Shiny Daybreak
凪いだ湖面のような空気だった。
静かに、ひそやかに。
うっすらと、街の輪郭が浮かび上がる。
もうすぐ朝が生まれる。
「……あきらめ悪いよなぁ」
それはたぶん、苦笑以外の何物でもなかった。
響きに自嘲はなく、認めて、受け入れて、ただそれだけの。
「でも、悪足掻き、嫌いじゃないし」
ん、と大きく伸びをする。
そして悟空は、ゆっくりと背後を振り返った。
「――三蔵は?」
唐突に問われ、三蔵は驚いて紫暗を瞠った。
目覚めたら悟空の姿だけなく、半ば無意識に探して外に出た。
それでようやくこの場所に辿り着いたものの、膝を抱え蹲り、ひたと前を見つめる悟空に、なぜか声を掛けそびれてしまった。
振り向く様子もないので、てっきり気付かれていないと思っていたのだが。
「……さあな」
三蔵は曖昧に答え、悟空の隣に並んだ。彼に倣って腰を下ろす。
そうして目にする、金の瞳に映っていた景色。
同じモノでは決してあり得ない。
悟空は何を見ていたのだろうか。
果てのない天か、生きてゆく地上か。
――それとも、目に見えぬ未来か。
これから立ち向かう敵は、今までの相手とは違う。
打ちのめされた。
地面を這いずらされ、辛酸をなめ、一度負け犬のように逃げた。
しかし。
やはり今までの相手と変わりはしないのだ――自分たちが必ず勝つのだから。
そんな当たり前のことも見失っていた。
思い出したのは、隣に添う存在がいたからだ。
「約束」
不意に悟空が呟く。
真っ直ぐ、前だけを見つめていた瞳が、三蔵の姿を捉える。
「しないか?」
「何を」
三蔵もまた、悟空の姿を視界に収めた。
強い光。
三蔵にとって悟空は、おそらくそのようなものだ。
闇の中でも目映く、灼きつくように鋭く。
「勝つことか?」
「違う。勝つのは、もう決めてる」
紡ぐのが容易でない言葉を、しかし悟空は不遜に言い放った。
強がるでも言い聞かせるでもなく、単純にそれが事実、決定事項だと。
……先の戦闘で精神に受けたダメージは悟空も同じ。
それなのに彼は、なぜこうも揺るぐことのない眼差しを持ち得るのだろうか。
「そうじゃなくて、勝った後」
薄く、口許にだけ浮かぶ笑みに答えは見えない。
知ることができないのなら、それでもいいのかもしれないと三蔵は思った。
悟空がその裡に抱くものに変わりはないのだから。
「何の約束を?」
「そーだな……」
三蔵の問いに、悟空は視線を宙に固定して少し考える素振りを見せる。
数瞬後、悪戯を思いついたみたいに、笑った。
「全部終わったら、飽きるくらいキスでもしようか?」
そして――――夜が明ける。彼らの輝かしい一日が始まる。
1周年リクエスト(秋山三月様・鵜崎唯様)