2004年8月

動物のモチーフ
07/03-09/05 東京国立近代美術館工芸館

▼動物モチーフに焦点をあて、所蔵作品を中心に、近代以降の工芸とデザインのなかからおよそ80点の作品を展示。(同展チラシより)

▼チラシから受けるイメージとは異なる展覧会でした。砂糖甘い作品が多いかと思ってたら、そうでもなかったです。

▼作家の個性、ジャンル、材質や技法により生まれた差異が、そのまま動物のバリエーションにつながっています。繊細な蒔絵の鳥、金工の小さく精巧な虫、宮川香山の張り出しモチーフ、鈴木治の抽象化激しい馬、鳥など。多種です。それぞれ目を凝らしたり、角度を変え眺めたり。細部が命の作品が多いので、覗き込んだり。
印象に残ったのは、ヘンリック・アッレルトの「マスク2」「動物の頭蓋骨1」。陶のざらつきが、骨のかたちや感触に形作られていく作品です。杉浦非水のポスター見て、懐かしさのスイッチ入ったりも。醤油とカルピス。(08/01)




[常設展]東京国立近代美術館

▼所蔵品ギャラリー「近代日本の美術」 5月22日〜8月12日
藤田嗣治「自画像」の鉛筆画と油彩が見られました。鉛筆画には猫が居ません。

▼U昭和戦前期の美術:特集コーナー 佐伯祐三
初期の自画像、ヴラマンクと二人羽織「パリ雪景」、帰国後使えない風景に苦悩中の作品2点、再び渡仏…「ガス灯と広告」「モランの寺」など。日本版佐伯のひとつである「下落合風景」は、チュルチュルとしぼり出したかのような絵具の痕。ヤケ起こしたのでしょうか。それにしても、日本はそんなに駄目か?フランスじゃないと絵が描けないって(略)。諸々の影響から脱却し、独自の世界を確立したのはすごいと思う。そして、確立の礎にはパリの街並みがあるのだけど。

▼現代美術−1970年代以降
ばらばらなようで、不思議とまとまりのある展示でした。李禹煥「点より」「線より」じゃないけど、作家ごとの点が線になっていく。杉本博司、丸山直文、大岩オスカール幸男、ヨゼフ・クーデルカ他が同居。

▼所蔵作品展 加山又造
初期から近作まで展示。画業への探求が見て取れます。(08/01)




七宝工芸の近代
07/03-09/05 宮内庁三の丸尚蔵館

▼七宝技法により、日本を代表する美術工芸品の数々が生み出されて全盛期を迎えた、近代の名作、優品を一堂に紹介。(同展チラシより)

▼明治から大正、昭和にわたる七宝の変遷が見られます。明治期は、博覧会出品をはじめ、海外へ目を向けた作品が中心。1900年パリ万博に出品された、並河靖之「四季花鳥図花瓶」は、細緻で絵画的。黒地に鳥が舞い、木々や花々が映えています。この作品、東博の万博展に出てないと思ったら、こちらにあったという。あとは、定番?の巨大花瓶など。全体的に花鳥図が多く、華やかでした。大正以降は、国内を狙い打ち。需要増を目指すべく、アイテム拡大路線へまっしぐら。衝立、植木鉢、置時計、とりあえず七宝、とにかく七宝。応用と思案がうかがえました。

▼技術の移り変わりや違いも折込済み。中国の七宝に倣った不透明釉から、日本特有の透明釉への移行を、作品で辿ったりできます。「見ればわかる」を実践。元である中国の七宝作品も展示されていました。

▼七宝をぐるりと見渡せる展覧会。コンパクトなスペースに、上手い具合に明治以降が並べられていました。(08/08)




巨匠たちのまなざし マネ、モネ、ルノワールから20世紀へ―
06/11-10/03 ブリヂストン美術館

▼近年展示する機会の少なかった作品をふくむベストのラインナップによって、ブリヂストン美術館コレクションの魅力と特色を分かりやすく紹介する。(同展チラシより)

▼虫干しもとい、蔵出しもとい、御開帳もとい…展示室丸々、所蔵品で埋め尽くそうという企画。惜しみなしの出品ぶりです。特にピカソ、マティスが数多く展示されています。他の画家に関しても、「あの画家のあの作品が見たい」という、ピンポイント要望に応えられそうな予感。

