GO WEST ... cf.50
「せっかくのクリスマスに何だって男四人集まって麻雀しなくちゃいけねーんだよ」
悟浄のぼやきは百人いたら九十九人が賛同するであろうまっとうな意見だったが、あいにくと、この場にいたのは残りの一人に属する人間だった。
「悟浄、うるさい」
不機嫌な声でバッサリ斬ったのは悟空だ。めずらしく眉間にシワなんか作って、目の前の牌を真剣に見つめている。
テメ、と悟空に目上の相手に対する口のきき方を指導しようとした悟浄は、しかしタイミング悪く八戒ののんきな口調に遮られた。
「何って監督命令ですよねぇ。今度の撮影で四人の麻雀シーンがあるから、様になるようにって」
「だからってクリスマスだぞ!?」
「全員のスケジュールが空いてたのが今日だけだったから、しかたないでしょう。不本意なのはあなただけじゃありませんよ」
八戒が指したのは自分自身のことではなく、他人の会話が耳に入らないくらい集中して牌とにらめっこしている悟空のことでもないだろう。
ずっと黙りこくって牌を持つ手だけを動かしている四人目の面子――三蔵だ。
その不機嫌さは、この部屋に押しかけたときから変わらない。安定の仏頂面だ。
まあ、わからないでもない。悟浄と八戒がクリスマスのスケジュールが空白だったのは偶然だが、三蔵と悟空はたぶん偶然ではない。三蔵自身はクリスマスのようなイベントに関心があるとは思えないが、悟空が楽しみにしていることは身近な人間なら誰でも知っていた。つまり、そういうことだ。
「――ロン」
三蔵が不機嫌な声であがりを宣言し、手牌を倒す。
げ、と悟空が呻いて、パッタリと後ろに倒れ込んだ。
「もーダメ。俺、払えねー。トップだれ?」
「僕より三蔵の方が少し上のようですね」
何せ鬼のように勝ってましたし、と八戒が点数表を見て答える。自分の負けは少ないものだから、口調も軽い。
対して負けが込んでるのが悟浄と悟空だ。最下位はダントツの悟空だが、悟浄からすれば自分の方が不利だ。絶対払うのムリ、と悟空は嘆くが。
「お前は現物納付があるだろ」
「って何?」
「それより俺だよ。ねぇわ、金」
悟浄は悟空へボールを投げっぱなしにして、頭を抱える。
「自分の言ったことには責任を持てよ。次の撮影まで待ってやるから、きっちり耳揃えて払いやがれ」
三蔵は一ミリたりとも情状酌量がない。
「……だよなぁ?」
そもそも賭麻雀を言い出したのは悟浄だったのだ。クリスマスにそれくらいの楽しみがないとやってられないと思ったのだが、完全に裏目に出た。
「三蔵、俺も」
眉を下げて悟浄に続く悟空に、三蔵はさらりと言う。
「お前は払えねぇなら帰るなよ」
あっさりした口調とは裏腹に、獲物を前にした獣が舌舐めずりする音が聞こえてくるようだった。
(あー、やっぱり現物納付なんだ)
悟浄と八戒は揃って思ったが、口には出さなかった。
ただ、次の撮影は上半身裸になることを三蔵が覚えていればいいけど、と、自分たちが帰った後の悟空の身をひそかに案じたのだった。