ニューマチック・バルブ

4バルブ

バルブはシリンダーに混合気を入れたり、燃焼ガスを排気する蓋(またはドア?)の役割をしている。
超高温になる燃焼室の蓋なので、熱に強く丈夫な素材が求められる為に下図のような形状になっている。(基本的な形状は市販乗用車でも同じ)
また、動く部分でもあるので軽い物が好ましく、F1エンジンのバルブはチタン製。(らしいです)

拡大すると

シリンダー内の吸気や排気はエアロダイナミクスでスムーズに流してやる必要がある為、その出入り口となるバルブは大きく取った方が効率が良い。
そこで考えられたのが、個々のバルブ経は狭くなるがトータルで見ればバルブ面積が広くなり効率が良くなる4(フォー)バルブ。
これはF1が始まる遙か昔、1912年にフランスのプジョーがDOHCの4バルブをグランプリエンジンに採用していた。
F1で普及するきっかけになったのは1964年にホンダが4バルブのV12エンジンを持ち込んでからで、1960年代後半には完全に4バルブの時代になった。

ちなみに市販車では4バルブのエンジンは気筒数分を表すことが多い。
4気筒のエンジンで「16valve」や、6気筒のエンジンで「24バルブ」と表記されているエンジンは4バルブ。
従って4気筒で「20valve」と表されている場合は5バルブと言う事になる。

シリンダを真上から見た図。

当然のように、吸気を3本と排気を2本にした5(ファイブ)バルブも考えられた。(排気を3本にする優位性は低いらしい)
ひと昔前まではレギュレーションで5バルブまで許可されていたために1990年スバルの水平対向12気筒エンジンや、1991年〜1992年のヤマハV12、フェラーリも長い間5バルブと言われていた。
しかし現在はレギュレーションで4バルブ限定となっている。
5バルブがあまり好まれなかった理由は単純に部品数が多くなり複雑になる事や、バルブ面積を比べた時に2バルブと4バルブの差に比べると、5バルブと4バルブの差は小さい。
また、バルブを開閉させるレイアウトが好ましくない等いくつかある。(詳しく書くと長いので・・・)
バンク角と同様に全体のバランスという事かもしれないが、制限してしまう事でエンジンの差別化、他チームとは違う技術への挑戦が無くなるのは寂しい気がする。

バルブの開閉

バルブは常にスプリングによって閉じられ、その頭をカムシャフトが押し下げることでバルブが開くことになる。(市販車のエンジンも同じ)

※直動式の簡易図

4サイクルの行程を思い出していただきたいが、ピストンが上下するタイミングとバルブが開閉するタイミングは精密に連動する事が求められる。
従って、どんなエンジンでもクランクシャフトの回転に合わせカムシャフトも回転するように作られている。
市販車ではタイミングベルトやタイミングチェーンで連動させるが、F1ではタイミングギアを用いている。

DOHC

Double Over Head Camshaftの略。
吸気バルブ用のカムシャフトと排気バルブ用のカムシャフトの2本ある形を言うので、市販車で言われるツインカム(twin camshaftの略)と同じ意味。
メーカーによってはDOHCのV型エンジンではカムシャフトが4本になる事から、FOUR CAMと称している場合もあるが同じ意味。
ちなみにカムシャフトが1本のエンジンをSOHC(Single Over Head Camshaft)や単にOHCと言い、SOHCのエンジンのバルブは主にロッカーアムでバルブを動かしている。(直動式では構造的に無理)

ニューマチックバルブ

エアバルブとも言うが、バルブその物の事ではなく金属製のスプリングの代わりをする物。
バルブを閉めておくスプリングは、高回転化していくとジャンプやバウンス、バルブサージと言った異常動作の問題が出てくる。
特に超高回転化が進むF1エンジンでは大きな問題となり様々な素材や形状が試されてきた。
ニューマチックバルブをF1に持ち込んだのはルノーでターボ時代の1986年になる。
この頃は注目されなかったがターボ禁止後に一気に高回転化が進むと、その優位性が明らかになり1990年代前半には全てのエンジンで採用されるようになった。
今の超高回転エンジンには必須パーツと言える。
レース中、希に圧搾空気が漏れピットイン時に補給している場面も見られる。(このトラブルを想定して補給できるマシン設計、補給できる準備をしている事も大切)

※イメージ図

バルブの異常動作

バルブはピストンと精密に連動しなければならないので、カムがバルブを下げるタイミング、下げる幅、下げておく時間など正確に決まっている。
しかし高回転時になると、カムがバルブを押し下げる勢いが増しバルブがカムから離れてしまったり、逆にバルブがスプリングの力で戻った際に跳ね返ってしまう事がある。
前者をジャンプやジャンピング、後者をバウンスやバウンシングと言う。
また、バルブサージやサージングと言われる現象はスプリングの持つ固有振動数とカムによる伸縮のタイミングが一致した時にスプリングが自励振動を起こし暴れる事を言う。
これらを回避するために、バルブ自体を軽くしたり(この意味でも4バルブは有効)、二重スプリングや不等ピッチスプリングが使われる。

2001.07.11
2006.04.14