04/23-07/15 損保ジャパン東郷青児美術館

▼フランス絵画を8つのセクションに分け、概観。魅惑されるかどうかは不明だが、タイトル通りの様相です。しかし、縦やら横やらのつながり、時代の流れはあまり感じられないような。個人的には、作品単位で見ていった次第。微妙な立ち位置の作品に味わいあり。

▼メインはクールベ。目玉である「出会い、こんにちはクールベさん」は、クリアな視界。て、何?「まどろむ糸紡ぎ女」は、二重あごと首のしわを、美しい色調が覆います。て、何?全てにおいて無駄がない感じ。「縞の襟をつけた自画像」「ボードレールの肖像」「ラ・トゥール・ド・ファルジェの眺め」の出展もあり、充実の顔ぶれ。
それにしても、クールベは不思議な存在で。字面の説明で合点がいけども、作品の前ではつかみ所がなく。「アンブリュッサムの橋」の、朽ちた橋の下で漂う水面のような。揺らぐ水と色彩がすり抜けていくような。そんな感覚。でも、クールベ展があると見に行ったりするのだから、つかまれてはいるのかも。

▼その他印象に残ったのは、カール・ヴァンロー「善きサマリア人」のざっくりとした青。それから、ユベール・ロベール、アンリ=ジョゼフ・アルピニーといった辺り。アルピニーは、廃墟から放射される几帳面な構図に、配色の妙が折り重なり。ジュール・ローランス「フォンテーヌブローの砂地の道、雷雨の効果」の不穏な風向きもなかなか。既視感があるのは何故。それと、ピエール=アタナーズ・ショーヴァン「ナポリ近辺の風景」は、異次元な面において印象的。白と灰色の噴煙を上げる山と、ひょろひょろな木々を背に娘たちが踊っています。アウトサイダーな香りが濃厚。マティスは初期の、らしくないマティスでした。静物画。

▼冒頭でつながりが感じられないと書きましたが、「バジールと印象派の時代」というセクションにはあったかも。ここでは、画家たちの交流やら影響やらを、作品を通し見ることができます。バジール「草の上に横たわる裸の少年」の下地はモネとか、アルフレッド・シスレーがマネ生き写しのタッチと色彩で青鷺の屍描いてたりとか。作品は正直。(06/03訪問)

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巡回:07/30-09/11:茨城県近代美術館 09/17-11/03:山梨県立美術館 11/15-12/25:大阪市立美術館 2006/01/11-02/12(予定):長崎県美術館

04/01-06/19 大倉集古館

▼「曼荼羅の世界」は、タンカ(軸装仏画)多数。それらは、チベット美術の世界的レベルに達しているそうです。解説の文末も、判で押したように「貴重である」という締めくくり。念が入ってます。
曼荼羅の世界は、伊東忠太の世界と呼応しあい、怪しさをふりまいていました。後ろ向きな理由で、怪しいわけではありません。忠太建築の魔力です。きっと。型通りに描いたように見える作品と、細やかで美しい仕上げの作品がある印象。
ボン教のカード型図像「ツァカリ」、十二支他の図像が目を惹く占星術巻物、獅子他による金色の光背・台座断片は、私的興味度高し。大型タンカ「王の物語」も、やたら細密で、むやみに壮大くさく面白かったです。光線を放つ王を中心に据え、数多の光景が繰り広げられているという。走る馬車、崇める人々、死者の弔い(かも)、収穫(かも)と色々。こんなこと書いてますが、モチーフの意味は明らかになっていないとのことです。

▼「インドの家庭の神像と画像」は、何となく身近な雰囲気。少々雑多な展示がそう思わせるのか。インドの神像が、遥か彼方の日本とどのように繋がり、且つ変化を遂げたのか。その辺り、興味深かったです。(06/04訪問)

