っていた体から力が抜けた。シャアはがくりと前屈みになり、シンク台に頬を擦り付ける。そうしなければ自分の体を支えていられないのだ。手首の拘束を解けば掴まることもできるだろうが、ガルマにそうするつもりはなかった。

「やめ…。やだ、そんな……」

 子供っぽい、舌ったらずな口調で弱弱しくシャアは拒絶の言葉を吐く。ガルマはそれに応えずに舌でもって蕾を撫で上げる。唾液で濡れて光るそこはひどく卑猥だ。指の痕がつくほど双丘を押し広げ、舌で広げさせた内に親指をそっと差し入れる。


「ああっ」

 くち、と音をたてさせて内壁へとぬめりを塗りこむと、背中がしなやかに仰け反った。愛撫を途中で止められていた前はいつの間にか張り詰めて小さく震えている。もう片方の手で扱いてやると、先端から淫液が溢れ、指を濡らした。

「あっ…あぁ……。あ、んっ」

 内壁を擦る動きに合わせて、シャアの腰が揺らめきだす。綻びはじめた蕾はひくひくと蠢いて、指を奥へと誘い込んできた。
 そろそろか…、とガルマは体を起こした。前を弄っていた手を胸へと移動させ、シャツの合わせ目から忍び込ませる。滑りを帯びた指が尖りを探り当てると、たちまちそれは硬くぴんとしこって存在を強調した。布が水分を吸い取ってじんわりと湿り、痕を残す。

「ん……っ」
「シャア……」

 熱っぽい息で耳元に囁きを吹き込むと、シャアは不自由な体を必死に捻って半分振り返った。潤んで光る蒼い瞳。キスがしたいのだ。それはガルマも同様だったが、この態勢では唇まで届かない。耳朶と首筋に吸い付くと、内部に埋め込んでいた指をきゅうっとしめつけられた。
 ことさらゆっくり引き抜けば、たちまち絡み付いてくる内壁。この先にある快楽がわかっていながら、今与えられているものも逃がしたくないのだ。いやらしい体だった。この体に淫蕩な悦びを教え込んだのは他ならぬ自分であり、味わう肉の甘さをこちらも充分に知り尽くしているのだから、彼のことだけをいえないのだが。

「シャア…、挿れるよ」
「あ………っ」

 ボトムの前を寛げて張り詰めた先端をあてがう。次に来る痛みを知っている体は拒絶に近い反応をみせたが、今はそれを優しく解きほぐしている余裕がなかった。なかば無理矢理侵入させるとシャアが息を飲んだのがわかった。かつん、と奥歯を噛みしめる小さな音。歯を食いしばって、悲鳴をあげるのを堪えている。

「ふ……っ。うん……ん……」
「―――は…っ。キツ……」

 あんまり解きほぐさなかったせいか、内部は予想以上にきつい。ゆっくりゆっくりと奥をめざす。後ろ手に縛られているシャアの手が、その度に握りしめたり突っ張ったりして衝撃をやりすごしている。耐えている姿に、背すじに悪寒に似た快感が走る。今、彼を犯しているのは、この自分だ。

「……ッ。動くよ…」
「や…っ。―――待………って……」

 凶悪ともいえる衝動が込み上げてくるままに、ガルマは腰を掴んで律動を始める。

「あっ、あっ、あっ、い、…った…ぁい」

 挿入感に慣れる前に動き出されて、シャアの口からは押さえきれない声が漏れた。きつい内の締め付けはガルマを拒んでいるようで、その抵抗を突き崩すように奥を抉るとまた声があがった。体の奥。前立腺を探るように突きこむ。本当はそこではなくてもっと奥へと入りたいが、それはまだ早い。

「ん―――…ガルマ…っ。あぁ…っ」

 ひくん、と腕の中の体が揺れた。感じるところにあたったらしい。そこを集中して責めれば嫌がるように背が仰け反ったが、腕の中からは逃げられない。前へと回った手が今にも弾けそうな熱を確かめるように握りこむ。濡れた音が前と後ろと両方から響いてシャアを耳孔から侵していく。

