2004年11月

江戸の版画芸術展 −黄檗美術と江戸の版画−
10/02-11/23 町田市立国際版画美術館

▼2度目の訪問。展示替えされていたため、新たな楽しみがありました。

▼若冲筆「石峯寺図」は、境内の完成予想図のような、夢想の印画のような。点描表現が見られます。この作品、今年の京博・新収品展に出ていたと思います。

▼1部と2部は相変わらず剥離しています。が、別展覧会と思えば問題解決。それぞれ、作品自体は良いのですし。一粒で二度美味しい。(11/03)




色彩と幻想の画家 エミール・ノルデ
09/18-11/07 東京都庭園美術館

▼風景、人物、ダンス、花、幻想、描かれざる絵に分け展示。バランスの良い選定で、ノルデの全体像が浮かび上がる構成になっていました。

▼水彩画の鮮烈な色彩と滲みが網膜に染みてゆき、脳にも広がる感じ。ダイレクトに器官にすべり込むというか(文章で表現し難くもどかしい)。特に風景と花が来ました。木版の荒々しさ、黒がのる感触も印象的。あと、そこかしこに幻想世界が放たれています。

▼色彩に触れておきながら、心許ないこと書いてみたり。展示作品から得られる色彩と、ノルデが生み出した色彩の間には、微かなずれがある気がしないでもない。照明の色が、作品に混ざってたりするし。混ぜるな危険。(11/03)




金刀比羅宮のすべて
09/17-12/12 金刀比羅宮

▼表書院:昨年訪れた際、応挙展に出張中だった虎たちも、きっちりはまっておりました。中に入れたし、本来の形で見ることが出来たかなと。さすがに、至近距離というわけにはいきませんでしたが。

▼高橋由一館:元々充実の金刀比羅宮コレクションに、外部所蔵品を加えた展示。由一版・鬼に金棒。琴平山に山形市街と、四国・東北風景をまたにかけていたり。芸大コレクションの「花魁」等があったり。芸大といえば、この展示には「あの名画《鮭》が来た!」というコピーが付いていました。が、訪問時に鮭の姿はなし。全期間展示しないのに、誇大広告だなーと思ったです。

▼宝物館:よろずな年代に、若干カオス入ってたり。クラシカルな建物の手助けもあり、博覧会的雰囲気が漂っていたり。と、書きつつパンフを見たら、シカゴ万博日本館の設計者が手がけた建物と書いてありました。そういうことか。長澤蘆雪の「鯉魚図」は、よくあるタイプのもので、蘆雪ならではの匂いはあまりないような。他、「なよ竹物語絵巻」、狩野探幽・尚信・安信の「三十六歌仙図」。色々様々。

▼金毘羅庶民信仰資料収蔵庫:冷泉為恭と琴平絵図。江戸・明治時代における、金刀比羅宮の様子が興味深い。当時も賑わっている。

▼学芸参考館:カオス最高潮。人魚のミイラ、亀の甲羅、桜の押し花…とにかく全てを受け入れるという、太っ腹加減。そんな中、絵馬は勝川春草の美人図、森狙仙の猿、谷文晁、月岡芳年のまさに馬、松本楓湖他、ビッグネームが目白押し。しかし、奉納という名の元にカオスの一員と化している。かもしれない。どれも年月を経て痛み気味であります。(11/10) 学芸参考館へ行く為、裏参道を使用。由一の「琴平山遠望図」にポツンと描かれた鳥居は、裏参道のものらしい、ということに気付く。参道では、紅葉や山茶花を楽しめました。




天龍寺法堂「雲龍図」

▼加山又造作。直径9mの円に躍る龍は、勇壮。八方睨みです。加山又造らしい、寸分の隙もない仕上がり。それはいいとして、上部に白い線が入っているのが気になりました。どう見ても、絵とは無関係な形状。もしやシミなのでしょうか。気になる。

▼それから、他コンテンツに書き(現在は消去)、周囲の人々にもタレ込みつつ、ここにも書きます。法堂に入らずとも、タダで龍は見えるようです。法堂内にいたら、窓の外から「ここでも見えるわぁ〜」という声が聞こえてきましたから。割り切れない気持でいっぱいです。(11/11)




