拍手ログ:小学生露日とひまわり
【1/5】
ふたりのこどもが青空に映える大きなひまわりの花を見上げていました。
ぽかんと口を開けて、ふたりはそのひまわりに夢中なのです。
「わー、きれいに咲いたねえ」
ほわほわとした栗毛の男の子が言うと、黒髪の男の子がうれしそうにうなずきました。
「はい、にぼしをやったりして、だいじに育てましたから!」
ふたりのまわりには学校の理科の授業で育てているひまわりの鉢がたくさん置いてあります。
きくが育てたひまわりはその中でもいっとう大きくて立派でした。
自分が育てたひまわりをほめられてきくはほこらしげです。
いつもならほめられると照れくさそうに引っ込んでしまうのに。
(きくのひまわりはにぼしを食べるの…?)
ひまわりの大きな花がまん中から裂けて、がばーっと大きな口を開けて
にぼしをバクバクと食べていく映像を思い浮かべてふぇりしあーのはちょっと怖くなりました。
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【2/5】
そんなふたりとひまわりを壁のかげから見つめている男の子がいました。
きくのとなりの席のいわんです。
いわんはひまわりが大好きでした。
あったかい土地でひまわりにかこまれてくらす夢を持つほどに好きでした。
でもきくに聞いて鉢ににぼしを突き刺してみても、いわんの寒い家ではひまわりは
きくのひまわりのようにしゃっきりと伸びてはくれないのでした。
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【3/5】
「ねえ、きくのひまわりとおれのひまわり、とりかえっこしようよ!」
さもいいことを思いついたかのようにふぇりしあーのが提案したので
かげで聞いていたいわんは鈍器でなぐられたような衝撃を受けました。
いわんはいつも誰よりも早く来て、きくのひまわりを観察していたのです。
誰よりも、咲くのを楽しみにしていたのです、もしかしたら持ち主のきくよりずっと。
いわんのねがいが通じたのか、きくのひまわりは大輪の花を咲かせてくれました。
それなのに、ふぇりしあーのが家に持って帰ってしまったら、見れなくなってしまう…。
くちびるをかみしめるいわんのことはつゆ知らず。
きくは言いました。
「だめです」
いわんはほっとしました。ところが―――
「このひまわりをあげるかたはもう決めてるんです」
ひまわりが好きだって言ってたから。よろこんでくれるでしょうか。きくはにこにこして言いました。
いわんを二度目の衝撃がおそいました。
きくは誰かにあのひまわりをあげてしまうんだ…。
すてきなお花をもらうのはきくがじょうずに絵がかけると見せにいくわんやおでしょうか。
それともいつもきくにお花をつんでくるとなりの組のあーさーでしょうか。
お気に入りのひまわりが誰かのものになるところを想像すると、いわんはがまんできなくなりました。
欲しくて欲しくてたまらなくなって。
きくとふぇりしあーのが帰ったあと、ひまわりに歩み寄ったいわんは。
そのままきくのひまわりを持ち去ってしまったのです。
拍手ログ:小学生露日とひまわり
【4/5】
次の日、いわんが学校に行くと、きくが泣いています。
いつもぼーっとした顔のきくがぼろぼろと分かりやすく感情をあらわにしています。
それを見るといわんも悲しくなりました。
ごめんね、ごめんね。
でも返す気にはなれません。
なぜっていわんはすっかりきくのひまわりを気に入ってしまったのです。
みんなにかこまれてなぐさめられているきくを遠くで見ながら、いわんは声をかけられません。
きくがみんなといっしょに帰ってしまってから、いわんは一人きり教室でわんわん泣きました。
泣きながらてがみを書きました。
なみだがにじんだ、みみずがのたくったような字で、ごめんね、と書きました。
拍手ログ:小学生露日とひまわり
【5/5】
「たのもー!」
きくがいわんのいえに乗り込んできたのは、てがみをきくの家の郵便受けに投函してすぐのことでした。
いわんはちょうどひまわりにお水をやっているところで、きくにばっちり現場を目撃されてしまいました。
「それ、わたしのひまわりでしょう?返してくださいよ!」
きくはめずらしく声を荒げて言いました。
「ぼくのだもん、だれにもあげないもん」
いわんはほほをふくらましてだだをこねました。
「いわんさんのおたんこなす!すかぽんたん!」
きくが泣きながらいわんになぐりかかってきました。
なぐられたら、なぐり返すのみです。それがいわんの流儀なのです。
ふたりは庭をころげまわって取っ組み合いのけんかをしました。
「きくくんのばかー!ばかばかばか!」
「いわんさんなんかきらいですー!」
服は土にまみれてよごれ、顔はなみだとつばでグチャグチャになりました。
気がついたとき、きくはいわんの下で、無表情が貼り付いた顔をゆがめて泣いていました。
くちびるが切れてしまって血が出ていて、とても痛そうです。
「いわんさんにっ…いわんさんにっ…」
大柄ないわんに馬乗りになられてくるしい呼吸の下で、きくはまだ何か言い立てていました。
「いわんさんにあげようと思ってたのに…!」
え…?
いわんはとどめを刺そうと振り上げたこぶしをピタリと止めました。
「え…と、ぼくに…?どうして…?」
「だっていわんさん、ひまわりがすきだって言ってたじゃないですか!だからっ…でもっ…」
しゃくりあげながらきくは言い募ります。
いわんはますます混乱して、どうしたらいいか分からなくなりました。
「いわんさんなんかにあげません!返してください!」
いわんの下から逃れたきくがひまわりの鉢を持ち上げようとします。
それを阻止しようとするいわんとの間でふたたび取っ組み合いがはじまり―――
「わあああーん!」
しばらくして、大声をあげて泣くふたりのこどもの前には、
ひっくり返ってグチャグチャになったひまわりの鉢が転がっているだけでした。