ROSES and SUNSHINE 19
「甘やかし過ぎじゃね?」
「は? 何が?」
悟浄が何の話をしているのか、悟空にはさっぱりわからなかった。
だいたい、前置きも何もない。それなのに理解しろという方が無茶だ。
「海、誘われてただろ」
それが、さっきの意味不明な言葉の続きなのか、まったく新しい話題なのかもわからないが、今度は指す内容がわかったので、悟空は答えた。
「昨日のこと?」
夏休みだが、昨日は補習授業があって学校に行った。
外はいい天気なのに、何が悲しくて暑い教室に閉じ込められて勉強などしないといけないのか。
そんな不満が募り、そうだ、海へ行こう!――と教室の一角で盛り上ったのだ。もう夏も終わりだというにもかかわらず。
悟空ももちろん同調したのだが、今いるのは海ではない。
悟浄と二人、駅前の店でハンバーガーを食べている。
「だって、三蔵は模試で行けないって言うから」
「お前は行けるだろ?」
「三蔵がいないとつまんないじゃん」
「……お前さー、ホントあいつにべったりだよな」
「別に、フツーだよ」
「普通、ねぇ?」
悟浄は何やら含みのあるような言い方をする。
「フツー」
悟空は繰り返す。
「へぇ」
どこか笑みを含んだ悟浄の相槌が鬱陶しいので、悟空は話を断ち切った。
「それより、悟浄こそこんなとこで何してんだよ」
そもそも悟空と悟浄は、仲良く待ち合わせてこの店に来たわけではない。
悟空が一人でハンバーガーを食べているところに、悟浄が声をかけてきたのだ。
「俺は、バイト先がこの近くなの。いつもここで飯食ってから行くんだよ。『こんなとこで』はむしろお前の方」
結局、話がこちらに戻ってきてしまった。悟空は憮然とする。
別に隠すような理由はないが、この流れでは少し言い出しづらい。
「なぁ、なんで?」
悟浄がしつこいので、悟空はしぶしぶ口を割った。
「……三蔵待ってるんだよ」
「あ、そ」
案の定、悟浄は変な笑い方をする。
むっとして、悟空が悟浄にぶつける言葉を探した時――、
「――おい」
別の声が、割り込んできた。
「なんでコイツがいるんだ?」
三蔵が、悟浄を顎で指して言う。
「それはナイんじゃねーの?」
肩をすくめる悟浄に、悟空が追い打ちをかける。
「悟浄はもうバイト行くから、三蔵がその席座ればいーよ」
さっさと行ってしまえと言わんばかりだ。
「ひどくね?」
悟浄の呟きに応えたのは、また別の声だった。
「どうせ、あなたが余計なこと言うかするかしたんでしょう?」
「あ、八戒。そっか、八戒も一緒だったんだ。二人ともお疲れさま」
悟空はうってかわって愛想よく迎える。
だが、和みかけた空気を、三蔵がばっさり断ち切った。
「悟空、行くぞ」
「え? 三蔵、何か食わねーの?」
「いい」
「そう?」
「途中で何か食う」
「途中って?」
「――行くんだろ、海」
途端、悟空は勢いよく椅子から立ち上がった。
「行く!」
そして三蔵の気が変わる前にと、急いで食べかけのハンバーガーの残りを全部口に放り込む。
それを見て、三蔵はさっさと歩き出す。
悟空は三蔵と違って、口の中をいっぱいにしながらもバイバイと手を振って律義なところを見せたが、すぐに踵を返して三蔵の後を追いかけていった。
「……今から海?」
悟浄はあきれた声で呟く。
もう昼はとっくに過ぎている。今から行くのでは、着いた頃には、帰りの準備をしている時間帯だろう。
八戒が苦笑する。
「甘やかしてますよねぇ」
――どっちが、どっちを?
「残夏海岸」......end.