2003年12月

戸方庵井上コレクションを愉しむ 群馬県立女子大学芸術学研究室による8つの視点
11/15-12/14 群馬県立近代美術館

▼高崎市出身の実業家、故井上房一郎により寄贈された「戸方庵井上コレクション」を、12年ぶりに全容公開。群馬県立女子大学芸術学研究室との共同企画・展示により、主要作品約60点を展覧し、コレクションの新たな魅力に迫る(同展チラシより)。名品選と、8つのテーマに分けた展示により構成されています。

▼名品選は、中国絵画が目に付きました。それから、「芦雁図」「達磨図」と、同画題の作品がまとめて展示されていました。

▼テーマごとの展示は、「通常の名品展が、ともすれば陥る平板さを避けるねらいから」設けたとのこと。その狙いが最も成功したのは、琳派に関する展示か。俵屋宗達「騎驢図」、尾形光琳「鷺図」に資料を加えた構成で、宗達・光琳・抱一にいたる繋がりや、イメージの引用元がわかる仕組み。「宗達の見た仙人―琳派のイメージ継承」というタイトルが、ぴたりとはまった展示でした。作品自体も良い。ここでは、中村芳中のモコモコな梅や、鈴木其一「猫柳図・楓図」も見られます。それから、後に続く「隅田川に遊ぶ」というコーナーも、作品とテーマの絡め方、資料の使い方が上手いと思いました。
他のテーマも面白かったのですが、肝心の作品が2〜3点というケースもあったりで少々寂しい気分。関連作品のパネル置いたりしているのですが。井上コレクションから選定するしかないし、色々苦しい部分があるのでしょうか。でも、この辺り見ると、作品ありきではなく、テーマありきなんだなぁと。

▼ともあれ、中国絵画から、室町、桃山、江戸時代にいたるまでの充実したコレクションに触れられます。特に、江戸絵画の出品が多いので、その辺りがお好きな方にはよろしいのではないかと。北斎の表情豊かな鯉、応挙の青鸚哥がいたり、團十郎(七代)の自画自賛なんて珍品が見られたりします。江戸以外では小品ですが、雪村、海北友松があったりするし。なんだかすごいラインナップでした。(12/06)

ところで、会場には「井上コレクションを裸にする―贋作も見てみよう」というテーマもありまして。裸に剥いたら、若冲と光琳と蕭白がいました。伝若冲として「魚介図」「松に鶴図」が展示されてました。


[常設展]群馬県立近代美術館

▼1974年開館。巨大馬の屋外彫刻が目印の美術館です。近代美術館という名称から想起される作品+郷土ゆかりの作家作品を展示。

▼日本と西洋の近代美術II 9月27日〜12月14日
日本近代<絵画>:30点の展示。その中で最も点数が多かったのが福沢一郎。1930年代と50年代の作品が6点展示されていました。20年分の月日が作品に表れており、違いは歴然。後年は、円を用いて造形処理された人物像が印象的。形の捉え方、太い手足がピカソと重なります。個人的には30年代の方が好みでした。このように、コンパクトながらも変遷を辿れる展示は嬉しいです。その他、湯浅一郎による、少々崩れた裸体が淫靡さを醸し出す油彩画、鶴岡政男の「黒いベッド」が気になりました。
西洋近代<絵画><彫刻>:印象派からピカソまで王道の品揃え。15点展示。ルノワールの「読書するふたり」は、小さな作品ですが良い感じ。ルドンの「ペガサスにのるミューズ」。ルドン十八番の、脆く妖しく危ういバランスの上に成り立つ色彩が、「ペガサスにのるミューズ」にも認められます。少々暗い気もしますが。藤田嗣治とローランサンの構図そっくり作品が、隣り合っていておかしかったです。

▼現代の美術I 9月27日〜12月14日
今井俊満が2作で、あとは1作ずつ。大御所?から若手まであり。共通点は特になし。岡田謙三の中途半端な和洋折衷、丸山直文「joule」の一気呵成さなどを楽しみました。丸山直文は好きです。

▼西洋近代版画II シャガール 11月15日〜12月14日もあり。「寓話」「サーカス」「ダフニスとクロエ」。(12/06)




伊藤若冲《菜蟲譜》と近代京都の画家たち
前期:10/25-11/16 後期:11/18-12/07 葛生町立吉澤記念美術館

▼後期の展示に行ってきました。「菜蟲譜」は後半部分の展示です。今回は、前半の野菜から、後半の生物メインへの転換が見られてよかったです。野菜の上から蝶がふわりと舞った瞬間、こちらの視点も移動し、再び視点が下がると、生物の世界が広がっている。さり気なくて好きな場面です。ところで、最後の転換部分も蝶なんですよね。あと、とぼけ顔の蝦蟇くんも見れたし。まぁ、飽きもせず眺めていた次第です。

▼展示替えが少々ありまして。「京都緒家寄合画巻」より、南画風味・森寛斎が見られました。(12/06)




神坂雪佳―琳派の継承
11/08-12/21 佐倉市立美術館

▼絵画作品、漆器・陶芸などの工芸作品と元になった図案、「百々世草」「ちく佐」といった図案集、下絵を展示。多岐にわたる展示作品は、雪佳の多岐にわたる創作活動を示しているよう。同時に、襖絵から、屏風、家具、菓子皿まで目が行き届く、デザイナーとしての側面も垣間見られた感じ。トータルコーディネートともいう。

▼どの分野もまんべんなく見られましたが、メインは図案・工芸界における雪佳。同時期に活動を行なった、浅井忠の図案も展示されており、両者を比較できる仕組みになっておりました。

▼個人的な印象は、サブタイトルにある「琳派の継承」をしつつ、琳派の概念を広げ推し進めている…のかな?と。デザイン、装飾の普及拡大というか。それから、簡略化された図案に、丸みを帯びた線や面の取り合わせ。デザインの中に、手のぬくもりが在る所が味わい深くて好みでした。展覧会自体も、神坂雪佳の全貌が何となく掴めたので満足。(12/20)




妖と艶 〜幕末の情念〜
11/29-12/28 板橋区立美術館

▼幕末期の造形を特徴づける言葉として「妖(あやかし)」と「艶(つや)」という語を取り出してみて、その語から広がるイメージに見合ったものを絵画作品に求める。(同展チラシより)

▼妖の部は、筆が全速力で走る河鍋暁斎の妖怪引幕や、原色使いと鮮血が目に痛い絵金、幽霊画、異次元な景色など。印象的だったのは、狩野一信の「五百羅漢図」にみられる不気味な陰影と、安田雷洲の「赤穂義士報讐図」に沈澱するおかしな和洋折衷。幕末が際立っています。江戸期の絵画表現から踏み出し、動いています。少々おかしな方向へ。

▼艶の部は、えぐい美人図多し。祗園井特、溪斎英泉、曽我蕭白などが描く、ぬらりとした表情、網膜に焼き付くお歯黒、奇妙な曲線を持った手足や身体、はだけた胸元…。枠からはみ出た感覚、引っ掛かりまくりです。一見普通の美人図も、表装に一工夫されていたり、状況や表現がおかしかったりで、ただじゃあ済みません。そんな中、一服の清涼剤として佇んでいたのが、勝川春英の「湯上がり美人と猫図」。目に優しく美しい。じゃれる猫も可愛いです。

▼癖っぽくひねりを加えた絵画がずらり。それらを上手く束ね、テーマに即しつつ面白く見せてくれる。この手の展覧会は、板橋区立美術館のお家芸かも。見に行ってよかったです。(12/21)






topback