霊宝館特別公開
10/01-11/30 清涼寺霊宝館

▼まずは本堂の釈迦如来立像。訪れた際は開扉されておらず、姿を見られませんでした。が、本堂内をひと回りしてる内、いつの間にやら扉は開かれていたのでした。しかし、少々離れているため、細部の確認は困難。結局、霊宝館の「清涼寺式釈迦如来模刻」で補完。出来たのだろうか。
こちらの釈迦如来立像は、内に布の五臓六腑を秘めています。思わず、粘液まみれの内臓がドクドクとうごめく様を想像。みうらじゅんじゃないけど、スプラッター入ってます。何でも顔に仏牙を入れた時には、血が出たそうで。内臓持ちは違う。

▼霊宝館には、その五臓六腑を含む納入品が展示されていました。無数の布断片があったり。これらは血液などを表しているとのことです。その発想はどこから。というか、果てしない何かを感じずにはおれません。何かとは何?
内臓の他は仏像三昧。阿弥陀三尊坐像は、光源氏のモデル・源融が造らせ、且つ自身の姿を模しているとのこと。光背の化仏が眩しい。鈴なり。文殊菩薩騎獅蔵、普賢菩薩騎象像は、台座付き好みな者にはたまらない品。ところで、平安後期作にしては妙に色鮮やかなのですが。獅子なんて真っ青。これ、後から塗ってますよね?それから、兜跋毘沙門天像の個性的な顔立ちにもやられ気味でした。
絵画は、所蔵品「十六羅漢図」の摸写があったり。本物は先月、上野の東博で見たという不条理。よくある話ではありますが。(11/11)




秋季名宝展
10/01-11/23 仁和寺霊宝館

▼国宝、重文が当たり前のように展示されています。が、孔雀明王像の展示期間が終了しており残念。模した版画はありましたが、代替というわけにはいかず。目的が少々そがれたけど、阿弥陀如来像前の椅子を陣取って鑑賞、元返しを狙ったり。(取るという程、人はいませんでしたが)

▼あまり明るくない人間が言うのも何ですが、書跡全般がハイレベルなのではないかと。あと、弘法大師関連の展示が目に付きました。真筆蒔絵箱入三十帖冊子とか。仁和寺門前に御室窯を開いていた、野々村仁清も押さえてあります。「色絵瓔珞文花生」は口の形がユニークで、色はいつもの仁清という一品でした。仏花器だそうです。(11/11)




[常設展]東京国立博物館

▼紅葉、菊、萩など、秋の草花が溢れてました。展示品で季節を実感。

▼漆工:特集陳列「秋草の蒔絵」 9月1日〜12月5日
秋の植物や風景をモチーフとする作品を特集。 「松御簾蒔絵硯箱」は、高台寺蒔絵。対角線上に稲妻が走り、二つの図像が現れるという趣向。て、わけわからん。斬新な構図ということで。図は簾に松、菊に菱唐草です。丁寧で細やかな仕事ぶりが窺えるのは、「御所車蒔絵硯箱」。技法の宝庫。角度により表情が変化。「秋草虫蒔絵提箪笥」には、バッタや蝶、カマキリ、カタツムリ、トンボなどが飛んだり這ったりしています。草花に虫の取り合わせに目がないもので。たまらん。「菊唐草蝶蒔絵鞍鐙」にも、蝶が舞っているのだけれど、巨大すぎて蛾の群れっぽいのが難点。唐草模様と蝶の交わりの彼方に、アール・ヌーヴォーが見えます。

▼工芸:特集陳列「中世の陶磁」 9月1日〜12月12日
渥美/常滑/信楽/越前、瀬戸、珠洲/備前などの陶磁を展示。それぞれ、猿投窯、中国陶磁、須恵器をルーツとしています。異なる出発点から、異なる表現形態が生まれた。そんな印象です。原始的なものあり、妙に進んだ感のするものあり。共通点は「中世の陶磁」。それから、自然釉の流れや、線で縁どられた文様の美しさも共通点。個人的には須恵器系が好きです。あと、狛犬も愛らしかった。

▼武士の装い 平安〜江戸 9月1日〜12月12日
兎耳付きや、増毛を施した兜。乳首、骨、肉感を刻んだ甲冑。これらは何を思って作ったのでしょうか。乳首の役割はどこに。

