2003年3月

自然と共に 「日本の風土と美」
02/08−05/05 世田谷美術館

▼日本の美術に焦点を絞り、軸足を人々の営みや創造の原点に置きつつ、自然に根ざした美をとりあげる。(同展チラシより)

▼土器、器、玩具など暮しに密着した品々、生活に溶けこんだ信仰の対象、自然を題材にした絵画、浮世絵など幅広いジャンルの展示。時代も縄文から江戸まで、写真展示を入れると現代までと、これまた幅広でした。
でも、全体を流れる雰囲気は一緒で、どの展示品にも人との距離の近さ、身近さが感じられました。造形的にも、素朴で温かみのあるものが多かったです。琳派も結構出てますが、こちらもまったり加減。そういった意味では、統一感のある展覧会だったように思います。一見、雑然としていますが。

▼最後にひとつ。会期が長いためでしょうが、それにしても展示替え4回とは。せめて3回までに留めてほしいものです。鈴木其一なんて、出品目録に5点掲載、だけど展示はなかったりするし。ちょっと脱力。(03/02)

ごくごく局地的な余談です。展示品の雰囲気は、2001年に開催された「眼の革命 発見された日本美術(渋谷区立松濤美術館)」に似ている気がします。展覧会のコンセプトは、まるで違うのに。


[常設展]世田谷美術館 平成14年 第4回収蔵品展
2002/12/22−04/06

▼第I部 アフリカの光−「アフリカ年2003」によせて
アフリカの都市を撮影した写真群と、1990年代の現代美術作品。写真には、アフリカの日差しが照りつけ、鮮やかで楽しい看板や建物、人々、日常の風景が息づいてます。ところで、積み上げられた枝木の写真がありましたが、あれは日本でいう所の空き地に転がる土管なのでしょうか。日本つーても大分昔の風景ですが。
美術作品は、しっかりと現代美術。が、どことなくプリミティブで、アフリカの風土に培われ、出来上がった感じ。そう見えるのは、こちらの色眼鏡のせいかもしれませんが。ところで、「アフリカの光」という、天井から石をロープで吊るしたインスタレーションを見て、ロープを揺らしたい衝動にかられました。しないけど。「トーテム」は、タイトル通りトーテムポールなのですが、なぜかぶっ壊れた人形が挟まっています。ホラー。

▼第II部 素朴派の小部屋
アンリ・ルソーをはじめとする展示。和みます。(03/02)




ダンス! 20世紀初頭の美術と舞踏
02/09−03/23 栃木県立美術館

▼舞踏家・石井漠や伊藤道郎らとの関連を視野に入れつつ、日本の1910年代以後からほぼ戦前までの美術を、舞踏とのかかわりから再考する。油彩、水彩、素描、版画、写真に資料を加えた約250点で構成。(同展チラシより)

▼美術と舞踏をひっくるめた総合的な展示。両ジャンルの関わり合いが見えるし、展示品は資料に至るまでよく集めてあります。でも、見せ方が頭脳寄りというか、頭で咀嚼しながら展示品を眺める具合になってしまうのがどうも。

▼個人的には、「ダンス!」ということで、美術や舞踏が持つ躍動感をストレートに味わいたかったなぁと。絵や写真自体は、美しく伸びた手足や肉体の動き、作者がそれらに魅了され、表現魂に喝を入れられたりしたことを伝えているのに、それを展示で止めてしまうのは勿体無いです。(03/21)


[常設展]栃木県立美術館

▼地元関連の作家、近代以降の日本美術、コロー、トロワイヨンなど19世紀の風景画、和洋問わずな現代美術、写真などを展示。ジャンル、時代は幅広く。同時に散漫な印象が。展示品がそれぞれ違う方向を向いており、統一感がありません。同じフロアに、ジャンルも何も無関係に、ごった煮で並んでいるせいでしょうか。などと考えつつ目録を見たら、どうも「テーマ展示:映像の世紀」と、その他の展示が並行している様子。単なるごった煮ではないようです。しかし、どこからどこがテーマで、どこからどこがそれ以外なのか、一見しただけではよくわからないという。散漫の原因は、曖昧な展示にあるのかもしれません。

