2003年6月

あなたの選んだ古美術展 [館蔵品による]
04/26-07/06 板橋区立美術館

▼2度目の訪問。後期の展示に行ってきました。前期同様、楽しい作品が多かったです。

▼後期のみの出品は12点。内、狩野典信による「大黒図」「唐子遊図屏風」はインパクト大。画面いっぱいに描かれた大黒さんに、可愛らしくも不気味に増殖する(ように見える)唐子たち。変です。
作りが効果的だったのは、歌川広重「江戸近郊図」。覗き窓のような丸い絵に描き表装。江戸近郊のバックには表装の富士山、遠近の妙というか入れ子状態というか。
柴田是真は後期も健在で、「蜘蛛の巣図」が加わっていました。巣の所々に掛かった松の葉と、空間を生かした構図がよいです。

▼狩野寿信「徒然草図屏風」は、展示室の外に置いてありました。収まりきらなかったか!?(06/14)




京都・細見美術館名品展 コレクターからの贈り物 -琳派・若冲・風俗画に親しむ-
04/26-06/22 大倉集古館

▼展示替えを狙い2度目の訪問。

▼目に付いたのは、鈴木其一「鵞鳥図屏風」。白やら柄入りやらのガチョウを配した作品です。1羽、目が半閉じなのが私的ポイント。ちゃんと下まぶたから閉じている。其一の作品には、琳派の様式を踏襲しつつも独自の空間と時間軸が存在する…ような気がします。浮かんで止まってるというか。
若冲は、水墨画4点の出品。とりわけ「仔犬に箒図」が好み。
他には、桃山時代の作「東山名所図屏風」。現存していない大仏殿が描かれていたり、当時の様子がうかがえます。馬フェチにおすすめなのが「観馬図屏風」。無数の馬が御披露目され、乗り回されております。ところで、馬フェチって何よ。

▼前回に続き楽しい展示でした。が、個人の趣味が色濃く反映されたコレクションなので、鑑賞者によって合う合わないは顕著かもしれないなと。江戸時代の絵画がお好きなら、大丈夫だと思いますが。大作を御所望の場合は、ちょっとわからないです。(06/14)




建築家 伊東忠太の世界展
04/12-08/31 ワタリウム美術館

▼建築図面、家具、石像、絵画、スケッチ、写真など、およそ300点あまりを一同に集め、展示する初めての回顧展。忠太自身が撮影したガラス乾板写真、初期の美人画は、本展初公開(同展チラシより)。展示は、大まかにいうと3つに分かれています。

▼まず初めに建築図面。築地本願寺、震災祈念堂など主な建築作品から、お墓まで。よく見ると、十八番である妖怪が、こっそり居着いていたりします。しかし、図面では完成形が想像し難い。写真が横にありますが、少々小さく、全体像1枚という点が惜しいです。不実施に終わった建築図面も有り。西本願寺大連別館なんて計画があったのか、しかし煉瓦造りとは。
模型も展示されており、でかく、内部まで精巧に作られた祇園閣が目立っていました。

▼次は絵画。17歳のとき描いた美人画は、着物の柄が執拗なまでに細かい。忠太は、「曲線と模様」についてこだわりを持っていたそうですが、それは若かりし頃からだっだというのが丸わかりです。どうやって生まれてきたんだ?の妖怪画は面白すぎ、通し番号と日付入りの「漫画はがき」では、風刺や風俗画を色付きで描きまくっておりました。

▼最後は、明治35年から38年にかけての世界旅行について。ここでは、行程中に書かれた「野帖(フィールドノート※)」と、各地の建築物などの写真を展示。アジア・中近東を中心とした旅で、忠太が何を見、どこに興味を持ったのか追体験できるようになっています。

▼建築家・建築史家、「法隆寺・エンタシス・ギリシア伝来説」を提唱、この分野では初の文化勲章受賞という、字面の経歴からは到底浮かんでこない愉快な忠太ワールドが広がっていました。妖怪大好き、絵を描くのが大好きで極度のメモ魔。この方の脳内には、妖怪、建築、模様など、沢山の何かが常に涌き出ていたのだろうか。それはしょっ中沸騰し、ふきこぼれそうになるたび描き、図面をひき、果ては現実世界に3Dで登場させたりしてたのだろうか。なんてことを想像してみました。
もうひとつ。忠太設計の建物を見るたび「何だこりゃ?」という驚きの言葉が浮かんでいたのですが、それは本人の特異なキャラクターが建築に染み出ているからかも…と、思った次第です。(06/14)

