いい夫婦の日にちなんで夫婦パラレル露日ー。
本気で殺し合う みすたあんどみせすすみす みたいな殺伐バカップル夫婦を目指しました(目標は大きく!)
僕んちで飲みなおそうよ、と言われてフランシスはほいほいイヴァンの家についていくことにした。
この人懐こいのか孤独なのかよく分からない男は、下手に断って機嫌を損ねてへそを曲げられでもすると厄介なのだ。
しかし仲良くしているうちは何かと便宜を図ってくれる、いい奴でもある。
フランシスのワインを気に入って大量に購入してくれる上得意でもあるし。
そしてこの男、信じられないことに新婚さんなのだから、これはもう突撃しないわけには行かないだろう?
どんな嫁さんなのか見てやろうと、好奇心にかられてフランシスはイヴァンについていった。
ロシアがインターフォンを押すと、待ちかねていたように、すぐにドアが開けられた。
「おかえりなさいっ!イヴァ…」
女の子がデートの待ち合わせで一番いい顔で好きな男を迎えるときのような、輝く笑顔に出迎えられた。
声の主の可愛い子ちゃんはフランシスの姿を見止めると、一瞬戸惑い、あいまいな笑顔を浮かべた。
「僕の友達のフランシス君だよ、家で飲もうと思って」
と紹介されるとすぐにフランシスは彼の前のひざまずいて手を取り口付けた。
可愛い子ちゃんには当然の礼儀だからな。
「や、はじめまして奥様、お目にかかれて光栄です」
「…どうぞ、散らかっておりますが」
通された部屋はきれいに飾り付けられ、テーブルの上には花まで飾ってある。
全然散らかってなどいない。謙遜って奴か?ずいぶん控えめな奥さんだ。
とフランシスが感心している横で、イヴァンはお構いなしにワインセラーを漁っている。
「何かおつまみあるー?」
「見繕ってきますね」
突然旦那が客を連れてきたのに怒りもせずにパタパタと台所に引っ込む働き者の奥さん。
これがヤマトナデシコって奴か…!とフランシスはいたく感動した。
そして並べられて手料理を見てさらに感動した。
大根サラダ、スモークサーモンチーズボール、ニシンの冷製に牛ほほ肉のトロトロ煮。
何これ、めっちゃめちゃ美味いじゃねえの…!!!
ワインを扱い、自らワインに合う料理も手がけるフランシスは常日頃から美味いものを食べているが、美味しさのあまり目からビームが出そうだ。
「わあ、すごいご馳走だね!」
「ええ、まあ…」
しかし控えめに言葉を濁して彼は引っ込んだ。
その態度にフランシスはちょっとの違和感を覚えながらも舌鼓を打つのに必死だった。
もひもひと口を動かしながら、聞いてみる。
「…今日俺を呼ぶって言ってたのか?」
「ううん、何で?」
イヴァンはきょとんと返事を返してくる。
じゃあ常態でこれかよ、とフランシスはちょっとイヴァンがねたましくなった。
どこで見っけたんだよ金の草鞋履いて探せって嫁さんをさぁ!
イヴァンがいそいそと持ってきた白ワインにあわせてキンキンに冷えたグラスを手に取る。
「可愛くてよく気がつく料理上手の奥さんなんていいよなぁ」
素敵な奥さんに乾杯、という気分でグラスを掲げた。
ところがイヴァンは自分の幸福を十分に認識できていないらしい(ばちあたりめ!)
「そうでもないよ、外面はいいけどケンカが絶えないし」
ほらほら、とめくった袖の下にはなるほど新しいのからもう消えかかっているものまでいくつかの傷が走っていた。
「なー、奥さんもここに呼んでよ」
「でも菊はお客さんを迎えたりするのがあんまり好きじゃないみたいなんだよねー…」
「可愛い子ちゃんを働かしておいて、落ち着いて飲むことなんてできないよ、おにーさんは!」
「…それもそうだね、お客さんの言うことだし…」
イヴァンは渋っていたが、もてなし好きのイヴァンのこと、やがてフランシスの強い要望にうなずいた。
イヴァンに呼ばれてやって来た彼にワインを勧める。
このワインはイヴァンの秘蔵らしく、本当にうまいのだ。
あれだけの料理を作るのだから彼だって酒の味は分かるだろう、だからザル二人に飲みつくされる前に是非味わってもらいたかった。
彼ははじめ戸惑っていたが、フランシスが強く勧めるとじゃあ少しだけ、とグラスを舐めた。
そして目を見開いた。
「イヴァンさん、このお酒、セラーの一番上に寝かせてた奴ですか?」
「そうだよ〜、おいしいよねえ、こんないいワイン今までどこに隠してたの〜?」
にこにこと上機嫌のイヴァンに彼はただそうですか、とだけ返した。
やっぱいいよなあヤマトナデシコ…今しがた席を立った彼のことを思う。
彼が作ってくれたカクテルを味わいつつふと横を見ると、イヴァンも彼に作ってもらった一杯を傾けている。
カラン…と氷のように鳴る、イヴァンが味わう茶色い海に浮かぶのはガラス片。
「ギャー!!」
大声に目をぱちくりさせているイヴァンの手からあわててグラスを取り上げた。
「いやいやいやそれフツー死ぬって!ちょっと待てよ…」
え?何?何なのこれ??さっきから何かおかしいとは思ってたけど奥さん怒ってる…よな?
