06/28-09/19 国立西洋美術館

▼16世紀から19世紀のドレスデンにおける芸術潮流に焦点を合わせ、ドレスデン国立美術館の9つの部門から選りすぐられた約200点により、コレクションの全貌を紹介する。(同展チラシより)

▼最初に、ザクセン選帝侯が愛し、ドレスデンのコレクションの始まりである、地球儀、製図用具、狩猟用具などが並んでいます。削ぎ落としたかたち、そこに刻まれた文様に惹かれる。が、時代背景を会得するなり、イタコ化してザクセン選帝侯を呼び寄せるなりしないと、真の意味での萌えは体感不能かも。ところで、棍棒に胡椒挽きが仕込まれているのは、獲物を撲殺〜早急に調理ってことなのか?図録読んでくればよかった。
オスマン・トルコの美意識に彩られた武具の展示もあり。短刀の曲線、鞘の装飾が素晴らしい。やはり、トルコ石があしらわれてたりする。あとは、レンブラント「ガニュメデスの誘拐」を中心に、弟子の作品を展示とか。「ガニュメデスの誘拐」は、様々な事柄を内包しているらしい。表面的に見ても、子供が鷲にむんずと捕らえられ、つぶれた顔で泣き叫び、尻は丸出し、放尿してたりと凄まじい絵。他、日本や中国の陶磁器と、そこから影響を受けたマイセンを比較展示とか。色々。

▼こちらの展覧会のチラシ・ポスターには、フェルメールの「窓辺で手紙を読む若い女」がどーんと掲載されています。しかし、そのプロモーションは間違いなのでは。世界を横断した博物趣味を前面に出してくれればいいのに。そちらの方が、見る前のイメージと実像が結びつくし、第一面白そう。フェルメールだけに寄りかからなくとも、演出次第でどうにでもなる展示品だと思うのですが。裏を返せば、決して悪くない展示品全般を、敢えて殺してるってーことです。(07/01訪問)

06/11-07/18 東京藝術大学大学美術館

▼「近代植物画の誕生」「大航海時代と植物画の黄金時代」「“植物画”―ジャンルとしての確立」「植物画の衰退と伝統の継承」「植物画のルネサンス」という構成。

▼「近代植物画の誕生」は、レオンハルト・フックスの「新植物誌」、クロード・オーブリエ他。作風的にも、植物画の祖という雰囲気。時代を大きく超え、現代に生きる作品を拝見。「大航海時代と植物画の黄金時代」は、果実系のウィリアム・フッカー、ウィザーズ、ポープの椿とか。葉脈から毛に到るまで、あくまでも美しく、すべてを写し取ろうとする気概。黄金時代は伊達じゃない。

▼時代を経るにしたがい、玉石混淆な印象に。「サイエンスとアートの融合」と言うけれど、どちらも中途半端じゃないか?至宝?そうなの?と、ひとり問い返してみる。玉系をあげれば、アレクサンドル・ヴィアズメンスキーのキノコ。キノコ本体はもちろん、飛び散った土まで馬鹿丁寧に描いております。

▼植物の識別というか記録方面から見ると、メロンの表面がボコボコだったり、リンゴの形が扁平で尻が妙に膨れてたり、ヨーロッパなだけあってシャクヤクが細葉タイプだったりするのが興味深かったです。(07/02訪問)

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巡回:07/23-09/04:神戸市立小磯記念美術館 10/22-11/20:全国都市緑化ふくおかフェア アイランド花どんたく

06/11-08/07 東京藝術大学大学美術館

▼明治宮殿千種之間天井画下絵、明治宮殿常御殿杉戸絵下絵、桜、写生帖を展示。

▼天井画下絵は、柴田是真像の輪郭を辿るという意味において、貴重な資料というか作品。失われた明治宮殿の姿も、補完できます。
画面には、蒔絵師のデザイン感覚と、絵師の筆触が融合されているよう。植物は円形を生かしたデザインで皆美しく、花や葉の隙間には是真の手の動きが窺えます。加えて、日本的情緒がひとさじ。この辺りは、「植物画世界の至宝展」を見た後だからそう思えるのかも。
会場には、天井画のCG再現や配置図がありました。けれども、下絵を実際に並べてもらいたいもの。だだっ広い会場で何とかならんでしょうか。

▼写生帖は、草木、動物、風景など多岐にわたっています。全体的にラフな感じですが、牛に関しては微細。前から薄々勘付いていたのですが、是真って牛フェチですよね。魅せられてますよね。今回、確信しました。それと、ブダイって江戸まで入っていたのだなーと、大分離れた部分が気になったり。(07/02訪問)

