露(高校生)×日(三十路)で養父子パラレルです。
できてるかどうかはともかくまっくろく露さまを目指したので注意。
性的でもあるので注意。
あと最初に大きな列車事故が起きてて死にネタかも。
以後続きません。









































 あたり一面酷い有様だった。現場は崖添いの鉄路、いつもと同じように過ぎるはずだった一日は崖崩れに押し流され、あっという間に崩壊した。もうもうと立ち込めていた土煙が少しずつ納まっていく。列車の座席を構成していた布や鉄はめちゃくちゃにひしゃげて転がっている。負傷者は運び出されたので、転がっている動かない身体は既に息のないものなのだろう。横から差し込む光のまぶしさにイヴァンは目を細めた。目の前には呆然と養父が座り込んでいる。背広に包まれた小さな肩、大切なものが手の中からこぼれてしまった現実が信じられないというように目を見開いて。養父は、なくしたものを探すように、途方にくれてきょろきょろと辺りを見回した。周囲に二人のほかに動いているものはいない。やがてイヴァンに気付いた養父は大きく目を見開き、ぎこちなく微笑みかける。
 『もしも―――もしも君にいくところがなくて、君がお嫌でなかったら、私と一緒に来ますか…?』
 その瞬間、イヴァンは自分を繋ぐ鎖が切れる音を聞いた。小さな子供にのしかかっていた抗いようのない現実は取り除かれた。瓦礫の山を照らして、朝日が昇っていく。

 そうだ、幸せは待っていたってやってこない、あのとき僕は幸せを自らの手で掴み取ったんだ。

 ピピピピピピ…

 目覚まし時計の電子音で、イヴァンの意識は眠りの淵から浮かび上がった。カーテンの隙間から漏れる朝日がまぶしくて目を細める。夢の中の出来事は、過去の体験に近いものではあったが、正確に過去を写し取ったものではなかった。イヴァンが養父に声をかけられたのは仮設のプレハブ小屋に置かれたベンチの上で、大きな事故から一週間後のことだった。





 「おとうさん、おはよう」
 
 おはようございます、と穏やかに返す養父はイヴァンより背が低い。中二のときに追い越して、今では横も縦もイヴァンのほうが大きくなった。腕力だってずっと強い。養父が先ほどから格闘しているジャムの瓶をひょいと取り上げ、難なく蓋をあけてやると「あ、ありがとうございます」と苦笑まじりの感謝の言葉。イヴァンを見上げ、「すっかり大きくなって…」ことある毎に感慨深げにつぶやく養父はといえば、出合った頃からほとんど変わっていない。イヴァンが大きくなった今では一緒に歩いていると弟に間違えられることもある。20歳ほどの年の差があるというのに驚異の童顔だった。
 養父が作った朝食を向かい合って食べ、一緒に家を出る。崖の町で炭鉱の技術屋をやっている養父とは途中で道を分かれてイヴァンはつまらないクラスメイトと何てことない一日を過ごすために高校へと向かった。





 ことこと、ことこと
 夕食のシチューを煮込みながら、菊は養子のことを考えていた。すっかり大きくなって、菊とは似ても似つかないうつくしいイヴァン。カッコウとホトトギスぐらい違う、紫色の瞳にキラキラ輝く淡い金髪、わが息子ながら見惚れてしまうこともある。いつも菊を気遣ってくれて、開けられない瓶の蓋を開けてくれたり、手が届かない棚の上の荷物を取ってくれるのは、悔しくもあり面映くもある。
 私には、もったいないくらいよく出来た息子です。きっと学校でももてるんでしょうね―――と言いたいところだが、優しい息子には何故かなかなか友人が出来なかった。父一人子一人でべったりしすぎなのがいけないのだろうか。
 そのイヴァンは帰宅して菊の顔を見てすぐ部屋に閉じこもってしまった。高校に入った頃からイヴァンの態度が少々よそよそしく感じて寂しいのだが、子離れしなければ、と菊は苦笑する。どうやら部屋で、高校入学時に買い与えたパソコンをいじっているらしい。学校の同級生には何故か―――菊には、あんなに優しい子なのにどうして、と理解できないのだが―――怖がられてしまうイヴァンだが、回線を通じて友達が出来たのかもしれない。

 腕白でもいい、たくましく、元気に育って欲しい…と願って10年間、育ててきた。いささか、大きく育ちすぎかもしれないが。中学二年で身長を抜かされてから、いまだ成長が止まる気配を見せない。シチューも多めに作ったものの足りないかもしれない。安月給だというのに家計への脅威だ。いや、食費の心配が出来るのも子が生きていればこそ。感謝しなければ。
 出来上がったシチューを盛り付け、食卓を整えて、菊はイヴァンを呼んだ。

 「イヴァンー、ごはんですよー、」





 養父が入ってこられないように鍵をかけた暗い部屋の中、パソコンの白い光に煌々と照らされたイヴァンは食い入るようにパソコンの画面を見つめていた。画面の中では見ず知らずのアジア系の青年があられもない姿を晒している。高校に入ったお祝いで買ってもらったパソコンのデスクトップには、養父にはとても見せられない動画フォルダが並んでいる。本来イヴァンの年齢では手に入れられないような画像も、ネットを経由すれば簡単に手に入れることが出来た。決まってアジア系の男性の、顔はわざとよく見えないものを選んで。細い腕が快感に歪んだ顔を隠して交差して、広い背中にバター色の脚が絡む。その顔を、脳内で大好きな人の顔とすり替える。ズボンをずり下ろして、下着の中に手を突っ込む。「おとうさん…おとぉさんっ…」は、は、と荒い息を吐く。360度どこから見ても清廉潔白な養父がこんなことするはずがない。だから自分で脳内コラージュをしているくせに、見ず知らずの相手に腰を擦り付けている姿を想像するとカッと身体が熱くなった。そんなこと、許せない…!凶暴な衝動のままに、手の動きを早くする。