「えーでもいつもこんなもんだし…」
「そーなの!?お前ら…どうして結婚したの…?」
「そういえばどうしてなんだろう…ねー、僕達どうして結婚したんだっけー?」
とイヴァンはよりにもよって戻ってきた彼に話を振った。
「ほほーう…」
ゆらり…と彼からどす黒いオーラが立ち上るのを見た、気がする。
持ち前の危機回避能力からの警告にフランシスはさーっと青褪めた。
「忘れたんですかあんたが結婚してくれなきゃ死ぬってそりゃもう情熱的に巻きついて離れなかったんでしょうが」
「そうだっけー?」
グラスや皿を下げにもう一度引っ込んだ隙にイヴァンにすばやく耳打ちする。
(おいっ何かめちゃめちゃ怒ってるぞ何やったんだよ怖いよ!今日なんかあったんじゃないのか?思い出せよ!)
(えー?何だろう…)
(俺はお前らの陰険夫婦喧嘩に巻き込まれて命を落とすなんてゴメンよ!?早く思い出せよ…!)
イヴァンはうーん、としばし悩み。
ぽんと手を打った。
「あ、結婚記念日」
「それだー!!!」
無言のプレッシャーから来る恐怖でちびりそうになっていたフランシスは首を締めんばかりの勢いでイヴァンに迫った。
思い出すのは出迎えられたときの輝く笑顔。
このほほ肉なんか3時間は煮込んでると思うし。
花もロシアが買ってくることはあっても彼は無駄だといってまず買わないとのこと。
腕によりをかけてご馳走作って記念日のワイン用意して待ってたんだよそりゃ怒るよワインは飲んじまったし!
もうおにいさん泣きそうだよ…!
とフランシスがどうフォローしようかと頭を悩ませているというのに、イヴァンは無神経に忘れてた、と言った。
聞き咎めた彼が真っ赤になった。
「わ、私ばっかり楽しみにしてばかみたっ…もう知りません!私のことなんてどうでもいいんでしょ!?」
実家に帰らせていただきます!と半泣きの彼をイヴァンは珍しく焦った声で引き止めた。
「ちょっと待って待って君はそういうことに興味ないのかと思ってたんだけど」
「約束したじゃないですか!結婚記念日にはいいワイン開けて二人で祝おうって…」
ずいぶん思いつめるタイプの奥さんらしい。
いきなり極論に走って別れましょう!?なんて叫びながらあの巨大なイヴァンを容赦なく揺さぶっている。
やっとイヴァンの腕の生傷をつけたのは彼だということが納得できた。
うわー…。目の前で繰り広げられる修羅場にフランシスは困り果てた。
知らなかったとはいえ記念のワインを飲んでしまった以上フランシスにも責任があるのだろうか。
しかしこの暴走をどう収拾すればいいのか百戦錬磨(修羅場的な意味で)のフランシスにも見当もつかない。
「僕が悪かった。だから許してよ」
珍しくキッパリと、イヴァンは己の非を認めた。
大変男らしい態度で、フランシスは大いに感心した。
しかし彼は頑なだった。
「許せません!約束どおり、針千本飲んでください」
いやそれ死ぬから!
フランシスは思わずツッコんだ。
まあしかし、何とか解決の糸口を掴んだ二人は落ち着いたように見えたので。
もう大丈夫だろうとフランシスは早々にイヴァンの新居を後にした。
新婚さんにあてられちゃたまんないしね!
そして後日、イヴァンの入院を知ることになる。
ブラックホールのような存在感のイヴァンが入院とは信じがたい。
フランシスは病院のベッドに横たわるイヴァンを目にするまで、冗談だと思っていた。
「お前が入院なんて信じられないんだけど…」
「愛のためかなーははは」
快活に笑うイヴァンの傍らで、あの夜の暴れっぷりが嘘のような大人しさで、彼がうさぎりんごを剥いている。
(飲んだのか?飲んだのか針千本!!飲ましたのか!?)
「菊の愛は胃酸でも融けなかったんだよっ」
何故か誇らしげに胸を張るイヴァン。
彼がポッと頬を染めた。
「ごめんなさい…」
「いいんだよ、おかげで菊がこうしてうさぎさんりんごを剥いてくれるんだもん」
ものすごく幸せそうにイヴァンも頬を染めた。
お前らの愛はおにーさんまったく理解できないよ…、
フランシスは遠い眼をした。
「僕は菊のそういうやるといったら絶対やるとこも好きなんだよ」
イヴァンがにぱっと彼に笑いかけ、
「僕ぁ死ぬまで君を放さないぞぉvv」
どっかで聞いたような台詞とともにぎゅうぎゅうと抱き締め始めた。
恥ずかしさで死にそうになっていた彼は、今度は呼吸困難と頸部の圧迫で死にそうになった。
「ちょー!待て待て死んじまうから…!」
最初はこーのバカップルがぁ…と生温く見守っていたものの、イヴァンに抱きすくめられた腕が痙攣し始めるに至り
イヴァン相手だと絶対にギブアップなどしない彼に代わってフランシスが止めてやらなければならなかった。
つ、疲れる…!
「…何でお前ら、離婚しないの?」
「しないよ!僕らは愛し合ってるのだから!」
バカップルには被害者の存在が欠かせませんよね!露日には仏兄を絡めたくなります。
日本君特製のおはぎをガリゴリ喰ってた露様はきっとガラスも針も消化しますよねえ(汗)