06/17-09/04 森アーツセンターギャラリー

▼絵画56点と彫刻4点を公開。17世紀のエル・グレコ、18世紀のシャルダンに始まり、19世紀のロマン主義、印象派、後期印象派を経て20世紀の表現主義や抽象主義にいたる近代西洋美術の流れを実体験。(同展チラシより)

▼明るい色彩を用いた作品が多い印象。ルノワール「舟遊びの昼食」の残像をひきずっているから、そう思えるのか。内容はタイトル通りで、有名所が揃い踏みしておりました。

▼つらつらと。 / エル・グレコ、ゴヤの「悔悛の聖ペテロ」。共に気持は伝わってきますが、エル・グレコ版の方が臨場感あり。単なる好みですが。 / シャルダン「プラムを盛ったボウル」。水差しは、他作品に登場するものと似ているけど違うよなーとか思ったり。 / コンスタブル「スタウア川のほとり」は、アクションペインティングの父。と、適当なことを言ってみる。 / ドガ「髪をすく女たち」は、プライベートな空間と髪の生々しさが不思議な感触。 / ゴーギャン「ハム」。簡略化と塊具合が良い按配。塩気が効いた配色も良好。 / ボナール「開かれた窓」は、反則の領域に片足突っ込んだような色彩が、妖しい魅力。光が満ちているのか。 / ブラック「円いテーブル」。平たく言えば、センスが良いってーことなのではないかと。ざらついた画面が効果的。(07/15訪問)

06/07-07/18 東京国立近代美術館

▼古径の代表作約100点を3章にわけて構成し、画業の軌跡を辿りながら、古径の芸術が現代に語りかけるものを探ります。(同展チラシより)

▼「加賀鳶」「機織」「壺」などは、本画とあわせ下図の展示あり。完成に到るまでの道筋が露わになっていました。また、摸写や写生により、制作の根幹を垣間見られたり。興味深かったのは、スケッチが後の作品にうっすら転写されている所。エジプトの猫や女王が、隙間から顔をのぞかせ。あと、宗達に取材したかのような犬がいました。

▼作品の印象は、停止ボタン発動。画面に刻まれていた、微かな動きや時の流れ。それが、気付くと消滅していた感覚。そして、押されたボタンの先には、結晶化され研ぎ澄まされた空間がピンと張り付いているのでした。それが最も進化し、濾過されて生まれたのが「孔雀」だと思う次第。描く描かれる以外には何も存在せず、画面には羽を広げ佇む孔雀。過去も現在も未来も削いだまま、佇んでいるような。(07/16訪問)

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巡回:07/26-09/04 京都国立近代美術館

▼6月7日〜7月18日
こちらの常設展は久々。さり気なく所々展示替えをしていました。常連作品もあるけど。

▼「明治・大正期の美術 大正のヒューマニズム」コーナーに複数の自画像あり。同じ場所に展示されていました。木村荘八は、白シャツを着た文学青年。顔の中で絵具がこねられています。甲斐仁代は、頬の赤みが印象的。中村彝は額が凝っており、コクトー風文様が取り囲み花などのモチーフがあしらわれています。作品と合っているかは微妙。自画像から離れた部分では、徳岡神泉の陰鬱な色調が気になったり。画面全体に、今にも雨が落ちてきそうな灰色の雲がかかっているよう。昼間なのに薄暗くて湿気があって、天候が悪くなる前の不穏な一時。「蓮」は、そんな十八番芸(なのか?)を内包した作品。葉の上にはグミのような水滴がころがっていたり、よく見ると葉陰に亀が潜んでいたりもする。もう一つの作品「狂女」は、表現過多に思えました。

▼「昭和戦前期の美術 都市のなかの芸術家」にあった、三岸好太郎「雲の上を飛ぶ蝶」。綺麗な羽をまとった蝶の群れ。飛ぶわけがない雲の上を飛んでいるという幻が、キャンバスにひらひらと思い思いに浮遊する。
こちらでは見た目や題材に共通点のある作品を並べ、展示している様子。「現代美術−1970年代以降」では、赤塚祐二「hana 119111」とゲルハルト・リヒター「抽象絵画(赤)」、岩本拓郎「SQUARE-92-3<メタリックの海−ブルー>」と杉本博司「カリブ海、ジャマイカ」「日本海 隠岐 I」「地中海 カシス I」が隣り合っていました。それぞれ、タッチや質感が似ていたり水平線だったりします。しかし、見え方はどことなく似通っていても、内側にあるものや成り立ちの根っこは異なっているのではなかろうか。その辺りどうなんだろう。

