2003年8月

描かれた旅とロマン−鉄道と絵画
08/02-09/15 東京ステーションギャラリー

▼イギリス、フランスほか欧米諸国や日本における鉄道や旅、駅にちなんだ美術史上の名品や、当時の社会風俗がうかがえる作品を、油彩、版画、写真、ポスターなど約130点を集めて展示し、近代絵画と鉄道の関係を浮き彫りにする(同展チラシより)。様々な角度から鉄道を捉えた作品が並んでいます。

▼ウィリアム・パウエル・フリス「鉄道の駅」とジョージ・アール「北へ向かう、キングズ・クロス駅」は、人々や犬で溢れる駅舎を描いた作品。19世紀当時の駅構内や列車の様子がうかがえます。見て面白いのは、群衆の姿。服装や動作が細かく描き分けられています。風俗として、鉄道や人々を表現した2品でした。
文明の利器である鉄道を、恐怖の対象として作品に残したのは、エヴァリスト=ヴィタル・リュミネ「怯える馬」。走る列車から逃げ惑う馬たち。不穏な空気漂い中。
恐怖を飛び越え、死のイメージと結びつけた作品も。列車を不気味に覆う骸骨。なんとびっくり、パウル・ビュルクさんは「死の舞踏」と鉄道をミックスさせております。
エルンストは鉄道を走る密室に仕立て、異様な濃密空間を演出。緊縛。女。
汽車をモチーフとして登場させ、妙な既視感をスパイスにしつつ幻想世界を作り出すデルヴォー。今回、出品がありましたが、可も不可もなく。個人的に、もっとハマれる作品があるので…

▼その他、ターナーの作品+摸写作品、エイブラハム・ソロモンの「一等と二等車ではかなりの違い!」な連作、未来派、カッサンドルのポスターはカッコよすぎなど、鉄道へのアプローチがよりどりみどり。風景としての鉄道をまったり眺めることもできますし、日本の絵画も展示されています。
全体を通して楽しめたし、こう言っちゃ何だけど、お徳感溢れる展覧会でした。(08/14)

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巡回:09/21−10/26 ひろしま美術館
11/01−12/23 栃木県立美術館
2004/01/06−02/08 福岡市美術館




アレクサンドロス大王と東西文明の交流展
08/05-10/05 東京国立博物館

▼アレクサンドロス大王の東征を契機として、ギリシャ文明は地中海東岸から中央アジア・インド亜大陸に至る広い範囲に伝播し、在来の文化的伝統と融合したヘレニズム文明の隆盛をもたらした。本展では、ギリシャ美術の伝播と受容の過程をたどるとともに、その余波が、シルクロードを経てはるか極東の日本にまで到達したことを検証する。(同展チラシより)

▼最初は、ギリシャ文明・アレクサンドロス大王について。出品数の多さというか、ローマ彫刻が間延び感を演出してるような。展示自体のテンポが崩れ気味…惜しいです。展示品により、偶像としてのアレクサンドロス大王が表されているとは思うのですが。
作品には文句なし。彫刻は美しいです。むしゃぶりつきたくなる像があったり。私事ですが、大昔の展覧会で見た「コレー像」に再会したりもして。

▼文化が伝播する様を最も体感できたのは、東方ヘレニズムとイラニズムの展示。文明の融合がありありな造形は見て楽しい。どの展示品も興味深かったのですが、家に持ち帰りたい系は「有翼双峰駱駝の水差」でした。

▼到達点である日本へ。入口に「図像の東漸」、中には「図像観察のポイント」と称したパネルが。これは、ギリシャから日本へ至る図像の伝播、例えばボレアスが風神になりましたという事例を詳しく説明したものなのですが、最後で種明かし?みたいな。最初から見られる形にした方が親切かも。それから、出品が叶わなかった「風神立像」。こちらの像がないのは、結構痛いのでは。抱一の風神がいますが、立体作品で図像の移り変わりを確認したかったです。まぁ、快慶「執金剛神立像」と「兜跋毘沙門天立像」があまりにかっこよくて見惚れてしまったので、よしとしよう。て、そういう問題ではないですね。(08/15)

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巡回:10/18−12/21 兵庫県立美術館−「芸術の館」−


[常設展]東京国立博物館

▼本館の展示方法が変わりました。平常陳列の一部を、ジャンル別から「日本美術の歩み」と題した通史展示へリニューアル。

▼特別一挙公開「北斎の冨嶽三十六景」
「三十六景」、実は「四十六景」。青色が印象的でした。

▼桃山・江戸「装う−化粧道具と装身具−」
勝川春暁「鏡を見る美人図」の傍らに、団扇、櫛、かんざしを展示。絵の中に登場する櫛などが、立体化され置いてある形。取り合わせの感覚も見られ、面白い見せ方でした。

