2002年9-10月

大英博物館所蔵フランス素描展 フォンテーヌブローからヴェルサイユへ
07/09−09/01 国立西洋美術館

▼大英博物館版画素描部の膨大なコレクションの中より、フランス16世紀から18世紀までの巨匠たちによる素描101点を精選して展示するものです(同展チラシより)。作品は、フォンテーヌブロー派から、カロ、プッサン、ロラン、ロココのヴァトー、ブーシェなど。

▼素描といってもかなり大まかなもの、細部まで描き込まれたもの、デザイン画と多種多様。また、一部の作品には、完成品の小パネル展示やエッチングの参考出品がありました。素描とは微妙に変わっていたり、まんま生かされていたりと、比較して楽しむことができました。

▼同展では、画家の試行錯誤や構想、制作過程が垣間見られたように思います。手、女性の身体、表情の素描が綺麗で印象に残りました。(09/01)




青春の浮世絵師 鈴木春信−江戸のカラリスト登場
09/14−10/20 千葉市美術館

▼錦絵創始期の第一人者として知られる、鈴木春信の展覧会。国内に加え、海外の美術館に収蔵される作品展示も。全265点。

▼観た後、鈴木春信の魅力について考えてみました。
独特の顔立ち、小さくて壊れそうだけれどふくよかな手、黒一色の空間処理、軽やかにたなびく着物の裾、そこからわずかにのぞく白い脚、作品全体に漂う不思議な浮遊感。以上、考え付くままに箇条書き。でも、魅力って「考える」ものではないよなぁと、ふと思ったり。考える前に感じるもので、理屈でどうこうではないんですよね。
が、しかし。春信の場合、考えが先に来てしまいました。というより、頭の中で魅力を認識しただけで終わったような。もっと色々感じたりできればよかったのですが。うーん勿体無い。

▼展覧会自体は、作品多数で見応えたっぷりでした。版木も出てます。ものすごい彫りようだ。それから、雪のふわりとした質感、波や線などの繊細な表現は、間近で観てこそのものでした。(09/23)

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巡回:11/02−12/08 山口県立萩美術館・浦上記念館


[常設展]千葉市美術館 所蔵作品展3 円山応挙−近代日本画の源流− (同時開催:「現代の造形」展)

▼渋い感じの襖絵「山水図」を中心に。応挙の作品では、「群鳥・別離・鯉図」という三対の掛軸も展示されていました。タイトル通り、沢山の鳥たちが描かれた作品、人の別離を描いた作品、滝登りをする鯉の作品がワンセット。テーマも見た目も接点がないような気がします。

▼他には、伊藤若冲らによる拓版画「賞春芳帖」がありました。実はこれが目当て。モノクロで応挙共々渋い。若冲の「藤図」は、白の部分にムラ?あり。(09/23)




友好都市ゆかりの美術展 黒田清輝・東郷青児・菱田春草・郷倉和子など
09/24−10/06 渋谷区立松濤美術館

▼区制70周年を記念して、渋谷区と友好関係にある鹿児島市、秋田県大館市、東京都羽村市、長野県飯田市、富山県小杉町、埼玉県神泉村が所蔵、或いは寄託されている美術作品を陳列。(同展チラシより)

▼6市町村のうち、最も作品数が多かったのが鹿児島市。黒田清輝、東郷青児など鹿児島出身画家による絵画、薩摩切子、沈壽官をはじめとする薩摩焼といった御当地もの中心の展示。ジム・ダインやハチ公像・ミニサイズなども来てました。ハチ公。渋谷ならでは。
個人的にツボだったのは、桜島の絵。なんかいいなぁ、鹿児島の象徴なのかなぁ。リアル桜島、抽象桜島、噴火中桜島と、各種揃っております。よりどりみどりです。

▼それから、菱田春草が複数来てますので、お好きな方にはよいかも。出身地である飯田市からの出品です。
大館市からは「闘犬の日(福田豊四郎)」。こちらは、「ハチ公の出生地が大館」、「秋田犬の誕生と関係のある闘犬」という意味があるそうで。帰宅後、チラシを読んでわかったことです。そうだったの?

▼全体に流れる雰囲気は、地元色。現地に行かずして、現地美術館の常設展を観られたという感じでした。(09/28)




岸田麗子展 「麗子像」以後を生きる
09/24−10/06 渋谷区立松濤美術館

▼岸田劉生の長女、麗子の展覧会。没後40周年にあたり、絵画、写真、出版物等の資料によって紹介する。上記展覧会と同時開催。

▼誰もが知ってるであろう、岸田劉生の「麗子像」。モデルは劉生の娘である麗子さんです。ところで麗子さんってどんな人?どんな生涯を送ったの?という、素朴な疑問を解き明かしてくれるのがこの展覧会です。

▼展示は、麗子筆の絵画が主。父を師に絵を描いていたそうです。油絵は、色も描きこみも父より軽い感じ。自分と父を描いた作品なんてのもありました。ちなみに、この作品と瓜二つの写真が展示されてまして。「これ見て描いたんだ」と、思わず見比べてみたり。それから、日本画や幼少時の絵もありました。日本画は、うーん形容し難い。「シンプル」ということで。子供時代の絵は、ちょっと面白い色使いです。

▼父の死後、武者小路実篤による「新しき村」の演劇活動に女優として参加したり、文筆活動を始め、「父・岸田劉生」を上梓したりするのですが、それらの資料も展示されていました。
さらには、娘・麗子を通した父、というか参考出品でしょうか。劉生の「麗子像」3点(うち1点はデッサン)が観られます。「麗子像」は、未完成作2点の展示もあり。これらは父娘共作かもしれないが、詳細不明とのこと。初公開だそうです。レアもの?