▼印象に残った作品 デイヴィッド・ホックニー「島」…独特な色彩の水面に、島がまったりと浮かんでいます。なんでも松島の絵はがきを元に描いたとか。篠原有司男「モーターサイクル・ママ」…定番ですが。巨大で迫力あり。石原友明「不自由な眼差し #6」…見る角度によって、色とりどりの模様が動き、変化します。目が喜ぶ作品。(03/21)




開館記念展I 栃木市ゆかりの美術と現代陶芸
03/15−05/05 とちぎ蔵の街美術館

▼喜多川歌麿、田中一村、竹工芸の飯塚琅カン斎、陶芸においては加藤唐九郎、荒川豊藏、北大路魯山人など現代陶芸の優品を展覧。(同展チラシより)

▼タイトルが示す通りの構成。栃木出身、栃木に関係のある作家を取り上げた展示が中心。ジャンルは、絵画、版画、彫刻、陶芸、竹工芸。

▼目当てだった田中一村は、奄美時代の3点と千葉時代2点の展示。後者は、佇む木と馬が少し物悲しい。喜多川歌麿は、栃木出身かもしれない、栃木に身を隠していたことによるエントリーでありました。
その他、竹工芸の編目の美しさや、濱田庄司による益子焼だね〜な茶色に心奪われたり。陶芸は、地域、時代共にバリエーション豊富でした。

▼この美術館は約200年前に建てられた土蔵をそのまま利用しており、外観、展示室内共に趣のある作りになっています。が、柱が作品の前に被っていたり、後ろに下がって作品を観るスペースがなかったり、機能面ではどうかなぁと思う部分が。あちらを立てればこちらが立たず、ということでしょうか。(03/21)




WE LOVE PAINTING ミスミコレクションによるアメリカ現代美術
12/21−03/23 東京都現代美術館

▼絵画作品を中心に43作家、約100点によって現代アメリカ美術の一側面を紹介。(同展チラシより)

▼ウォーホルやリキテンスタインもありますが、この辺りは古株。さらに時代を下った、まさに現代な作品が多々並んでおりました。知らない作家も多々。

▼気に入ったのは、デイヴィッド・サーレによるぶつ切り構成のおかしな絵や、ヴィック・ムニーズのチョコシロップやインクを用いた馬鹿馬鹿しくて涙ちょちょ切れる摸写など。他にも、アホらしかったり配色がツボだったり目がチカチカしたり絵具が大盛だったりと、色々な作品が並んでいて楽しめました。
意外だったのは、ピーター・ハリーの作品。印刷物では全て真っ平らに見えますが、実は面によって質感が違います。こういうのは実際に観ないとわからないですね。

▼知らない作家と出会え、なかなか有意義な展覧会でした。作品や作家を知るいい機会になりました。(03/22)




MOTアニュアル2003 daysおだやかな日々
01/11−03/23 東京都現代美術館

▼日々の生活や自身の周りを静かに見つめることから制作された作品のもつ多様な表現に焦点をあて、展覧会を構成。出品作家は、野田哲也、押江千衣子、上原三千代、染谷亜里可、高木正勝、小林孝亘。(同展チラシより)

▼静かで柔らかな空気が漂う、雰囲気のとてもよい展覧会でした。ここに住めるかも、ぐらいの勢い。

▼印象に残った、というより印象が変わったのが押江千衣子。以前観たときは何とも思わなかったのですが、重なり、にじむ色彩に浮かぶ植物、ん?気持いい世界が広がっているではありませんか。今回、まとまった形で観られたのが再認識につながったか。小林孝亘は、どこがどうというわけではないけれど、妙に引っ掛かる絵。個人的には犬のイメージが強いです。

▼会場内の雰囲気は、作品がひとつでも欠けたら変わってしまうのかも。上原三千代による上履きゴロリも、あの場所じゃあないと。こういうのが組み合わせの妙というのかな。(03/22)




