1956.10〜 日本と正式に友達に戻った(とはいえ平和条約締結は先送り)ロシアは、晴れて堂々と日本の家の居間でくつろいでいた。しかし眉根を寄せて日本を見ている。日本はその視線をたどって困り顔。ロシアはさっきから、日本の足首にはめられた足かせをにらんでいた。傷だらけながら回復しつつある日本の身体の中で、足首だけはかせに擦れて、日々新たに傷ついていた。 「こんなもの、早くはずれてしまえばいいのにね…」 「触らないでください、それはアメリカさんのものです」 日本はやんわりと、足首を撫でるロシアの手を止めた。 ここは日本の家なのに、日本の自由にならないものがある。そのかせは、ロシアも含めた連合国の皆で寄ってたかってはめたものだった。 象牙色の皮膚を傷つける足かせが憎い。アメリカ製の足かせを見ていると、ここから先は俺の領土だとアメリカばかりが日本の所有権を主張しているようで気に喰わない。あの時、中立条約を結ばなかったら。さっさと条約を破棄して参戦していれば。アメリカと半分こずつ占領していれば。ちょっとタイミングが違えば、日本はロシアのものだったのに。 ロシアをなだめるように添えられた手は栄養不足で痩せているけれど温かい。友達に戻ったばかりのロシアを優しく撫でる。ロシアのものに比べるとずいぶんと細い手首をつかんだ。急に掴まれて、日本の身体にビクリと緊張が走る。 「僕もこの手に手錠をかけて、引っ張っていこうかなあ。力任せに引っ張ったら、足かせ、取れるかも」 足かせがはずれても手錠がかけられてたら同じことなんですが…と日本は遠い目になった。ロシアは足かせに両手をかけてぐいぐい引っ張り始めた。子供のような真剣な顔をして、不自由なかせをはずしてくれようとしているのだろうが、はっきり言ってものすごく痛い。日本は眉をしかめた。 「やめてください、ね?」 「んぅ…」 子供にするようにくしゃり、と髪を撫でられて、ロシアはくすぐったそうな顔をして、日本の言うことを聞いた。 「足には足かせをはめられて、手に手錠をかけられて、両方から引っ張られたら、私はちぎれてしまいますよ…」 力任せな両大国のすることだから、あながち冗談とも言えず、想像するとちょっとぞっとしない。 「アメリカさんも、いずれはずしてくださいますから」 (ちえっ) せっかく日本のためにはずしてあげようとしたのに本人に邪魔された。少しどころでなく残念な気分で、ロシアは日本の膝の横にごろんと寝転んだ。 「20世紀前半には領土紛争は戦争で解決するものでした。でもそれではいけないと皆が気付きました。ですからこれは力任せでなく、話し合いではずしていただきたいのです」 アメリカが一度手に入れた別宅をそう簡単に手放すはずがない。民主主義と平和を標榜しておいて、あの若造は誰よりも欲深で荒っぽいのに、アメリカを信用するという日本君は相変わらずおめでたい。 「沖縄が帰ってきたら、やっと本当に戦争が終わるんですよ」 ロシアの内心の不満を知らず、日本はうっとりと希望に思いをはせた。 |