▼加えて、展示品を通し、近代以降を中心とする西洋絵画史、日本の洋画史を概観。自前で概観可という辺りに、コレクションの充実ぶりが窺えます。「作家名におんぶにだっこ、質って何?内容は忘れた」的な作品が少ないのも良し。小品にも味があったりして。(08/08)




金魚滿堂
07/13-08/08 エキジビション・スペース

▼網野篤子、梅崎由起子、繁田真樹子、田名網敬一、深堀隆介、吉田佐和子…金魚アートと金魚グッズのオン・パレード。

▼店の一角に設けられたスペースだからか。雑然と並べられているからか。展示の雰囲気はなし。もしや展示会じゃないのかも。でも、タイトル付いてるし。うーん悩ましげな金魚。

▼ごっつい台座付きの木彫金魚がいました。玄関や床の間に置いてあったりする、シャケをくわえた熊の金魚バージョン。重量感とデカさが自慢です(推測)。パロディなのか、それとも素でこさえたのか。(08/08)




氣と遊ぶ
07/28-09/12 HOUSE OF SHISEIDO

▼中国の4人の作家と韓国の2人の作家による、「氣」をテーマにした企画展。中国医学で用いられる生薬を材料にしてつくられた作品や会場から発せられる「氣」とあそび、体験できる展覧会。(同展チラシより)

▼中国、韓国、生薬、氣。良く言えば、東洋独自の世界を抽出。悪く言えば、固定観念に自家中毒。個人的には、「いかにもだなー。でも、資質を生かしているとも言えるか」。日和見主義です。とりあえず、タイトル通り遊んでみるか。

▼会場に入ると、内臓が石膏、皮膚が金箔の恐竜が立ちはだかっています。生みの親は隋建國、原産国(タイトル)は「中国製」。て、石膏と金箔は生薬なんですね。展望の「佛薬堂」は、生薬を練り込んだ仏像。色彩、肌合い、生薬から正露丸を想起。あぁ罰当たり。朴效貞「立っている庭」は、炭の林立。少々戸谷成雄的です。内部に入れるのですが、足を踏み入れた瞬間、汗の臭いが鼻をつきました。内壁にはハーブを貼り付けてある筈なのに。猛暑のいたずらでしょうか。朴宣姫の「思惟と隠喩」は、生薬が糸の間を揺れるインスタレーション。一目で生薬。随分直接的です。でも、ビジュアル的には良いのでは。

▼面白い作品が多かったです。が、気だの効能だの芳香だのを、ある意味誠実に取り入れ過ぎている感あり。その点が少しだけ惜しいです。あと、「氣」は縛りの言葉ですかね。(08/08)




いきもの図鑑 牧野四子吉の世界
08/04-08/16 小田急百貨店

▼図鑑、教科書などに3万点を超える挿絵を描き、「生物生態画」のパイオニアとして生物学会、出版界では広く名前を知られる牧野四子吉の展覧会。『原色動物大図鑑』、『ジャポニカ大日本百科事典』をはじめ『ファーブル昆虫記』、『ビアンキのこども動物記』、『広辞苑』などのために描かれた約1200点の挿絵原画により牧野の生物画の魅力を紹介する。(同展チラシより)

▼見覚えある生物画が、種類別に展示されています。飽きることなく図鑑を眺めた、子供時代がそこにありました。懐かしいタッチ。
まず、びっくりしたのが絵の小ささ。図鑑、広辞苑など、印刷図に近いサイズで描かれています。さらに、小ささと細密さの同居にびっくり。毛の1本1本、細かな柄までもが見事に再現されています。線、細い。

▼これらの作品には、何よりも正確さが優先されます。そりゃ、図鑑や辞典に掲載するのですから。が、そんな中でも、作者色が失われることは無く。線や点描自体が、個性となりうるというか。「関東州及満州国陸水生物調査書」の魚の点描画なんて、点の集積の間に作者の顔が見える。あと、「正確に描写すること」に、喜びや達成感を見出している風もあったり。

▼ちょっと異色だったのが、「桜花図譜」。山桜などを、博物画にアプローチかけつつ、繊細に描いています。図鑑、教科書絵柄から離れた連作。(08/09)




