2003年11月

−絵を観るよろこび− 江戸時代の絵画展
前期:10/04-11/03 後期:11/06-11/30 静嘉堂文庫美術館

▼江戸時代の絵画を、ジャンル面から見渡せる感じ。風俗画、文学系、仏画、洒脱・軽妙な作品など多彩な展示でした。

▼見て楽しかったのが、「四条河原遊楽図屏風」。見世物や物売り、踊りなど、街中の情景が細かく描かれており、当時の風俗が垣間見られる一品です。英一蝶の「朝暾曵馬図」は、何気なさそうな描きっぷりが魅力的。日常の描写具合が、久隅守景の「納涼図屏風」みたい。ゆるやかな雰囲気や、水面に漂う人と馬の影に和みました。久隅守景といえば、仏画の展示がありまして。意外な感じ。
意外といえば、狩野探幽の「波濤水禽図屏風」。鳥の描写、特に飛ぶ姿が良いし、ヘロンヘロンの波や山水を意識したと思われる岩の表現も味わい深い。探幽って苦手な部分があるのだけど、この水墨画は大丈夫でした。こちらの嗜好、許容範囲に変化があったか?

▼絵画だけではなく、漆芸、根付、陶磁の展示もあり。漆芸は印籠や硯箱。陶磁は伊万里焼中心。色鮮やかです。
ところで、尾形乾山「色絵定歌詠十二ヶ月花鳥図皿」の傍らには、同テーマの屏風パネル(伝尾形光琳)が置かれていたのだけど、「当館所蔵」なら実物を展示して欲しい…と、我侭放題な客は思うのでした。(11/01) 後期は、前期と入れ替わり。全期間展示は、陶磁の一部になります。




[常設展]東京国立博物館

▼特集陳列「中国書画精華」 10月7日〜11月30日
宋から清時代までずらり。国宝、重文を複数並べ気合が入ってます。肩書きだけではなく、中身も良し。山水、羅漢、花鳥など、様々な表情の絵画が見られた点も良し。
伝石恪「二祖調心図」は、顔や着物を濃淡と筆致を変え描き分けてます。スピード感溢れる筆致、顔の表情が味わい深いです。「紅白芙蓉図」は美しい。色が綺麗に残っています。それから、「四睡図」の線画は変。雲も木も葉も何もかも変。気分はサイケデリック。

▼特別公開 松林図屏風 9月23日〜11月3日
日本人が最も愛する絵画(と言われている)長谷川等伯「松林図屏風」。一室を丸々使用し公開されていました。黒く強く割れた筆捌きが印象的。粗さと靄に浮かぶ松、静と動が反発しながらも調和している。て、わけわからんですね。

▼江戸開府400年記念 特集陳列シリーズ「江戸の雛形」 9月23日〜11月3日
雛形とは、木版によるデザイン・ブックもしくは実物を小さくかたどった模型のこと。着物や帯の柄のデザイン・ブック、染色型紙、今でいうヘアカタログなど、多彩な分野の多彩な雛形が展示されていました。
面白かったのは、結び方シリーズ(勝手に命名)。魚や人の型に紐が掛けられてます。ミニチュアで立体的な実践教科書といいましょうか。人物の方は「早縄掛様」という、犯人逮捕時の縄の掛け方が示されていました。これがSMじゃないけど、掛け方にバリエーションあり。
その他、犬追物の様子を写した「武田流犬追物雛形」というのがありました。こちらは犬や人の紙人形。棒付きで直立可能。人形劇みたいな感じ?