「ガ…る、まっ。も、もう……」
「ああ―――うん」

 限界、と訴えてくる。今まで責めていたポイントを思い切り突き上げ、同時に前の先端を割るように爪を立てると、シャアは耐えきれない嬌声をあげ、達した。
 その瞬間、目も眩むほどの締め付けにガルマも達しそうになるが、かろうじて堪える。まだ、ここで終わるつもりはない。むしろ、これから、なのだ。
 一度快楽を極めた体は柔らかく蕩けて、ガルマを受け入れる。

「ああ…。すごく、いい…シャア?」
「ひぁ…っ。やめ……ガルマ……っ」
「ムリだっ……て」

 手首の拘束をようやく解いてやると、シンクに縋りついて、シャアは身悶えた。

「あ…あ―――………」

 ぎりぎりまで引き抜いて、一気に奥まで入れる。絡み付いてくるような動きを見せる肉壁を捏ね回して、かき回す。
 蕩けきった体は交じり合えてしまいそうな錯覚を起こさせるが、お互いの体がそれを邪魔する。肉同士のぶつかる音。それに苛立って、何度も何度も突き上げる。その度にシャアは嬌声をあげて、もういやだと首を振った。

「やっ、もう…やめ…」
「嘘言わないで、シャア…」

 イヤ、といってもこの場合、悦すぎて嫌なのだ。つまりは本気で止めて欲しいわけではなく、もっと、と強請るようなものだ。
 敏感になりすぎている内部をさらに掻き回され、シャアは無意識にガルマを締め付けた。
 目の前に閃光が走る。

「あ。―――っ」

 快楽を極める悦びと、終わりたくないという失望感を同時に味わいながら、ガルマはシャアの体内で達した。

「んん……」

 奥に熱の塊を注ぎ込まれ、びくびくと震えながら、とうとうシャアは立っていられなくなった。ずるりと膝から崩れ落ちる。ガルマが抜け出したそこから、まだ熱い粘液がとろりと零れ落ちた。
 ぺったりと床に座り込み、荒い息を整えているシャアを、ガルマはそっと抱きしめた。体の向きを変えて、その唇にキスを何度も送る。

「シャア―――…大丈夫?」
「ああ……。なんとかね……」

 ことん、とシャアはガルマの肩口に頭を乗せた。

「あんなに…激しくするなんて……。そんなに良かったのか?」
「え……」
「これ」

 シャアは自分の体に纏わりつく赤いエプロンをそっと摘み上げた。それはさっきシャアが放った精液でぐっしょりと濡れている。

「ああ……」

 ごくり、とガルマは咽喉を鳴らした。シャアは上のシャツを着たままで、下肢はすっかり脱がされている。その上に赤いエプロンをつけているのだ。恨めしそうな目つきで睨まれても、顔は快楽の余韻を残したまま染まり、愛らしい。そっと持ち上げられたエプロンから滴り落ちる精液が太股の際どいところをゆっくりと伝って落ちていく様は、誘っているようにしか見えなかった。
 またぎりぎりのところでエプロンが隠しているものだから、肝心な部分が見えそうで見えないのが、余計にいい。
 ―――なんて言ったら、怒るんだろうな……。

「そう言う君こそ、どうなんだ。悦くなかった?」

 それでも一方的に責められるのも悔しい。少し意地悪く問い掛ければ、シャアは頬を染めた。

「期待していただろう?こういうことされるの」
「期待なんて……そんなこと」
「してなかった?」
「…なきにしもあらず」

 意地っ張りな言い分にガルマが笑うと、憮然としてシャアが言った。

「まさか、たかがエプロンひとつであそこまでその気になるとは思わなかったけど」











身もフタもないえろ話です。
あー、なんだかシャアってば初々しい…。
アムロやカミーユだとどうしてもシャアがリードしてしまうので、
こーゆー姫君(…)なシャアを味わえるのは(笑)ザビ家の方々だけでしょうね。

強気なのと乙女なのと、どっちがいいのやら(悩)。