▼中国書画精華 前期:10月5日〜10月31日 後期:11月2日〜11月28日
絵画:前期は南宋中心。李迪「紅白芙蓉図」は、定位置?に鎮座。この作品は、東博でも割と良く見るし、根津美術館の「南宋絵画 −才情雅致の世界−」にも出展されていました。というか南宋だから、展示作品は根津とかぶりまくっているのでした。梁楷関連は、「雪景山水図」「出山釈迦図」「雪景山水図」3幅揃いがあった分、こちらの方が充実してたかと。北宋は、「五百羅漢図」4幅が出ていました。絵画:後期は南宋〜元〜明。明が多いです。呂紀「四季花鳥図(秋)」は、明の花鳥画を体現。て、どういうことよ。いや、明という感じなんです。伝趙昌「竹虫図」は、蔓の巻きと呼応するかのような竹の巻き具合に目が行きました。

▼気になった作品
仏像:「文殊菩薩立像」・・・善円作?顔立ちかなり良し。文様がよく残っています。特に後方が。「ジャンル別:彫刻」に展示(会期終了)。「菩薩半跏像」・・・非常に凝った文様が刻まれています。衣には細かな点、台座には山岳模様。「日本美術の流れ:仏教の興隆」に展示。

▼菱川師宣「歌舞伎図屏風」:舞台、観客席、楽屋など、芝居小屋周辺を楽しく細緻に描いています。屏風中には、285人登場しているとのこと。人々の間に描かれた屏風絵や、重箱の蒔絵、盛られた食物、荷物の上に横たわる鴨や鯛・調理前丸ごとも気になりました。「日本美術の流れ:屏風と襖絵」に展示(会期終了)。

▼河鍋暁斎「花鳥」:蛇にぐるぐる巻きにされてる雉の図。緊縛。周囲は花が咲き乱れたりと、植物てんこ盛り状態です。その中に、ヘビイチゴらしきものを確認。赤い粒々が不気味さをかもし出す。背後には、どどめ色の花弁?から、長い舌をちらつかす植物が。これは「ウラシマソウ」(俗名:ヘビノマクラ、ヘビノネドコ等)と推測。そうすると、緊縛のヘビ、ヘビイチゴ、ウラシマソウと蛇尽くしになり、めでたしめでたし。と思ったのですが、リンドウの存在、葉の色づき具合からして季節は秋。ヘビイチゴ、ウラシマソウと仮定すると、これらだけ季節がずれてしまう。蛇尽くしは都合良すぎでしょうか。「ジャンル別:近代美術 ―絵画・彫刻」に展示(会期終了)。

▼愛らしい:「鳥獣人物戯画巻」甲巻・・・兎が猿を追いかける所から。御馴染みの作品。人気者でした。狩野山雪「猿猴図」・・・墨の滲みで毛の質感、濃淡で形を表現。潔い簡略化、目鼻立ちはキャラクター化。近くにいたお姉さんは「可愛い(はぁと)」と言ってました。グッズにすると良いと思う。一筆箋とか。探幽の虎も、ふわふわで結構いける。長沢芦雪「雁来紅群禽図」・・・シジュウカラ?7羽確認。(11/20)




伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛 人は彼を「うきよ又兵衛」と呼んだ―。
10/09-11/23 千葉市美術館

▼作品を見せまくることに主眼を置いた(と思われる)展示。伝説部分のフォローもあり。

▼会場内には、ずらりと絵巻が並んでいます。そのボリュームに圧倒されつつ覗き込むと、鮮やかな色の洪水。朱と緑がとりわけ印象的で、輪郭線は金という念の入れようです。
内容は、るつぼ。ごっつい面白さ、見せ場の応酬、妙な解釈などが詰まっています。あと、デロリも入ってるな。折り重なる群集に切り落とされた首や腕、血しぶきが絡み合う。ここらまでは、走り出したら止まらない又兵衛か。

▼飄々とした又兵衛も、味わい深い。「三十六歌仙図額」の山部赤人、「人麿・貫之図」辺りの表情なんて最高です。(11/23) しかし、絵巻全部のボリュームといったら、この展覧会どころの騒ぎではないんですよね。




マティス展
09/10-12/12 国立西洋美術館

▼「プロセス」と「ヴァリエーション」という2つの視点からマティス作品を紹介。(同展チラシより)

▼後から作り出したテーマに作家や作品を当てはめるのではなく、作家や作品からの表出をテーマに据えた感じ。だから縛られていないし、全体を通し無理がない。自由度の高さが、非常に心地良い展覧会。でも、これって、質の高い作品だからこそ出来ることなのかも。作品が語り部となるが故、とにもかくにも成り立ってしまうという。(11/26) 絵はがき100円で売って欲しかったなぁ。