他の展示で気になった作品 「四天王立像 広目天」(平安)…かっこいいです。浄瑠璃寺所蔵。「不動利益縁起絵巻」(南北朝)…ストーリーを頭に入れつつ見ると、面白い。病鬼がエグさを演出。安倍晴明も登場。土佐光起筆「粟穂鶉図屏風」…鶉がたくさんいて可愛いです。「武蔵野図屏風」…秋の意匠の定番ですが、定番がぶっ飛んでます。和歌が元とされています。初代宮川香山「褐釉蟹貼付台付鉢」…立体蟹が2匹付着。インパクト大。(11/02)




旅 「ここではないどこか」を生きるための10のレッスン
10/28-12/21 東京国立近代美術館

▼旅をイメージさせる作品もありますが、どちらかというと「ここではないどこか」に沿って作られた展覧会にみえました。

▼作品は、写真あり、絵画あり、インスタレーションや映像ありと様々。ひとつひとつ見ていくと、バラバラな感じがしなくもない。でも、全体を見渡すと、なぜか統一感がある。そんな展示だったように思います。流れを断ち切る作品がなかったのが勝因かも。

▼会場の雰囲気は、まさに「ここではないどこか」。どこではなくどこか。それってどこなんだ?という、途方に暮れたような寂しいような。漂泊感濃し。旅は道連れは禁句です。とりあえず「どこか」のイメージは、渡辺剛による、境界線と当て所もなく続く道の写真がピッタリきました。これは風景として。心象的イメージは、雄川愛の「New World」かな。で、この作品を最後の方に持ってきたのが、なんかいいなぁと。(11/03) 作品として好きなのは、ビル・ヴィオラの「十字架の聖ヨハネの部屋」。小部屋と外部屋、内と外。対照的な世界。単に嵌るインスタレーションだったというのもあるし。


イサム・ノグチが作った光の彫刻 AKARI
10/28-12/21 東京国立近代美術館

▼イサム・ノグチがデザインした照明器具「あかり」を紹介するとともに、写真や関連資料などにより、「あかり」がどのようにして誕生したか、また「あかり」が制作される過程なども紹介する。(同展チラシより)

▼イサム・ノグチの彫刻作品と「あかり」との、関連性だの共通点だの相違点だの語らなくちゃいけないのかもしれん。しかし、そんな気の利いた発言は不可能。光に透ける和紙や竹が織りなす線が美しいとか、シンプルな形が、特にねじれた形が美しいとか、削ぎ落とした美とか、いや、しかし、沢山の照明が並べられている光景がショールームと重なるよ。助けてママン。それと、「あかり」は間違いなく美しいのだけど、現代に生きる薄汚れた目を通すと、普通の照明に見えるよ。助けて偉い人。ええと、そうですね。作品と合うように展示室が改装されてまして、見せる工夫がなされていると思いました。(11/03)


[常設展]東京国立近代美術館

▼所蔵品ギャラリー「近代日本の美術」 前期:10月11日〜11月16日、後期:11月18日〜2004年1月4日
目当ては、岸田劉生の「壷の上に林檎が載って在る」。陶器の質感が、緻密な描写により表現された作品です。光沢の辺りが、特に痺れます。表面のひやりとした感触、手に取った際の重みまでも想像できるよう。作品はタイトル通り、壺の口に林檎がのっています。不思議な光景。他に、行けば大抵見られる「道路と土手と塀(切通之写生)」と、「自画像」がありました。
劉生以外で気になった作品:前田青邨「おぼこ」…構図がどうもおかしいです。魚の群れが、画面上部に向かい浮いています。浮遊感というか、酸素不足で浮かんでいるというか。福田豊四郎「故山新秋」…アウトサイダー・アート風味。児玉希望「仏蘭西山水絵巻(山・海・河)」…墨で描かれたフランスの風景が続き、最後に虹がかかります。その虹のみ着色され、七色に彩られている様は、演出過多っつーかあざといっつーか。

▼特集展示 藤田嗣治
7点の展示。乳白色の絵画と戦争画が同居しています。戦争画は、通常の作品とは異なる気合というか、精魂が込められています。これもまた、藤田の作品。(11/03)




現代の木工家具 スローライフの空間とデザイン
09/20-11/30 東京国立近代美術館工芸館

▼現代に家具という造形芸術の分野を主導的に開拓してきた作家9名をとりあげ、その優れた造形の特質と可能性を展望する。テーブルや椅子、棚・キャビネット、机、箱ものなどの作品約65点による、家具を総体的にとりあげる初の企画。(同展チラシより)

