唐突に台湾×日本のパラレル小話です。秘書×ひきこもり博士です。
以後続きません。
台湾は窓一つない廊下を足早に辿っていた。
外の世界は気持ちのよい朝だが、金属の壁に囲まれた廊下では外の様子は分からなかった。
一つの扉の前で立ち止まると、台湾はスゥッと空気を肺に吸い込んだ。
「はーかせっ起きてくださーい!あーさーでーすーよー」
ガンガンと金属でできた扉を叩くものの返事はない。
特殊な金属でできた扉は引こうが叩こうがブルドーザーで突っ込もうがびくともしない特製だ。
もう、と眉尻を下げて、台湾は持っていたカードキーを横のボックスに差し込んだ。
スイ…と重さを感じさせない動きで開いた扉をくぐるとラボの内部は少し寒い。
何かになりかけの巨大な何か(専門的過ぎて一介の秘書にはよく分からない)がゴロゴロと寝転がっているだだっぴろいラボの片隅にその巣はあった。
台湾はついたてで仕切られた“巣”に歩み寄ってそっと覗き込んだ。
ついたての内側には畳が敷かれ、コタツと、主の趣味なのか仕事用なのか判然としないフィギュアやプラモデルがぎっしりと並んでいる。
もともとはラボの片隅に申し訳程度にあった給湯設備とシャワーのそばに、仕事を中断されたくないラボの主が布団を持ち込み
それが今では仮住まいとは呼べなくなっている、それはまさに巣であった。
台湾は腰に手を当てて、こんもりと盛り上がったコタツ布団を足元に見下ろした。
「博士、おきてください」
研究熱心で過剰なまでに勤勉で彼が生み出すものは世界中で活躍している、専門分野においては他の追随を許さない世界最高と謳われる頭脳の持ち主。
「いーやーでーすー」
そしてこれが今台湾が秘書として仕えている上司なのだった。
「ほら、早く顔を洗って着替えて髪をとかしてください…」
「私は出ませんよ、出ませんからね…!」
童顔に似合わず結構な年だという博士は、普段は早起きだ。
いつも台湾が出勤する頃には元気に仕事を始めていて、機嫌がいいときにはおいしいお茶を入れてくれたりもするのだが、今日の機嫌は最悪だ。
顔も洗っていないどころかまだコタツの中でぐずぐずとうごめいている。
まあこんなことだろうと思って早めに来たのだが。
「好きな研究をするために、スポンサーを言いくるめてお金を出させるのも研究者のお仕事なんでしょう!?」
「ああっ」
布団を引っぺがされて博士―日本は絶望的な悲鳴を上げた。
「うー…」
どんよりとした雰囲気を漂わせながらコタツから這い出てきた日本の表情は冴えない。
今日の予定は研究所の案内と研究成果の説明。
そんなに嫌なんだろうか、嫌なんだろうな。
しかし秘書として人前に出るのを渋る引き篭もりを甘やかすわけには行かない。
「まったく…閉じこもって好きなだけ研究してればいいんだぞって言ってたのに、約束が違いますよ…」
ぶちぶち言いながら日本は観念したのかごそごそと準備を始めた。
スポンサーの前に立つ日本はピシッとスーツを着こなし完璧に仕事を進めていた。
説明の合間に分からないことは何でもお聞きくださいね?とにこ、と微笑めば、だだだいじょうぶだ!と相手は顔を真っ赤にしてうなずいている。
相手の機微を完全に読み取り、相手を立てつつ、それとなく誘導して、巨額の研究費を喜んで出させる、完璧な仕事ぶり。こうなれば安心だ。
後ろに控える台湾はやれやれ…と肩の力を抜いた。
一度スイッチが入れば完璧な渉外用の仮面をかぶるのだが、うまくスイッチが入らないと人前でも台湾の背中に隠れてしまったりするのだから仕方のない人だ。
最初は完璧な人だと思っていたのだけど。
世界最高の頭脳は、限られた予算と時間の中で予定を組み、完璧に仕上げる。
緊急の仕事にも嫌な顔一つせず、どう時間をやりくりしているのか分からないが必ず間に合わせる。
それでいて人当たりは柔らかく、ときに対立する組織のメンバーの緩衝材になったりもする。
秘書なんていなくても仕事には一切滞りがなさそうだと思っていたのだけど。
台湾はすぐに秘書が必要な理由を理解した。。
日本は引き篭もりで渉外が壊滅的にダメなひとだったのだ…!