▼トニー・クラッグ「メーター(計量器)」が、ちょろぎに見えて仕方がなかった。(07/16訪問)

06/03-07/18 池上本門寺・霊宝殿

▼池上本門寺に伝わる狩野派作品の展示と、狩野家墓所調査の結果報告を兼ねています。寺宝や遺品を見る機会は少なそうなので、いい経験が出来たという感じ。

▼作品は、尚信の洒脱な筆致が見られる「寒山拾得図」、養信(晴川院)による血色の良い「日蓮聖人像」など。中信「水鳥記絵巻」は、お話が面白かった。酒豪による酒豪のための酒豪合戦。酔ってる、吐いてる、倒れてる。名前が早呑、桶呑、吐次、常赤、鉢呑、酔久ということで、ぬかりがありません。少々不思議に見えたのは、英一蝶「釈迦如来像」。一蝶といえば、躍動感に溢れた線が特徴のひとつですが、この作品の線は随分と硬質。仏画を考慮に入れてのことなのでしょうか。厨子を突き破るようにして現れた雲、雲の上には釈迦如来。常軌を逸した構成には、ただものではない香りが漂いますが。飛び出す絵本なのか?とツッコミ。栄信(伊川院)筆の添書あり。

▼遺品は、経巻軸頭、喫煙具、位牌厨子、文房具など。周信の眼鏡が気になる。老眼鏡らしい。それと、養信の遺体が納められていた甕棺は、リアルもいい所。入ってたんだ、肉体が肉片になり骨と化していったのだと、奥底を覗き込みながら危うい想像。(07/18訪問) 境内には、狩野派のお墓が点在しています。力道山も眠っているらしい。それから、霊宝殿に掲げられていた総門扁額は光悦筆なのだそう。

07/16-08/28 東京ステーションギャラリー

▼五百城文哉の百回忌にあたる今年、その画業の全貌を紹介しようとするもので、研究的側面と美術的側面の両方に成果をあげた代表作《高山植物写生図》94点を含め、約150点を展示(同展チラシより)。3部構成。

▼「還ってきた水彩画」では、海外からの里帰り作品を紹介。日光で生計を立てるために描かれたもので、日光を訪れた外国人観光客が買い求めていったそうです。題材は、日本の風景や生活の営み。作品は、人と自然と建造物に、水彩の光と影が溶け出しています。場所柄を反映し、日光の風景多数でした。あんな角度こんな角度から描く東照宮とか。モチーフの堆積、幻獣たちがうねる様は、描きつつ嵌りそうなシチュエーション。杉並木の深く湿り気を帯びた緑が印象的でした。

▼「甦る明治の洋画家」は、旅の生活の間に描いた肖像画風景画など。絵を描き画料を得ながら、旅をしていたことがあるそうです。肖像画は、描法が少々由一チック。顔の皺に、人生の証を刻み込んだ感じ。家族の肖像もあり。こちらは穏やかに柔らかく描かれている様子。

▼「咲き競う百花・五百城文哉の植物画の世界」では、「高山植物写生図」、植物大盛の掛軸・屏風を展示。日光定住後の五百城は、高山植物の栽培・研究を行いました。「高山植物写生図」の連作は、栽培・研究が美術方面において具現化されたものと思われます。見応えあり。この作品は、日本のボタニカルアートの先駆と言われているそうです。が、背景付きで、植物が根を下ろした状態で描写されており、異色というかボタニカルアートの範疇からはみ出ているかも。ポイントは、植物が今その場所に生きていることかと。掛軸・屏風は、「晃嶺群芳之図」「御花畑図」「百花百草図」「百花屏風」の4点。こちらは具現化地点から進み、深化を経て、誰も知らない花園に辿り着いたというか。形容するのも、もどかしい。

▼作品の背後には、いつでも五百城文哉の暮らしが見え隠れしているのでした。極私的な履歴書というか。(07/18訪問)

07/20-09/11 東京国立博物館

▼画期的な発見となった井真成の墓誌を核として、7〜8世紀に日本からの遣唐使がその目で実見したであろう唐文化の品々を、遣唐使関連の日本伝来の遺品とともに展示。(同展チラシより)

▼夏バテしたかのような展示。細工がやたら美しい碗や長杯・高脚杯、人やら馬の三彩があったりしますが、墓誌で力尽きた感は否めません。平成館の半分のみ使用、おまけに余裕を持たせた展示で、当日券1300円はぼったくりだろ。とにかく墓誌に興味がある、見たいというのなら、払っても惜しくないのかもしれんですが。(07/23訪問)

