露誕ssですが微妙…露様が何だかやさぐれてます。
ロビーで書類を呼んでいるロシアの前を日本がスルーッと通り抜けていった。
ロシアに気付くとぺこ、と頭を下げ、それきり興味をなくしたように遠ざかっていく。
ロシアは反射的に立ち上がっていた。
「にほんくん!」
背後から声をかけると警戒と若干の怯えが入り混じった表情で振り返った。
「な、なんですか」
ロシアから声をかけられる理由がないと思っているのだろう。
日本の生活は僕がいなくても全然成り立つし。
日本に一番近しい国は僕と敵対関係にあるし?
「今日は僕の誕生日なんだよ」
「えっ…?」
でも僕のことをいないように振舞うのはやめて欲しい。
興味を引くような話題を探してみれば、それは面白いほどの効果を生んだ。
「そうなんですか!?おめでとうございます!」
季節ごとの節目を大切にし、意外とお祭り好きな日本は顔を輝かせた。
ロシアがビックリして引くぐらい―――
これからもう帰るだけという格好の日本はスーツにコート姿のロシアを見て首をかしげた。
「ロシアさんは誰かと待ち合わせですか?―――違うんですか、では、このあと何も約束がないのでしたらお食事でもご一緒しませんか?」
今日ぐらいはおごってさしあげます。
普段の対ロシアの険しい表情をどこかに置き忘れたように満面の笑みを浮かべ、やけに気前がいい。
ロシアは楽しそうな日本に釣られるように頷いた。
■ ■ ■
フランス料理のフルコースをおごらせたあと(金額に依存はないけどマナーには慣れてないみたいで苦労していた<嫌がらせ)
お気に入りのケーキ屋さんに男二人で入りであま〜いケーキを食べ(極端に甘いものが苦手な日本君は苦しそうだった<嫌がらせ)
今はバーでカクテルを手に隣り合っていた。
「では…ロシアさんの誕生日に、乾杯」
ひとの誕生日なんて何が嬉しいのか知らないけど、日本君はにこにこと笑みを浮かべている。
あんまり乗ってくるものだから、何だかこちらが興ざめしてしまった。
ロシアは紫色の液体を喉に流し込むと嘲笑を浮かべた。
「うそだよ」
「え?」
「君もくだらない女みたいに記念日を祝いたがるんだ?でも今日は僕の誕生日じゃないよ」
「え、ではロシアさんの誕生日はいつなのですか?」
「知らない」
好意を無にされて少々カチンときている日本に対しロシアの答えは素っ気無い。
むしろ憎憎しげに吐き捨てた。
「こんなの、僕の肩書きについてるもので、上司が変わるたび、上司の都合で変わる記念日に過ぎないのに」
「こんな実体を伴わない空虚な日を祝うんだ?」
日本は眉をひそめた。これはもしかして絡まれているのではないだろうか。
どうして無意味な嘘をついたのかと謎だったのだが、ロシアにとっては苦々しい嘘のようだった。
日本を嘲笑いながら、ロシア自身が傷ついているような顔をしている。
「君の誕生日は2月11日だってね。出自がはっきりしてるといいよね単純で」
笑っていない笑顔を見て日本は表情を緩めた。
そうじゃないんです、と困ったようにロシアに微笑みかけた。
今日は誕生日を祝う日じゃなくて―――
「本当に今日が誕生日でなくてもいいんです。あなたが生まれたことをお祝いできる日があって嬉しいんです」
「上司さんもあなたの誕生を祝福したくて作ったんですよ」
日本の言葉ぐらいでロシアの心が融けるとは思えないけれど、ロシアの国民がロシアの誕生を祝いたい気持ちは本物だ。
それは分かって欲しい。
笑顔を引っ込めて無表情になったロシアは恐ろしいけれど、懸命に話しかける。
「私だって―――あなたとは決してよい関係だとは言えませんが、それでもあなたが存在していてよかったと思いますよ」
ロシアと日本の間には色々なことがあって、好意を顕わにするには本当に色々なことがあって、素直に手を取り合うことはできないけれど。
今日ぐらいは歩み寄って笑いかけてもいいと思うのだ。
だって今日は、ロシアの誕生を祝う日なんだから。
「ですから、あらためまして…おめでとうございます」