▼ところで、数多くの「麗子像」の中には、夜道で遭遇したくない麗子さんや、「顔の下から懐中電灯」が似合いそうな麗子さんがいらっしゃるわけですが。実際の麗子さんはどうなのよ?という、失礼な疑問にもサクッと答えてくれましたぞ、「岸田麗子」展。写真の麗子さんは、とても綺麗でした。確かに目は切れ長ですが。いや、下世話で申し訳ない。

▼とりあえず、岸田麗子もしくは劉生に興味がある方は観てみるとよろしいかと思われます。無料です(上の展覧会も)。(09/28)

余談:こちらにも桜島の絵がありました。ひとつの会場で、たんまりと桜島に出会いましたとさ。




[常設展]東京国立博物館

▼室町時代の作品「浜松図屏風」が、一番印象に残りました。金色、沢山の鳥たち、四季の花々が美しい。よく見ると、人が魚捕りしていたりと味わい深い。
この屏風、かなり痛んでおり、剥げている箇所が多々あります。でも、残っている部分を見ると、色鮮やかなことがうかがえて。描かれた当時は、かなり華やかだったのではないかと。

▼表慶館の前に「鶴屋吉信」が店を出していました。「光悦まんじゅう」が気になってしょうがなかったです。値段を見たら1個500円。博物館の入場料(420円)より高い。まんじゅうこわい。(09/29)




横尾忠則 森羅万象
08/10−10/27 東京都現代美術館

▼40年以上に及ぶ横尾忠則の活躍の全貌を、絵画を中心とした約400点の作品を通じ、19のテーマ別に構成して、総合的に紹介する。1965年の最初の個展の出品作から最新作まで、多面的な作家の全貌を鳥瞰する、これまでで最大規模の回顧展。 (同展チラシより)

ス:「尋常でない作品数。会場は、いやがらせの如く絵で埋まってるぞ。で、作品と作品の間が狭い」
鳥:「巨大な作品ばかりでスペースが足りないのか、上の方まで展示してあった。二段になってる所もある」

鳥:「画家宣言後の作品は、粗いというか奇妙なタッチだね」
ス:「あれは、ピカビアが憑依してるんだよ。観る側の神経を逆撫でするようなタッチ」
鳥:「最も影響を受けてるっぽいもんね。御本人も『芸術の父』と公言してるし。あと、印刷物をまんま絵におこしたり、複数の印刷物から人物だけ抜いてひとつの画面に組み込んだりする、ピカビアの手法も憑依してるかも」
ス:「横尾の場合は、古今東西の画家の作品や、仏像、物語など、数多くのモチーフやイメージを、『これでもか』とばかりに力技で組み合わせる。だから、ささっと描いてるにもかかわらずしつこい」
鳥:「しつこさは、肥大した自我による所もあるのでは。なんか、どの作品も『横尾だ』って言ってるの。それも大声で」
ス:「とにかく、好き嫌い関係なく足を止めずにいられない絵。大声だからか?あと、安定した評価を得たせいか、自由に描いて、思いついたことをどんどん試してる感がある」

ス:「滝の絵葉書で埋め尽くした『滝部屋』は圧巻。みうらじゅんを思い出したけど」
鳥:「みうらじゅん展では、レコードジャケットで埋め尽くしたコーナーがあったよね。あと、横尾は滝、みうらはカスハガ収集か(笑)」
ス:「『トレヴィの泉』は、巨大な姉ちゃんが横たわってるわ、泉に潜ってる奴がいるわでいい感じで狂ってましたな」
鳥:「『現在進行形の大プロジェクト』だそうです。風神、雷神もいました」
ス:「最後に展示してある、Y字路シリーズはよかった」
鳥:「あのシリーズだけ異質ですね。わずかだけど憑き物が落ちてる感じ。ラードの量も10%程少ない」

ス:「それにしても、恐ろしいまでの多作。描かずにいられないのか?」
鳥:「沢山の作品、つまり『横尾だ』を送り出すことによって、美術界全体を横尾忠則で埋め尽くそうとしてるようにみえるが。『滝』のインスタレーションのように。ちょっとマーキングっぽくもある」

鳥:「『あまり興味ない』という人が観てもよいと思う。おすすめ。異様なパワーというか、毒気にあてられるけど」
ス:「観た後すごく疲れる。覚悟して行くべし」(10/06)