 乱暴に腰を打ちつけ穿ちたいと思っている相手は扉を隔てた向こう側でイヴァンに食べさせるためのシチューを煮ているひとなのに。酷い冒涜だと思う。それでも、手を止めることは出来なかった。

 「イヴァンー、ごはんですよー、」
 「…んっ!?………ふぅ…」

 のんびりとした声が聞こえると同時に、イヴァンは白濁を手の中に放った。はあ、はあ、肩で息をして、何とか返事を返す。上擦っていなかっただろうか?こんなこと、養父にばれたら生きていけない。ティッシュで手を拭っても、まだ青臭いにおいが消えないような気がして、気持ち悪くて何枚も何枚もティッシュをつかみ出して手に擦り付けた。自分が情けなくて涙がにじんだ。





 ご飯を食べる前に洗面所で手を洗って、何食わぬ顔で夕食の食卓を囲んだイヴァンだったが、シチューを口に運ぶ養父の口元を凝視してしまう。白い液体がついた口元を舌で舐め取る動作は、いかがわしい動画を連想させた。しかし伏し目がちの表情は穏やかで、やはり清廉潔白な養父はイヴァンの汚い欲望とは無縁のところに泰然と座っている。

 「どうしたんですか?ぼーっとして、具合でも悪いんですか?」
 「ううん、いただきますっ!」

 イヴァンはあわててスプーンを手に取った。





 イヴァンは恐ろしい秘密を抱えている。
 菊がイヴァンを見つけるより前に、イヴァンは菊を見つけていた。

 運命のあの日、崖沿いの鉄路を走る列車の中、座席に並んで座る仲良しの親子の姿を覚えている。黒髪の娘は父親が大好きなのだろう、床に届かない脚をぶらぶらさせて、大きな手をいじってくすくす笑っている。娘の手遊びにとろけるような笑みを浮かべた青年は、いそいそと鼻水をかんでやっている。それは絵に描いたような幸せな親子の図だった。イヴァンが望んでも得られないもの。

 僕と同じ年頃の子供の世話を見てて、優しそうだなって思ったの
 僕は、鬼みたいなコイツに殴られて、おなかをすかせているのに
 あの子は幸せそうで、ずるいって思ったの、そしたら―――

 突然列車は横向きに押し流された。
 悲鳴。怒号。
 天地がひっくり返り、鉄の箱は何度も地面に打ち付けられ、転がりながら落下した。イヴァンは手をつないでいた(繋がれていた)保護者の手を放してしまった(保護者が窓からこぼれ落ちていく様をイヴァンは冷静に眺めていた)。保護者とはぐれた小さな子供を救ったのは近くにいた大人だった。大人の手は怖い、力強く恐ろしく、小さな子供には避けるすべがない、しかしその大人の腕はイヴァンと、自分の娘をとっさに懐に抱きかかえ、守り抜いた。途中で何か固いものにぶつかり意識を失っても、列車が動かなくなるまで、ぎゅうと腕に抱えたものを離さなかった。
 やがて静寂が訪れた。鉄の箱は、奇跡のように海に張り出して止まった。意識のない大人の腕にしっかりと抱かれて、イヴァンはおそるおそる薄目を開けた。もうもうたる土煙の中、すぐそばで必死に父親を呼ぶ女の子の声が聞こえる。優しい父親、頼りになる父親を呼び戻そうと必死の声、女の子はこの青年にとても懐いているのだろう、だってイヴァンにも大人の腕がこんなにも温かく、守ってくれるものだということを初めて教えてくれた腕だもの。
 その瞬間、イヴァンの脳内に恐ろしい考えが閃いた。この子がいなくなれば、空いた場所に僕が入れるって―――





 『僕がどんなに非道い人間でも、お父さんは僕を愛してくれる?』
 恐ろしくて問えば、養父は笑って答えてくれた。
 『当たり前でしょう?血のつながりがなくたって、イヴァンは大切な私の息子ですよ』

 10年も一緒に暮らしてるのに愛情が伝わっていないなんて、おとーさんは悲しいです!と怒ってみせて、背伸びしてぺちっとおでこを叩く、養父の愛情を疑っているわけではない。でも養父は知らないのだ。イヴァンが抱える恐ろしい秘密を。
 たまにイヴァンと同じ年頃の少女を目で追いかけていることがある。いなくなった娘が、今頃あれぐらいになっているんだろうって思ってるんでしょう?イヴァンの前ではそぶりを見せないが、生死不明の娘を待ち続けていることを知っている。

 知ったら君はどうするだろう。
 知ったら僕を弾劾して、突き放すのだろうか?

 そのときが、恐ろしくてたまらない。

 少しでも離れるそぶりを見せたら、僕は君よりずっと大きくなった身体と、ずっと強い腕力を使って、君を監禁するだろう。幼い頃に夢見た、温かな家庭を壊すことは出来なくて、今はまだ実行することは出来ないけれど。

 君が僕を離れようとしたそのときこそが、パソコンの中に澱のようにたまっていく情報のとおりのことを実行するときだ。





 イヴァンは恐れながらその日を待っている。











まっくろ露様。露様は自分を保護してくれる絶対的な存在を求めてそうなので(偏見)、父子パラレルが異様にはまります(汗)