▼材質の選択が作品の印象を大きく左右するのだろうな。木の種類により、色や表面に著しい違いがあるし。あと、大きな節が目に付く家具は、納得できる節入りの木材を探したのかな、それとも単なる偶然で節が入ったのかな。などどいった、どうでもよさげなことが気になってしょうがなかったです。作家の個性や木材の質感を確かめつつ眺めてみたのですが、このていたらく。駄目すぎ。
椅子の展示が妙に溶け込んでおり、間違って座りそうな勢いでした。(11/03) 実際に座れる椅子も置いてあります。




小林孝亘−波打ち際で−
10/21-11/15 西村画廊

▼「Sunbather(日光浴をする人)」のシリーズを新たに発表。波打ち際に水着で寝そべる人物を包む白い光と大きな時間の流れを、細やかに描き出す。(西村画廊webサイトより)

▼様々な格好で寝そべる男性や女性を、これまた様々な視点から描いています。いかにも小林孝亘という感じの、安定感のある作品でした。見ていると、なんか安心するし心地良い。と、漠然とした言葉でお茶を濁したり。いや、作品の魅力を言葉で表すことが出来ないのです。それはどの作品にも当てはまることなのだけれど、小林孝亘は特に難しい。光の取り入れ方とかよく挙げられているし、確かにそれも魅力のひとつではあるけれど、他に何かあるのですね。でも、それが何なのかはわからない。まぁ、何かが何であるのかわからない所がいいのかもしれませんが。(11/13)




大見世物 〜江戸・明治の庶民娯楽〜
11/01-12/14 たばこと塩の博物館

▼江戸時代後期から明治時代初期に至る見世物に着目し、その歴史と実体を探る。籠細工、生人形、動物見世物、細工見世物、曲芸・軽業などのほか、文化文政期以降の主な見世物について、その一部再現も含め、幅広い観点から紹介する。(同展チラシより)

▼会場全体を見世物小屋に仕立てた作り。雰囲気からせめております。錦絵、引札、用いた道具、現物、再制作品など多岐にわたる展示品は、見世物の雑多で妙ちきりんな感じを醸し出し中。加えて、当時を再現するという意味においても、上手く作用していました。それから、明治以降、見世物の意味が変質していく様も良く表されていたように思います。

▼展示品で気になったのは、「とんだ霊宝」と呼ばれる干物製の仏様。精巧な模型により再現されていたのですが、いっそ干物使用で会場を生臭くさせてみては。と、無責任に思ったりして。細工物は、「とんだ霊宝」以外も素敵でした。「何を思って作ったのやら」というトホホ感と、根拠の無いバイタリティに惹かれます。あと、明治部門で、高橋由一が描いた甲冑が展示されていましたが、見世物展に入ると妙な具合に。念の入った描写が、トンデモ度を増幅させてしまうという。由一、無念。

▼ごちょごちょ書いてしまいましたが、要は楽しかったということで。トラや河童にも会えるし。(11/14) 展覧会の講演を行なう方々による本を読んだことがありまして。そのせいか、「本が再現されている」と思ってしまいました。使用された図版や書かれた内容が、会場に移植されているという。




伊藤若冲《菜蟲譜》と近代京都の画家たち
前期:10/25-11/16 後期:11/18-12/07 葛生町立吉澤記念美術館

▼「菜蟲譜」と、所蔵品の中から近代京都画壇を彩った画家たちを紹介。

▼「菜蟲譜」は、前半部分の展示でした。メインは野菜や果物。70歳代に描かれたためかどうかはわかりませんが、穏やかで丸みのある印象です。でも、軽妙さは健在という。こんなこと書いてますが、見てる最中は何も考えてません。只々楽しむのみ。今回もじっくりゆっくり見られてよかったです。(前回は、同館の開館記念展。そのときは後半部分を見ました)

▼「近代京都の画家たち」は、18世紀京都を源流とした円山・四条派や南画、そして若冲との関わりをベースにした展示。作品解説の所々には、若冲絡みのエピソードが含まれています。そのエピソード、石崎光瑤、富岡鉄斎はいいとして、日根対山、鈴木松年辺りになると苦しいような。対山は、石峰寺の筆塚で御馴染み?の貫名海屋に儒学や書道を学んだとか。松年が絵を学んだ父・百年は、若冲の肖像を描いた久保田米僊も教えていたとか。少々間接的なのでは。(11/15) 後期は「菜蟲譜」の後半部分を展示。富岡鉄斎の展示は前期のみです。併催:「現代日本の絵画、板谷波山と近現代の陶芸」も見られます。