▼江戸を見る 「江戸の納涼」
朝顔図、水遊びの図、金魚そだて艸、怪談、花火の図案集など、夏の風物詩が集められていました。花火なんて、サイコロやら婦人像やら「実現不可能だろ」な図案ばかり載っている。夢見がちだけどそこが楽しみ所。納涼を表した作品は浮世絵コーナーにもあったし、久隅守景「納涼図屏風」も展示されていました。四季を感じられるのがいいですね。

▼他に、康円「文殊五尊像」、兎や蛙は登場しないが粗い筆致が魅力の「鳥獣人物戯画巻」丁巻もよかったです。唯一興ざめだったのは、千利休作の竹の花入に造花が入っていたことでしょうか。造りものならいっそ入れない方が……

東洋館は、明の絵画、李士達「竹裡泉声図」の巨大な山と竹林のコントラストが良し。特集陳列は「広開土王碑」。倭と高句麗が戦ったことが記されています。変な迫力あり。(08/15)




こもれび展
08/09-10/05 水戸芸術館

▼「こもれび」という言葉は、涼しさ、爽やかさ、きらめき、癒しといったような、心地よいイメージを含んでいます。「こもれび展」は、そんなこもれびの魅力を美術館内にもち込んでしまおう、という展覧会です。(『「こもれび展」のみどころ』より)

▼こもれびといえば、木々の枝葉のクッションで和らぎ、澄んだ白色の光。と、勝手に思い浮かべるわけですが、ここらにピタッと合致したのが曽谷朝絵、小林孝宣、伊庭靖子の作品。眺めていると、光あふれるお風呂にゆるりとつかっているよう。曽谷朝絵の「Bathtub」にかけました…夏はいつもにも増して不調。
木村崇人は、部屋丸々使用した体感型こもれび。「び」というか「星」ですが。傘をさすと何かが起こります。部屋は物語入った雰囲気で、絵本1冊仕上がりそうな作りになっています。
日高理恵子の作品は、交差する木々を見上げる構図。視覚型こもれびといえなくもない。でも、幹と枝の間から浮かぶ白は白であって、光には見えんです。それは、写真や抽象表現、日本画等の枝からふりそそぐ作者の白であり個性ではないかと。
なぜか昭和の香り漂うのは、稲垣智子によるタンス積み立てタワーとビデオを組み合わせたインスタレーションと、池田光宏による光に浮かぶシルエットで構成されたビデオ作品。前者は合板製で古臭いデザインのタンスと白熱灯、後者は少女・シャボン玉・鳥かご等の合わせ技が、時代遡りアイテムとして機能していると思われます。

▼タイトルに近い作品、遠い作品、居心地悪そうにしてる作品があるような。言葉に縛られつつ見ると、微妙な感じがしないでもないです。でも、作品単位で見るとそれぞれ面白いので、微妙は帳消しということになりました。(08/23)




FUSION (MUROMACHI←→NOW)〜時空を超えて融合するアート〜
08/23-10/26 板橋区立美術館

▼収蔵品展。時代を超えて室町から現代までの日本美術を取り合わせの感覚で混在させて展示するという新しい試みに挑戦する。(同展チラシより)

▼丸、四角など幾何学模様を用いて構成された作品、人を題材にした作品。時代別ではなく、見た目や題材でひと括りにした展示がなされています。て、それだけかい?「考えられない取り合わせだけど、なぜかピッタリ」みたいな、ミスマッチ感覚が溢れて止まらない展示を期待していたのですが、少々拍子抜けでした。取り合わせというより並べただけにみえます。
あと、全体的に雑然とした雰囲気。チラシの取り合わせなんていい感じですが、実際に見ると、他作品の谷間に埋もれた格好になってるし。

▼時代を混在させた展示は面白いと思います。でも、見せ方は工夫の余地ありではないかと。質の良い収蔵品なのだから、ちゃんと見せないと勿体無いです。(08/23)




えぐちりか「バーンブルックのたまご」
08/18-08/28 ガーディアン・ガーデン

▼作者による物語「バーンブルックのたまご」のイメージを、会場全体を使い再現。家具や懐かしめの本などをしつらえた部屋に卵オブジェが襲来、テーブルの上から引き出しの中、椅子、壁、棚に至るまで無数に覆い重なり連なっております。あらすじを追った絵の展示もあり。

▼反復するモチーフと埋め尽くされる感覚が、妙に気持よいです。生理に訴えかけるというんでしょうか。あなどれんぞ卵の大群。加えて、黄身や白身の不気味にリアルな質感、ありえない場所になぜかある不条理さが、癖っぽい味わいを演出。気持悪いが気持ちよいという。どっちなんだ?
質感といえば、白身のデロリ具合は触ってみたくなる位。ガラス製らしいが、ガラスに見えません。(08/26)






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