GO WEST ... cf.R40
「お疲れさまでーす」
「お疲れさまー」
撮影が終わったロケ地に、雑多なざわめきが広がっていく。
悟空はかぶっていた帽子を取って空を仰ぎ、ふうと息を吐いた。
今日もなかなかハードな撮影だった。アクションは少なかったが、体を動かすのが好きな悟空にとってアクションシーンは楽しく、苦痛ではない。それ以外のシーンの方がむしろ疲れが大きい。
早く帰って飯食べよう、とご飯候補をあれこれ頭に浮かべはじめた時、ふいに背後からがっちりした腕が首に巻きついてきた。
「よ、お疲れ。ついに明日か、アレ?」
「あ、明日なんですね、アレ」
歳も同じ、私生活でも親友という二人が、息ぴったりに悟空を左右から囲む。
共演者の悟浄と八戒だ。
その表情は、興味津々といったところ。隠そうともしていない。
「…………そうだけど」
悟空はため息まじりに答える。『アレ』が何かなんて、聞き返すまでもない。
「で、どうなんだよ」
「何が」
悟浄の聞きたがっていることをわかっていながら、悟空はそ知らぬふりをする。
「三蔵様の態度に決まってンだろ」
焦れたように悟浄は、悟空に巻きつけた腕に力を込める。
――――三蔵。
その顔を思い浮かべて、悟空は深いため息をつく。
「……別に」
「あ? なんだよそれ?」
気のない悟空の返事に、当然ながら、悟浄は納得しなかった。
「どういうことです?」
会話のなりゆきを見守っていた八戒も、横から口を挟む。
「だから、別に何も」
悟空はぼそぼそと付け加える。
「はあ? アイツが何も言ってこねーの!?」
「本当ですか?」
二人して、大袈裟なほどに驚く。
その言葉の後ろに続くのは――――『キスシーンがあるのに』だ。
明日の『アレ』とは、悟空のキスシーン。
それを聞いて、三蔵が黙っているはずがないのだ。そんなことは悟空が一番よく知っている。
――それを聞いたなら、だ。
「……言ってないし」
悟空は白状する。
このシーンに、三蔵の出番はない。少し前から、ドラマの中で三蔵とは別行動をしている。シナリオも分かれているので、三蔵は知らないのだ。
「ええ?」
八戒は驚きの後、「……まあ、悟空の気持ちはわかりますけど」とつぶやく。
三蔵に知られたらどんなことになるか。想像すると、とても言い出そうなんて気分にはなれず、悟空は沈黙することを選んだのだ。
「……でも、言った方がよくねぇか?」
悟浄は神妙に忠告する。
「言ってどうすんだよ! シナリオは変わらないんだから、俺が損するだけじゃん!」
やつあたり気味に悟空は叫ぶ。
「……でもなぁ?」
悟浄は同意を求めるように八戒を見る。
「後で知った時の反応が怖いんですけど」
いささかの保身も込めて、八戒も控えめに説得しようとする。
だが、悟空はあくまで言い張った。
「二人にも言っとくけど、ぜっっっっっったいに三蔵には言うなよ!」
悟浄と八戒はちらと視線を交わし合って、悟空の剣幕に気圧されたように、そろってうなずいた。