芸大コレクション展 江戸から明治の金属芸術
07/06-08/29 東京藝術大学大学美術館

▼「金属」という素材で表現された作品という主題を設定して、指より小さな刀装具や仏像から、日本の近代彫刻史の幕開けをもたらしたラグーザ作の数々の胸像、そして東京美術学校生の卒業制作まで、様々な形状、技法、種類の作品を約60点展示(美術館webサイトより)。顔ぶれは彫刻作品と、彫刻以外の工芸品。共通点は材質のみで、展開の仕方は別物。異質な両者が、展示室が取り持つ縁により共存しています。いや、表現の多様さ、時代の流れや変化を示しているのか。

▼彫刻系は、ヴィンチェンツォ・ラグーザ作品がまとめて見られる良い機会。妻であり画家である玉像もあり。荻原守衛も何点か出ています。そんな中の個人的趣味は、戸張孤雁「男の胴」。柔らかな芯の鉛筆で描かれたかのような像。それと、朝倉文夫「つるされた猫」は、腕の生え方が唐突。猫をつまむという、ある意味不自然な動作だからそう見えるのだろか。

▼工芸品は、デコトラならぬデコ花瓶や香炉などに目が行きます。銀盃の周囲を龍が巻き付き、爪で地を支える意匠なんてのがあったり。頭から爪先まで装飾にぬかりなし、こんな所にまで文様が。あと、小さな細工物も可愛らしかったです。何れも余計な考えめぐらす前に、細部まで仕上げることへの欲求が手を突き動かす。そんな感覚が表れている気がしました。気のせいか?さらに、作品によっては、無自覚がもたらす芸術性(のようなもの)をほんのり感じたり。対して、彫刻は「芸術」への自覚でしょうか。(08/13)




世紀の祭典 万国博覧会の美術
07/06-08/29 東京国立博物館

▼2度目の訪問。相変わらず息もつかせぬ展示品でした。若冲の綴織は展示替えしていました。

▼この展覧会は、万博に出品された日本の工芸部門、パリ万博と西洋絵画部門に分かれています。「別々に進んでいた2つの企画が一緒になった」(読売新聞より)結果が、2部構成につながっているのだそうで。確かに、雰囲気が異なる品揃えと構成になっております。個人的には日本を出た瞬間、糸が切れる感があったり。過剰さのうねりの中で踏ん張っていたのが、いきなり消えてなくなるみたいな。(08/13)


[常設展]東京国立博物館

▼特別公開 国宝 吉祥天画像 7月27日〜8月22日
表慶館にて展示。ほの暗い空間の中、吉祥天のみに照明があたり、浮かび上がるという趣向。 ふくよかなライン、たおやかな指先、衣の透明感が印象的。奈良時代に現れた、形を変えた美人画。余談:こちらの作品、印刷物の方が色鮮やかな気が。

▼中国の絵画 山水・花鳥 8月3日〜9月5日
「明清時代の山水画、花鳥画中から大幅と長巻を選んで展示」とのこと。でっかい作品が多いなと思っていたら、そういうことだったのですね。作品自体も面白かったのでいいんですけど。13点出品。
最も嵌ったのが、呉振「江山無尽図巻」。縦横の視点から堪能できます。縦からは、霧煙る山頂から水が流れ落ち、下流になるにつれ広がる様を楽しみ。横からは、山々、川にかかる橋や水車、田園、時折のぞく屋根、水面に浮かぶ舟、そそり立つ奇岩など、景色の移り変わりを楽しみ。加えて、様々に変化する水の表情も見所。滝、岩を横断する水流、時には微かに揺らぎ、時には静かに佇む水面など。妙な和み感も魅力のひとつでした。ちなみにこの作品、長さ1382cmの最長画巻らしいです。王き「江山縦覧図巻」もありました。こちらは豪快さん。
「草虫図」は、現存する対幅の草虫図の中では最大とのこと。所々傷みが見られますが、元時代の割には綺麗とも言えるかも。画面を見つつ、思わず二次元昆虫採集を行ってみたり。バッタがいたり、カマキリがいたり。上部には蝶が舞う。

▼特集陳列「日本美術の精華」は一部展示替え。伝周文「寒山拾得図」は、バラエティ筆致。割れた筆先が特に魅力的。(08/13)




