『誘惑』 二宮ひかる

白泉社ジェッツコミックス全1巻

『誘惑』P.88より

 最近の私のお気に入りです(注1)。作者の二宮氏は他にも「最低!!」「恋人の条件」「ふたりで朝まで」という単行本を出しています(注2)が、いずれも一読の価値ありです。

 内容はそれぞれ恋愛ものの短・中編集ですが、いずれもストーリーはHがらみです。
 そう書くと単なるH漫画のように思われるかも知れませんが、この作品では男女それぞれからの視点が実に自然に描かれていて、純粋にストーリーの一部としてHを楽しむことができます。

 二宮氏の作品のいやらしさは、一般的に見れば恋愛漫画というよりもいわゆるエロ漫画、それもレディースコミックスに近いとすら思えますが(注3)、それでも純粋に恋愛漫画として面白いのです。
 物語の目的としてではなく、表現の手段としてHを描ける作家はそういるものではないでしょう。二宮氏の表現力は、本当に素晴らしいです。

 氏の作品と凡百の恋愛漫画、エロ漫画を隔てているのはやはりキャラクターの魅力でしょう。
 特に女性の描写は秀逸で、各話の女性達は非常に魅力的です。実は、二宮氏の作品はいずれも強烈な女性賛美に満ちていて、読んでいて幸せな気分になれます。
登場する女性達の美しさ、可愛らしさも嬉しいところです。

 予定調和やご都合主義を排した各話のストーリーも独特で、実に良いです。
 ここでは内容は書きませんが、このオリジナリティ、作家性の高さは恋愛ものとしては珍しいのではないでしょうか。これらの作品は恋愛ものを読みなれた人にも新鮮でしょうし、逆に普段そういったものを読まない人にもお勧めできます。

 ところで二宮氏の作品は全て短・中編で、巻数ものは全くありません(注4)。これにはいくつかの理由があるとは思いますが、やはり結局のところはこだわりなのでしょう。
 恐らく営業上は連載ものを要請されているはずですが(連載ものの方が固定客がつきやすく、雑誌・単行本共に売上が全然違うらしい)、自作品にそれだけのこだわりを持ち続けるのは素晴らしいことだと思います。

 是非、お読み頂きたいと思います。

(97年筆、00年10月掲載)