ハピネス アートにみる幸福への鍵
10/18-2004/01/18 森美術館

▼人間にとって永遠のテーマともいえる「幸福」を、古代から現代にいたる東西のアートを通して探る。「アルカディア」、「ニルヴァーナ」、「デザイア」、「ハーモニー」の4部構成。180名余りのアーティストによる約250作品を展示。(同展チラシより)

▼展示の殆どがテーマ関係なし、現代美術中心の羅列にしか見えませんでした。だだっ広い展示室と膨大な作品を御しきれなかったか?いや、本当は最初から最後までテーマに沿っているのかもしれませんが、そう見えないのだから仕方がない。
とは言っても、中にはテーマを意識した箇所もあるのですが。「ニルヴァーナ」の入口から「涅槃図」まで〜途中飛ばして〜ビル・ヴィオラ、ジョゼフ・コーネル、イヴ・クライン、李禹煥辺りは、古今東西を上手く混在させ、尚且つ見た目やイメージに統一感があるように思えたし、世界地図で始まり宇宙で終わる所もベタだけど結構好き。でも、全体的には…。

▼ただ、展示品自体は面白い、良いものが多いので、個々の作品を楽しむという風に割り切ってしまえば、価値ある展覧会だと思います。で、作品の山から、それぞれのお気に入りを見つけ出し、幸せになる。あぁ、それがハピネスということなんだ。と、自己完結。(11/17) 個人的お気に入りは、やっぱり若冲の「鳥獣草木図屏風」。若冲がある部屋は、動物系が多かったです。鳥・流血とか暗黒作品もあるです。あと、「デザイア」に若冲の達磨がいます。若冲以外では、白隠、雅熙、マルレーネ・デュマス、トーマス・シュッテとか。上記の「ニルヴァーナ」部分は、作品も良いものが多かったです。




−絵を観るよろこび− 江戸時代の絵画展
前期:10/04-11/03 後期:11/06-11/30 静嘉堂文庫美術館

▼応挙、文晁らが主導した中期から幕末にいたる画壇の多彩な絵を集める(同展チラシより)。「円山・四条派とその周辺」、「江戸画壇の絵師たち」の2部構成。前期に続き、逸品揃いで楽しめました。

▼シンプル且つ豪快な画面構成、作品の大きさで目立っていたのは、酒井抱一の「波図屏風」。尾形光琳の作品から着想を得ています。光琳は金地で、抱一は銀地。極太の波間に見える青色が効いた一品です。
北斎、靄香A応挙、崋山、其一、国芳がずらりと並ぶ、美人画競演も見応えあり。中でも、崋山の「芸妓図」は、実在の女性にポーズを取らせて描いたとのこと。そういった、少々の生々しさを含めつつ眺めると、より一層の色香が感じられるのでした。
漆芸では、柴田是真の「柳流水漆絵重箱」。色替わりと、是真が創り出したという「青梅波塗」がドッキング。ヴィジュアル的に惹かれます。

▼ところで、後期展示の裏番長は、菊池容斎の「呂后斬戚夫人図」と思われます。最初、目に付いたのが、すっくと立つ見目麗しき女性(呂后)。こちらも美人画系か?と思いつつ、視線を移したら、呂后さん命令中の御様子。女を捕らえろ、着物はいで手足全部を切り落とせ、切り落とし完了後は吊り下げとくがいい、女は豚だ。これらが全て画面に集約されていたという。苦悶の表情、転がる手足、飛び散る鮮血…最初の認識が甘過ぎた。
描かれた年代に沿って並べたためか、この作品が出口部分に来てまして。血まみれ状態で会場を後にするなんて、洒落た趣向だと思いました。嘘。個人的には、結構好きですが。(11/29)






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