琳派 RIMPA展
08/21-10/03 東京国立近代美術館

▼展示の概要:近代以降の視点から琳派を概観。展示の柱は、明治時代に始まった琳派の再評価、近代日本画に見られる琳派の影響、西洋絵画・現代美術に現れる琳派的要素…「反覆」「型」「コピー」など。作品は、宗達・光悦・光琳から、菱田春草・加山又造を経て、クリムト・マティス・ウォーホルまで。古今東西というか、風呂敷が広げられています。ある意味雑多な顔ぶれ。こういう場合、顔ぶれに比例し、展示も雑多になりがちですが、今回は整然としていました。時代、作家、ジャンルごとに作品を並べ、混在を最小限にとどめたのが勝因か。そんな中、渡辺始興「燕花図屏風」、李禹煥「線より」の脊髄反射的展示が見られたり。この2作、かたちの相似でしかないと思うのですが、並べてみたくなりそうな雰囲気が両者には漂っているのでした。置いた気持はわかる。

▼作品:主役登場の前に幕開いちゃったかなという印象。あの作品は来てないの?あの作品借りてこんかい…と、思う方は多い筈。それでも、見所が色々とあるので、琳派に興味をお持ちなら楽しめるのではないかと。個人的には、鈴木其一「朝顔図屏風」の蔓に巻かれたい。

▼単なる名品展ではなく、琳派の評価史や影響を検証するという意味においては、「こんどの[琳派]はちがう」のかも。個人的には、言いたいことはわかるという感じ。ただ、期待していた「ちがう」とは微妙に違う。見せ方の「ちがい」に加え、作品の「ちがい」も求めたい。展示の核となる琳派作品の強化が待たれます。もう遅いけど。いや、前述通り決して悪くはないのだけど、挑発的なコピーを付け、CMまで流してる割にはねえ。煽りがなければ出ない不満だと思います。(08/27) ぼやきつつ、後期も行くつもりなのですが。


[常設展]東京国立近代美術館

▼所蔵品ギャラリー「近代日本の美術」 8月21日〜10月3日
夜間開館を利用し訪問。時間がなく、じっくり見られなくて残念。
日高理恵子の「樹を見上げてVII」がありまして。「近美にも所蔵されてるんだ〜」と思っていたら、新収蔵作品だったようで。

▼所蔵作品展 若林奮
彫刻4点と素描約100点を展示。素描が大変面白かったです。日々の情景や自然が、作者の内なる映写機を通し、線の重なる世界へ投影されていきます。線はやがて彫刻へ結晶されていくのかな。表面と境界面への視線も気になりました。(08/27)




徳川美術館名品展 姫君の華麗なる日々
07/20-08/29 サントリー美術館

▼展示の概要:代々の姫君の婚礼調度品をはじめ、誕生・成人・出産など人生の節目の儀式に用いられた品々、楽器・遊び道具、教養の糧とした書画等、約140点を展示し、尾張徳川家ゆかりの姫君たちの華麗なる暮らしぶりを紹介(同展チラシより)。華麗さの極みは、十一代斉温夫人・福君の婚礼調度「菊折枝蒔絵調度」と、田中訥言「古今著聞集図屏風」による取り合わせ展示(2作共東京展のみ出品とのこと)。下には絨緞が敷いてあったりします。

▼作品:蒔絵が山ほど見られます。中でも注目は、千代姫の婚礼調度『初音の調度』から出品された「初音蒔絵鏡台」でしょうか。見た印象は、装いが豪華、なんだか金色、細部まで隙がない、意匠が細かく美しい。コーナー部分から眺めると、空間に広がりが出たりします。「その素晴らしさに一日見ていても飽きないことから『日暮らしの調度』とも呼ばれる」という話がありますが、確かに一日過ごせるかも。が、しかし。デザインは普通のような。個人的には、特色あるデザインの方がよいかなと。あと、豪華ではなく繊細だったり、螺鈿が印象深かったりする方が好みです。
びっくりしたのは、展示品の保存状態の良さ。どの調度品も、今に至るまで美しさが失われていません。着物も生地に張りがあったり、刺繍がほころびなく残っていたりするし。

▼タイトルそのまんまの展示でした。「姫君」「華麗」という言葉にピンとくる方におすすめです。あと、蒔絵好きの方にも。(08/28)

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巡回:09/10-10/11 島根県立美術館、10/23-12/05 兵庫県立歴史博物館、2005/04/23-06/05 新潟県立歴史博物館






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