※野帖とは、設計の構想、妖怪画、日記、スケッチなどが描かれた、膨大で雑多であり詳細な記録のこと。見たこと感じたこと、頭の中に浮かんだことなど、忠太の源泉に触れられます。これらは会場の所々に置かれてあり、忠太の人間像や展示品を知る上での手掛かりとなっています。野帖自体も、大変興味深い展示品です。

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巡回:09/06−10/05 KPOキリンプラザ大阪他

建築画像:築地本願寺東京都慰霊堂(旧震災記念堂)復興記念館平安神宮阪急ビルディング--以上、建築マップ
伊東忠太を知るために:伊東忠太のインド建築行脚(王国社刊 『伊東忠太を知っていますか』 より)/伊東忠太・フィールドノート解題(日本建築学会・伊東忠太未発表資料 特別研究委員会・報告書より )--以上、神谷武夫とインドの建築




京都の日本画100年 -栖鳳・松園から現代まで-
05/29-06/22 うらわ美術館

▼後期の展示に行って来ました。大正デカダンスな作品が目に付きました。

▼チラシになっている岡本神草「口紅」は、しどけない表情と薄紅色に染まる細い腕が、妖しい色香を漂わせております。肘が露になっているのもポイント。加えて、着物の毒々しい色彩が、妖艶さに磨きををかけまくっています。
デカダンス作品は、他にも観ることができましたが、何れも独特の質感を持っていたように思います。ぬめりを帯びた霧というか。それはまるで、女性特有の汗と化粧品が混ざった甘い体臭と、妖気を発しているかのよう。

▼傾向はがらりと変わりまして。柴原希祥と榊原紫峰による「軍鶏図」競演も気になる所。隣り合って展示されていたのですが、構図が瓜二つ。今にも飛びかかりそうに身を乗り出す軍鶏、背景には複数の竹。榊原紫峰は「課題による画題」だったらしいけれど、そのために似通ってしまったのか?軍鶏の威嚇度は、柴原希祥の方が上かな。

▼竹内栖鳳は、完成作と下絵が並んだ展示。上村松園「人形つかい」は、襖から部屋の奥を覗き込む姿を描いた作品。僅かに開いた襖、部屋の様子はわからないまま。想像をかきたてられる構成でした。(06/14)




手のひらの中の芸術品 現代根付展 高円宮コレクションを中心に
05/20-07/06 たばこと塩の博物館

▼現在制作されている根付は、実用的工芸品という位置付けから離れ、それ自体が独立した美術作品として世界的に高い評価を受けている。現代美術の世界において新しい視点から制作されている「現代根付」に焦点をおき、国内外の作品約450点を展示。(同展チラシより)

▼高円宮コレクションと他・個人蔵は、分けられ展示。似た形や同じ形式のものは、それぞれまとめて展示ケースに入れられていたりと、大まかな区分けはされています。小さな、もしくは緻密な細工の根付には拡大鏡が取り付けられており、親切です。

▼「不思議の国のアリス」、DNAクローンイルカなど、テーマの裾野の広さや、近年に制作されたことが手に取るようにわかる品々が数多く展示されています。和洋折衷でキャラクター商品的可愛らしさを持つ作品、前衛的な造形の作品もあり、現代ならではの感性を垣間見ることも可能。材質も、象牙、クリスタルなどバリエーション豊か。質感の違いが楽しめます。琥珀は、中や裏が透けて見えることを上手く利用した作品が多かったように思います。

▼江戸時代から脈々と息づいているのは、凝りまくった細工でしょうか。目を凝らすごとに細やかな技が浮かび上がります。それから、大ぶりなものが見受けられましたが、個人的には丸型に収めたコンパクトな根付が好みでした。

▼高円宮コレクションは、趣味が反映された品揃えでした。ヤタガラスとサッカーボールをあしらった根付には、深く納得。(06/28)






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