[常設展]国立西洋美術館

▼いつ訪れても見られる、まさに常設といった作品多し。展示場所まで、いつでも一緒な作品があったり。が、今回は不動のコレクションに加え、ラ・トゥール「聖トマス」など、平成14-15年新収蔵品の展示も。プラスされてる部分もあるのだな。そりゃそうか。ところで「聖トマス」は、2005年3月から開催される「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール」展の序章でしょうか。

▼オランダ・マニエリスム版画展 9月10日〜12月12日
無数の線で構成され、細密を極めた画面。非現実へと突き進みつつも妙なリアルさを追求、世界観にこだわったら、そこにはマニエリスムが。 風俗画の連作なんて、芸風が風俗と結びつかないんですけど。淫靡さを過剰なまでにアピール、陰影を強調するのはなぜに。「マニエリスムだから」と言われれば、それまでですが。しかし、オランダ美術は、マニエリスムから写実主義へと移行したのだから、振幅が激しい。写実絵画の奥底に横たわっているのが、今日見た版画。なのかも。(11/26)




牛島憲之と昭和前期の絵画−抽象と具象のあいだ
10/09-11/28 府中市美術館

▼テーマや内容を優先させた展示。植物、地形、大気と水、静物と人物、望郷と幻想、色彩と装飾、都市と建物という区分けに沿い、作品が並べられていました。作家単位の展示ではないため、牛島憲之と他作家は混在状態となっております。

▼牛島憲之という画家像、1930・40年代の日本絵画、牛島憲之と同時代の作家や作品等、様々な角度から楽しめました。牛島憲之といっても、湿り気を帯び、蜃気楼の如く輪郭線の溶けた作品もあれば、色の粒で構成された作品があったり、奇妙な余白を持った静物画があったりするわけで。そういった変遷や差異を見出したり。展示品に内包された、時代の空気を感じてみたり。並べられたことで際立つ、個性の対比であるとか。

▼タイトル通り、メインは牛島作品。数も飛びぬけて多いのですが、他作家と馴染みがよく、全体の雰囲気にも統一感がありました。展示作品のセレクト、各セクションの設定や作品の割り振り等の勝利といった所でしょうか。好みの作品も多く、いい展覧会でした。(11/27) 牛島憲之の自画像を中心にした展示は、「再考 近代日本の絵画」風味。都現美の、壁いっぱいの卒業制作を思い出しました。


[常設展]府中市美術館

▼平成16年度第2期(後半) 10月9日〜11月28日
洋画を中心とする日本の近代美術 西洋美術への視線、留学により画法を学ぶ。ということで、学んだ画家たちの作品がありました。つながりでラファエル・コラン他の展示も。師匠。五姓田義松、川村清雄による西洋風景画も展示。それぞれパリ、ベネチアを描く。しかし、個人的に惹かれたのは、松本民治「東都今戸橋乃夜景」でした。川が流れ、家屋が並ぶ風景。水面には月明かりがゆらめき、障子から光がこぼれる。西洋が届いていない、日本の油彩画。あとは、恩地孝四郎「黒布の林檎」もよかった。タイトルまんまなんですけど。 内幕が面白かったのは、青木繁・福田たね「逝く春」。青木筆、にしてはどうも様子が、たねさん入ってる?みたいな。作品自体は普通。その他、「小特集 松本竣介の素描を中心に」「府中・多摩ゆかりの美術−多摩に住んだ作家」。

▼府中市美術館公開制作25 イングリッド・ヴェーバー 色彩/色材 10月9日〜11月28日
常設展とは違いますが、こちらで。 自ら色を作る、色の作家らしい。目黒区美術館「色の博物誌・黄」に、黄と緑の組作品が出ていたのを覚えています。確か、自然に近い色彩だったような。で、今回は、和紙と日本画の顔料と媒材(膠)を使い、制作するとのこと。 制作室には、正方形の和紙が何枚か置かれていました。淡い水色のものと、緑色と。傍らには、資料らしき風景写真や画材もあったり。作品は制作途中に見えたのだけど、作家の来館日は終了済み。実は完成してるのだろうか。出来れば、作家込みで見たかったです。(11/27)






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