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巡回:09/20-10/10 奈良国立博物館

扇・団扇意匠がたくさん。本館 日本美術の流れ「暮らしの調度 ―安土桃山・江戸」(6/21〜9/11)は特に多いです。同じく本館「茶の美術」(7/5〜10/23)には、「織部扇形向付」(江戸時代・17世紀)が鎮座。一揃いが放射状に並べられていることもあり、合体ものに見えます。織部なだけに模様が面白い。東洋館には、特集陳列「朝鮮のうちわ」(7/12〜9/25)が。骨がやたら細かったり、先が折れ曲がっていたり。あと、見た目は涼を呼び込むというより暑さを蹴散らす系かも。

特集陳列 扇面・団扇 7月12日〜8月21日
今すぐあおげます状態から、平らにされ貼り付けられました、独特な意匠を屏風や着物に生かしましたまで。形態は色々様々。 狩野正信「芦雁図扇面」(室町時代・16世紀)は、あおげます。描法涼やか。正信は伝もあり。酒井抱一「扇面雑画」(江戸時代・18世紀)は、貼り付けられています。連なり泳ぐメダカ、水辺のコウホネ、ツユクサの3点。夏のせせらぎが感じられます。コウホネの黄が印象的。メダカ、ツユクサの花が小さく可憐。池大雅・与謝蕪村「扇面画類聚」(江戸時代・18世紀)は、掛軸状になっていました。扇面散図屏風はどれも華やかで、扇の中には多彩な絵画世界が展開していたり。

目に付いた作品:「孔雀明王像」(平安時代・12世紀)は、何もかもが繊細。(国宝室 7/5〜7/31) / 雪村周継「蝦蟇鉄拐図」(室町時代・16世紀)は、いつ見ても妙。蝦蟇が直立。(禅と水墨画 ―鎌倉〜室町 7/20〜8/28)  禅と水墨画には雪舟あり。(07/23訪問)

07/20-09/11 東京国立博物館

▼「古典にまなぶ」「正倉院にまなぶ」「文化財をつたえる」に分けた構成。模写の意味や役割に焦点を当て、美術の原点を探り出そうという意欲的な企画。出来そうで出来ない展示。て、出来てますけど。

▼展示は、創造の糧となる古画学習、岡倉天心を中心とした摸写模造事業の成果など。狩野派から大観まで。元は雪舟が人気。
春日権現験記絵巻は、冷泉為恭による復元模写と、前田氏実・永井幾麻による現状模写があり、比較可能。色彩に留まらず、顔立ちまで差異があったり。技の光り具合が眩しかったのは、森川杜園による九面観音立像模造。とても細密でした。
それにしても、近代美術の動向に岡倉天心が絡まないことはないのだなーと、展示品を見て思う。

▼模写の利点のひとつは、普段は見られない、或いは失われてしまった文化財の姿を伝えてくれること。桜井香雲、近藤千尋、荒井寛方他による法隆寺金堂壁画は、元が焼失していることも相まって貴重な存在。また、前田青邨他による高松塚古墳壁画では、バーチャル体験が出来たり。しかし、普段は見られない古墳内部が模写で見られるという位置付けは、その内変わりそうな予感。…普段が永遠になったりして。復元関係では、北村大通による玉虫厨子が壮観。玉虫は、小中学生の手まで借りつつ収集したそう。ギラギラ。(07/23訪問)

▼古き良き下町の文化を後世へ伝えるべく、昭和55年(1980)開館。

▼1階展示室は、大正時代の下町を再現。大家である商家(花緒製造卸問屋)と、長屋(駄菓子屋・銅壺屋)が並んでいます。長屋の少々古びた外観に和む。散りばめられた家財道具、駄菓子屋の品揃えに狭い店先、路地に揺れる洗濯物。醸し出す生活感が絶妙。見知った場所に立ち返ったような懐かしさを覚えます。この風景は昭和にもあった。商家は記憶にないけど。すべて中に入れます。 角の小さなお稲荷さんでおみくじをひいたら、吉でした。

▼2階には銭湯の番台や、地域ゆかりの資料・生活道具・玩具などを展示。1階に続き、タイムスリップ必至・情緒をくすぐられる品揃え。番台には、銭湯に描かれた絵各種のパネル展示あり。結構個性的。

▼訪れたのはかなり前のこと。日にちも定かではないので、とりあえずこちらに記載。






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