04/02-06/12 泉屋博古館分館

▼「武家の小袖」「公家の小袖」「町人の小袖・近代の着物」「富裕町人の小袖」に分け展示。身分による違いや特色はあまり感じられず。総絞りか、手が込んでるな。「白紺染分綸子地波千鳥模様小袖」のトリコロールで作られた層は、可愛らしさの中に斬新さが見られるな。早い話が、どれもこれも刺繍や図柄や色が華やかだな。て、駄目だろそれ。強いてあげれば、町人の小袖が多少シックに感じられたのと、鷹模様のあしらいに武家気質を見た位でしょうか。あと、江戸から明治にかけ、裾模様の流行があったようで、複数見かけました。

▼夏衣裳のコーナーもあり。清涼感を考慮した作りで、水流は欠かせないらしい。(06/04訪問)

05/28-07/18 東京都写真美術館

▼ピクトリアリズムに始まり、自然主義、ストレート・フォト、シュルレアリスムにバウハウスまで。写真史をそっくりそのまま展覧会に移植した構成です。ひねりがないというか、実直というか。しかし、時には基本に立ち返ることも必要。なのかもしれない。

▼作品選定は山といえば川的で、予定調和に陥り気味。代表作展示しとけみたいな。展覧会の作りを考えると、仕方がないし必然か。でも、作品数を増やせば、幅が出てどうにかなった気もしたり。とはいえ、作品自体は面白く魅力的でした。

▼個人的には、「芸術写真」が興味深く。引き伸ばしたり、ぼかしたり、色々試みております。徒花くさい気もしますが、梅阪鶯里のゴム印画で日本画接近写真とか。ひなびた色彩と、空白をまとったケシや雪山に、後ろ髪ひかれます。印章付き。福原兄弟のキャラ違い写真もいい按配。コーナー違うけど、エンネ・ビアマンも忘れられません。(06/04訪問) 1部を見ていないのが悔やまれます。

01/25-07/10 ブリヂストン美術館

▼館蔵品を中心に、近代美術を辿る展覧会。恒例ともいえる企画で、毎回見かける作品が多いです。それはそれで安心感があり、また会えたという気持になれたり。ルノワールのジョルジェット嬢やピカソのサルタンバンクはいつでも座っているし、モネの睡蓮の池は揺らぎ、アンリ・ルソーの風景は出所不明の魅力と浮遊感を放ち、藤島武二描く女性は黒い扇子を手にしている。逆に、時たま出展される作品もあるようで、少しずつ見た作品が増えていくという寸法。

▼今回は、マティス展示多し。油彩が11点。「マティスとフォーヴィスム」とありましたが、実際は殆どマティスでした。加えて、「ジャズ」もあったり。印象深かったのは、藤田嗣治の対幅展示。通路を挟み、「横たわる女と猫」と「裸婦と猫」が、対称的に並べられています。内容も、女性の外見やポーズ、猫の毛色、背景の色などが反転したかのよう。似てないけれど双子みたいな。これら2作品は、出会うべくして出会ったと言えますが、それぞれひろしま美術館蔵に石橋美術館蔵。普段は離れている作品の仲人役が、ブリヂストンだったということでしょうか。(06/07訪問)

04/23-06/26 出光美術館

▼茶陶の造形が生み出された背景を追う。源流は複数あり。

▼ひとつめの源流は、土器。土器はやがて樂茶碗になり、乾山の土器皿へ到る。手で作るからつながっていて、キーワードは王朝人らしいです。そうなのか?源付近の存在である、平安京跡出土・緑釉陶器の色彩が美しかったです。乾山の皿も、色とデザイン良し。他のコーナーにも乾山はあったけれど、何れも好み。
焼き締め陶器の源流展開もあり。ここらには大変しびれました。シンプルな造形に、灰釉がかけてあるだけ。たまに、これまたシンプルな線刻が入る位で。ざらついた表面、渋く趣きある色彩、過多じゃない所に惹かれるのかも。
中国をモデルとし、咀嚼して茶陶誕生ということで、和漢並べての展示も。籠の形との関連についてもふれてありました。