ス:スズキ。「チャルトリスキ・コレクション」展以来の登場。 鳥:相変わらず暇な管理人。

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巡回:11/03−2003/01/26 広島市現代美術館


[常設展]東京都現代美術館 日本の美術、世界の美術−この50年のあゆみ

▼中西夏之とデイヴィッド・ホックニー版画部屋がよかったです。中西は繊細な画面、ホックニーは波ゆらゆらが好み。

▼最後は宮島達男のデジタル・カウンター。絶え間なく変化する数字を、ぼけ〜っと眺めているとなぜだか心地良いです。この作品に関しては、株やってる人に意見をきいてみたい。いや、何となくですけど。(10/06)




長野県信濃美術館コレクション展 東山魁夷と信州ゆかりの作家たち
09/21−11/04 群馬県立近代美術館

▼信濃美術館コレクションの中から、東山魁夷に加えて、菱田春草、菊池契月、河野通勢、荻原碌山といった信州ゆかりの作家たちによる選りすぐりの作品を一堂に会し、展示する。(同展チラシより)

▼近代以降の日本画、洋画を展示。メインは東山魁夷のようです。まとまった数観られます。青や緑にうっすら霧がかかったような、いかにも魁夷な作品もあり、そうでないのもあり。「春兆」は、近景、遠景をうまく利用した構図で、ちょっと面白い作品でした。

▼他では、奥村土牛の「白日(ひまわり)」に和ませてもらいました。何の変哲も、こけおどしもなく咲いているひまわり。いい意味での凡庸さがたまらんです。(10/14)




特別展示 須田悦弘
09/14−12/01 群馬県立近代美術館

▼建築家磯崎新の創り出した無機的で、広々とした、また天井の高い空間の中で戯れる須田悦弘のイリュージョナルな世界を紹介。(同展チラシより)

▼一輪のバラ、花びらが、ぽつんぽつんと白い空間に浮かんでいるよう。木彫で具象、おまけに実物大の小さな作品と、インスタレーション。結び付かなそうな事柄がここでは結び付いています。空間と彫刻の関係が、とても新鮮でした。無重力な感覚も気持ちいい。が、展示室に漂うバラの香りは、至れり尽せり過ぎでないかい?

▼それにしても、この作品って、勝手がわからないと空き部屋にしか見えないですね。いえ、素通りする御婦人方を目撃しましたもので。

▼最後に。「うへー、こんな所にあるのか?わかんねー」場所に、枝が置かれています。さり気なく。見つからないときは、監視の方が場所を教えてくれます。私は、教えられて初めて気付きました。(10/14)




The Cake Is In Flames
10/01−11/10 資生堂ギャラリー

▼スイス出身の女性アーティスト、ピピロッティ・リストの新作映像インスタレーション。テーマは「身体を流れる液体」と「誕生」。身体を血液や汗、涙など、あらゆる液体の容器としてとらえ、そこから誕生するもの、成長していく生命のエネルギーやパワーを映像で表現。(チラシより)

▼壁やら床に写ってました、映像が。内容は上記の通りです。観てるうち、テーマが伝わって来るような来ないような。けれども、伝わればそれでいいとか好きになるとかハマるものではないので。結局、長居したい、ずっと眺めていたいという気持ちにはなれませんでした。そういえば、ごく一部を切り取ったかのような身体の映像は、一見では身体に見えず。「容器」だから?

▼中央に置かれたテーブルで、女性たちがケーキを食らってました。「Cake」だけに。て、本当の意図は知らんですが。ケーキ、美味そうでした。(10/20)




ピカソ 天才の誕生
09/21−12/08 上野の森美術館

▼1890年から1904年のパリ定住まで、少年期から青春時代に至る初期の約14年間の足跡をたどる。スケッチ、習作など200余点、油彩17点。(同展チラシより)

▼夜間開館より少し前に入場。平日の割には混んでいました。並ばないと、間近でデッサンを観ることはできません。会期後半は、更に混雑するかもしれませんので、早めに行かれた方がよいかも。

▼展示はデッサンが中心。直線的になったり、軽い感じになったり、丸みを帯びたりと、年代によってタッチが変化していく様が興味深かったです。線と色彩からは、その当時、影響を受けていた画家を窺うことも可能。若い頃から、ピカソはピカソなのだなぁ。それから、年を重ねるごとに、作品中のピカソ濃度が高くなっていくような。どえらい上手さの初期デッサンから、どえらい上手さでピカソ自身が投影されたデッサンへ。天才として生まれ、尚且つ成長し続けるということでしょうか。ピカソ…恐ろしい子。

▼あとは、「初聖体拝領」を観られたことが収穫でした。子供の頃、画集でこの作品を観て「ピカソは普通の絵も描けるんだぁ」とびっくりした記憶がありまして。埃かぶった思い出を補完できました。(10/25)

観に行った日は、偶然にもピカソの誕生日でした。帰宅後、パソコンいじりつつグーグル行って、初めて気付いたことですが。文字がピカソバージョンになっていました。






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