男爵が愛した日本美術−大倉集古館コレクションの精華−
03/14−05/11 細見美術館

▼実業家・大倉喜八郎、喜七郎父子は、日本・アジア美術の蒐集家でもあった。その美術コレクションの成果である、「大倉集古館」の所蔵品を展示する。展覧会は2部構成。

▼第1部は近代日本画の展示で、大倉喜七郎の出資による「羅馬(ローマ)開催日本美術展覧会」の出品作が中心。展覧会図録、写真といった資料の展示もありました。しかし、ローマ展の総代役だった横山大観の出品作はなし。これって展覧会的(細見)には、パズルの一片が足りない形になるのでは。全部埋まらないと、テーマとして少々弱いかなと。まぁ、「野菊」「羅漢松」と、出品作ではない大観はありましたが。この大観は小品ですが野心や灰汁が薄く、心安らかに観られました。
こちらの展示では、並木瑞穂「さやえんどう」が印象的でした。画面全体に、花、実、つる、葉がごちゃごちゃと入り組んだ状態で描かれており、すごくおかしい。描写や色の塗り方は、図鑑の挿絵に近いです。解説には若冲が引き合いに出されていましたが、少々味が違うような。

▼第2部は江戸美術。円山応挙、狩野派、琳派や能装束の展示が中心。
個人的に抱いていたイメージとは違った展開で、その点において印象に残ったのが、狩野探幽「花籠に牡丹図」。繊細かつ丁寧な一品。琳派「四季草花草虫図屏風」は、花や虫が細かく描かれており、観ていて面白い。でも、傷みが激しくて惜しいです。琳派キャラとは一味違う、鈴木其一の山水図なんてのもありました。うねうねでした。

▼未見の作品が多く、新鮮な気分で楽しめました。観たことのある作品も、展示室が違うためかこれまた新鮮。それにしても、大倉集古館の古くて少々デコラティブで趣味が良いのか悪いのか判別つかない展示室、細見美術館の小奇麗な展示室。違いすぎです。(03/29)

大観のローマ展出品作は、「夜桜」が5月1日から11日、「瀟湘八景」が後期(4月15日〜5月11日)に展示されるそうです。関係ないですが、大倉喜七郎と大観っていかにも気が合いそう。
若冲情報:「乗興舟」は、1mちょっと位広げてありました。




[常設展]京都国立博物館

▼特別陳列 雛まつりとお人形 2月25日〜3月30日
江戸の段飾りと上方の御殿飾りを展示。御殿飾りとは、内裏ひなが住む御殿を最上段に置いたものです。京都旧家に伝わる御殿は、なんと総檜。材質も豪華だが、作りも立派でした。
他には、雛道具「十種香箱」に目を奪われました。これは組香の道具一式を入れる箱。その一式が精巧なミニチュアになっています。細部まで手抜きなし。小さいから余計に愛らしい。
雛人形も、頭の飾りが金細工で豪華だったり、着物地に歴史を感じたりするのですが、「この展示室、人形ばかりで夜中入ったら怖いだろうな」なんてことを考えてしまいました。御所、嵯峨など京人形の展示もありました。

▼その他、印象に残った作品
鎌倉〜室町時代の絵画:「文殊菩薩像」「普賢菩薩像」が何点も見られてよかったです。「瀟湘八景図」も複数の展示があり、見比べて楽しめました。
それから、明治時代の友禅「百鳥文様打掛」の大盤振る舞いな派手さにクラクラきたり。極彩色の鳥乱舞、外が緑で内が赤という原色使い。ちなみに、本当に鳥は100羽います。外側に99羽、内に鶴1羽。
円山応挙筆・与謝蕪村賛の「銭亀図」、池大雅筆・蕪村賛の「春梅図」からは、京都の文化人ネットワークが垣間見られる!?「春梅図」は、「春の海ひねもすのたりのたりかな」の発句を賛しています。(03/29)






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