▼あとは、州浜の意匠を掘り下げたり花鳥柄をまとめてみたり。州浜は我道を行く解釈に見えましたが、そんなことはないのでしょうか。こちらでは、渥美窯の秋草文壺と、珠洲窯の樹木文壺が印象に残りました。原始的且つ細やかな線刻や釉のたれ具合、釉どころではなく土器状態の有様に惹かれっ放し。結局、こういう趣味ということで。樹木文壺は他所でも見たことがあるのですが、出光独自の解説が付いており新鮮でした。それに四方八方から見られたし。

▼展示品は優品揃い。館蔵品以外の出展もあったりで、集め具合も良好でした。(06/25訪問)

▼日本の博物学シリーズ 特集陳列 博物図譜−その系譜をたどる− 6月21日(火)〜7月31日(日)
図譜は写生に加え、図譜から図譜への描き写しが行われていたそう。転写されてゆく博物図譜。ということで、博物局編「博物館獣譜」(明治時代・19世紀)と「諸鳥獣図」(江戸時代・19世紀)が広げられているのでした。どちらの図譜にも、背をかがめ、頭を下げた狼が鎮座中。そっくり。こうしてひとつの会場で、事例が確認出来るのは良いです。図譜と図譜の関連性については、他にも様々言及されていました。
「長崎渡来鳥獣図巻」(江戸時代・19世紀)は、中国・オランダ船で輸入された鳥獣類を描いています。データがなかなか詳細で名前・渡来年の記載あり。ラクダのつがいは顔、体高、脚、尾の寸法が記されていたり。「博物図譜」(江戸〜明治時代・19世紀)は、双頭の亀や四足の鶏を掲載。亀は、文化6年3月、沼隈郡神村羽尾山にて農夫が捕獲したそうです。ここらは幻獣・珍獣扱いで描きとめているのか、はたまた見世物感覚なのか。不明。白狸や妙なオットセイも描いてあったな。写生部門では、円山応挙「写生帖」(江戸時代・18世紀)。バッタにイナゴにクツワムシ。虫だらけ。関根雲停の活躍も見られました。 それはいないだろーという動物も散見。鳳凰。ユニコーン。

▼特集陳列 万国郵便切手 6月14日(火)〜7月24日(日)
19世紀末〜20世紀初頭の世界の切手を展示。英雄、物語の登場人物、風景、催事などが図案に採用されています。採用具合は、現在の切手と似たようなものか。色彩は、単色、2〜3色使いが主でシック。違うのもあるけど。 紙幣をアレンジしたと思われるデザインや、アール・ヌーヴォーの影響を受けまくりなデザインが楽しい。アール・ヌーヴォー切手は、納得のオーストリア発行。エチオピアの動物切手が可愛らしかった。

▼目に付いた作品をだらだらと
色とりどりの料紙に、小さく繊細な鳥や草が描き込まれた、見目麗しい法華経がありました。(特集陳列「写経」〜2005/7/24) / 「虚空蔵菩薩像」(鎌倉時代・13世紀)は、細部まで張り詰めて描かれているというか、美しい。下方にあるは伊勢朝熊山。(仏教の美術 ―平安〜室町 〜2005/7/18) / キャラ違いの仁清「瀬戸釉平水指」「褐釉茶入」(江戸時代・17世紀)あり。釉の景色を見るとかそういう感じ。(陶磁 〜2005/9/4) / 谷文晁「彦山真景図」(江戸時代・文化12年 1815)は、点描で覆われた奇妙な山水。そそり立つ。サイズ大。(屏風と襖絵 ―安土桃山・江戸 〜2005/7/31)
梅雨だから:英一蝶「雨宿り図屏風」(江戸時代・18世紀)は、日常のひとこまを生き生きと描写。雨が降り、走りだす人々。しなる柳に濡れそぼる木の葉。軒下には、行商人から獅子舞、犬までがひしめく。困り顔の大人たち、楽しげに遊ぶ子ども。雑多な顔ぶれと、それぞれの表情、動きが肝。画面の饒舌ぶりに鷲掴みされる。(屏風と襖絵 ―安土桃山・江戸 〜2005/7/31)
夏だから?:扇、団扇、貝図像多し。透彫が印象的な織部の扇があったり、形が可愛らしい貝蒔絵があったり。浮世絵はお座敷納涼とか。(06/25訪問)






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