台湾はぐずる博士を必要なときに外に出すのが自分の仕事だと正確に把握した。
スポンサーは日本の研究成果に満足して、ほくほく顔で帰っていった。
これで来年度の予算も、台湾の雇用も安泰だろう。
おいしいお茶を入れてあげよう、甘いケーキで労ってあげよう、台湾は寛大な気持ちであった。
「お疲れ様でした。完璧な応対でしたよ」
本当に。万感の思いを込めて告げると日本は朝より三割り増しのどんよりっぷりで答えた。
「もう知りません疲れたから私は休みますまったく嫌だって言ってるのにこんなことさせるのが悪いんです…」
ぶちぶち言いながら布団をかぶってフテ寝してしまった。
労働としては、研究所内を歩き回って口を動かしていただけだが、精神的に疲れ果ててしまったのだろう。
その寝顔には三日徹夜が続いたときよりも確実に疲労がたまっている。
げっそりとした寝顔をなでながら、台湾はぐるりと“巣”を見回した。
冷たい金属の壁と床に畳。片隅には布団を持ち込むまではよく眠っていた寝汗の沁みたソファ。職住接近どころの話ではない。
日夜世界を救う研究に勤しんでいる博士に与えられる報いとしてはあまりに味気ないんじゃないだろうか。
しかしこんな境遇を選んでいるのは日本自身なのだ。
前に一度、家に帰らないんですか、と聞いたことがある。
すると日本は「家に帰りたくないんです、帰らなくていいよって言ってくださいました」と返した(家があったのか…と正直驚いた)。
その口ぶりでは家族だっていないわけではないようなのに連絡を取っている気配はない。
過剰なまでに勤勉なのに、どうしようもなく怠惰でもある。
自分が作った兵器がどこでどんな風に使われているか、この人は知らないんだろうな、疲れ果てた寝顔をなでながら、台湾は眉根をきゅっと寄せた。
正義のためだと叫びながら行使される暴力についていったん考え始めれば、心優しい日本が平静でいられるはずがない。
アメリカに正義の味方を任せ、判断を放棄しているのだろう。
もっとも台湾にそれを批判することはできない、台湾とて、それに加担する一員だ。
報酬にも名誉にも正義にも興味を示さず、そう許してくれる人がいるからという理由にすがってひたすら研究に没頭する。
何もかもを放棄して、ヤドカリのように閉じこもっている弱いひと。
日本をよく知らない人の中には、機械しか相手にしない人間らしい感情が欠落した人だと思っている人もいるみたいだけど。
本当は、誰より繊細に人の感情を読むから、疲れ果ててしまうんだろう、ほら、今みたいに。
人の間ではうまく呼吸ができないのだというこの人が、私の前では無防備に寝顔を見せてくれるという事実が嬉しい。
これは優越感?それとも悲しみ?
分からないままに台湾はそっと疲れ果てた寝顔にキスを落とした。
というわけで台日パラレルでしたー!
特撮モノに出てくる正義の組織みたいなのが舞台のパラレルで秘書×博士です。あー楽しかった!
細かい設定は考えてませんがメリカはヒーローで日本を勧誘した人。スポンサーはきっとイギリスさん。
今回台日に挑戦するにあたり受け日本君(笑)を心がけました。
女の子は基本的に受けだと思ってるので、台湾さんに対して受けるということは相当受けなんだろうな、ということで弱くしてみました。
うちの日台の日本君は男前で台湾さんの王子様なんです。あと攻め日は自分のためには動かない。
ので受けを心がけた日本君はちょっとだけ心が弱いです。きっと台日の日本君は台湾さんがいないと生きていけない。
台湾さんはそんな日本君に依存して欲しいと思ってるゆえにほんのちょっとだけいぢわるだと萌え転がります…!(ニッチです)
いぢわる例:メリカに日本のサプライズ誕生パーティーを開きたいんだよって相談されて
引き篭もりなんだからしんどいって知ってて甘やかしてちゃいけないなんてもっともらしい理由をつけて了承して
当日予告無しに大勢に囲まれた日本君がちょっとしたパニックを起こして周囲をキョロキョロ見回して可哀想なぐらい挙動不審になって
台湾を見つけて駆け寄ってきてすがるような目で見上げてくる日本君にえもいわれぬ優越感を感じたりする台湾さん。
少し意地が悪いかなって思うけど本当は日本君は皆に好かれてるし完璧だから自分なんていなくても生きていけるから
いずれ自分を置いてどこかへ行ってしまいそうだって思って不安だから依存されてると安心する台湾さん。
日本君はいぢわるされてるなんて夢にも思ってなくて子犬のような瞳で見上げてると大変よい受けだと思います(笑)
できたら台日の場合は台湾さんのほうが少しだけ背が高いのを希望します…!