2005年12月24日〜2月18日 東京都写真美術館
▼岡本太郎がパリ時代にかかわった写真家の作品から彼の写真のルーツを探り、雑誌・著作へ発表した写真、拡大したコンタクトプリントから視線をたどります。そして、彼の写真にまつわる言説や資料、藤阪新吾+高木哲によるインスタレーション《恋愛》など、現代の視点をも織り交ぜて、岡本太郎と「写真」の関わりをつまびらかにします。(同展チラシより)
▼展示の視線が定まっていない印象。資料や言葉などで紡いでいくつもりが、岡本太郎に厚着をさせただけに留まったというか。個人的には、最初から最後まで波に乗れないまま終了。でも、乗れる方は乗れるのではないかとも思います。
2005年12月17日〜2月5日 東京都写真美術館
▼没後、日本で初の回顧展。初期から晩年に至るまでの植田正治の写真的生涯を一望しようとするものです。(同展チラシより)
▼植田正治は四角い瞳を持っていて、撮影対象にはきりとり線が入れてあり、線は瞬間というより構図や物語をきりとる為のもので、きりとり部分の中には配置の為の印がついていて、印の上には人々やなんかが佇んでいたりする。「パパとママとコドモたち」辺りは、作り込み最前線といった感じ。色々な意味において興味深いし面白いけれど、個人的には1930年代の少々緩い方が好み。90年代のオブジェを撮った作品には、本当に印が付いているかも、とか思ったりもしました。こんな風に書いているが展示は充実しているし、作品も楽しめました。
▼壁に「これも「写真」なのか、ということを実践してみました。」という言葉。端的に表しているなと。
2005年12月23日〜2月12日 静岡県立美術館
▼会場は5つに分かれています。まずは「吉祥の間」。めでたき画題を集めています。狩野栄信「桐松鳳凰」はやたら鮮やかでした。長沢蘆雪「瀧に鶴亀図屏風」は、亀亀亀鶴鶴亀亀で若干擬人化。首を伸ばした亀、正面顔の亀、バサバサの羽をした鶴たちと、瀧とのコントラストがおかしい。
▼次に、新春だからか静岡だからか「富士の間」。岡田半江「洋人富士山遠望図」は、甘食のような奇怪富士山と、望遠鏡を覗く西洋人との取り合わせ。インパクト大。なんでも、墨を富士山頂に湧き出る霊水でといたらしいです。
▼「花鳥の間」は艶編・粋編あり。狩野山雪「四季花鳥図屏風」の波は、「雪汀水禽図屏風」に届いているよう。応挙若冲による表現の妙も見られます。
▼最後に「物語・風景の間」。長沢蘆雪「赤壁図屏風」の開放ぶりはただごとではない。麻薬みたいなものを出している感もあったり。この作品を描いている時の蘆雪はどんな気持だったのだろうかと想像。作品から受ける印象と同じだとしたら、最上の気持ちよさなのでは。
▼22点という作品数の割に見応えあり。江戸絵画好きには嬉しい展示でした。
▼西洋美術への招待 リアリズムへの歩み、そして20世紀へ 2005年12月21日〜2月12日
ヨーロッパ各国の風景画へと招待されました。《イタリアの光を求めて》は、解説が面白かった。サルヴァトール・ローザ「川のある山岳風景」の対画がロンドンにあるとか、ジャック・カロ「大狩猟」はフェデリコ・ズッカロの「鷹狩の風景」を参考にしてるとか。
《オランダの空と大地》では、アールト・ファン・デル・ネール「森の風景」が印象的。ある種の実直さが引力になっているのかも。
《構成されたフランス風景画》には、アシル=エトナ・ミシャロン二十歳の作品あり。夢と希望に満ち溢れていてもおかしくない年頃なのに墓描いてるし。予感でもあったのでしょうか。
最も嵌ったのが《英国における水彩画の輝き》。ターナー、コンスタブル、ゲインズバラの一瞬が見られます。淡く広がる水彩、走る油彩にチョーク。リチャード・ウィルソンの定番「リン・ナントルからスノードンを望む」も良し。そそる構図と思われます。ついつい絵筆をとってしまうような。サミュエル・パーマー「ケント州、アンダーリヴァーのホップ畑」は、風景が点描でもって埋められていくにつれ、存在する/しないの狭間に向かっていくような感じ。よくわからん。この人の作品は、日本では静岡にしかないとか書かれてた。
▼さらに《バルビゾン派から印象派へ》《3人のポールから20世紀絵画へ》と続きます。ポールはセザンヌ、シニャック、ゴーギャン。
1月14日〜3月26日 平野美術館
▼「伝統の継承(狩野派・土佐派・住吉派を中心に)」「文人画の模索」「近代絵画の萌芽」「郷土画壇の形成と次世代の画家たち」「風俗画の展開」に分けた展示。
▼「文人画の模索」「近代絵画の萌芽」が興味深かったです。渡辺崋山「猛虎図」(1月26日まで、3月14日〜3月26日展示)では上目遣い虎、森狙仙「野猿図」ではマンダムポーズが見られたりします。加えて、呉春「雪松小禽図」(2月18日まで展示)の構図や雪の表現に応挙の影を感じたり、鈴木百年「伏見稲荷鳥居燈籠図」の奇妙な画面が気になったり。
▼「楽翁画帖」の展示もあり。様々な絵師による作品が見られます。
1月11日〜2月19日 東京国立博物館
▼本展は、中国における書の歴史、その影響を受けながら独自の世界を築いてきた日本の書の展開を、両国の書の名品をそろえて概観するものです。日中の書の歴史を振り返り、さまざまな文化や思想を背景として形成された美しい書の世界に迫ります(同展チラシより)。展覧会の構成をみるに、「日中の書の歴史を振り返り」という部分は押さえてあるのではないかと。推測しかできませんが。
▼気になった・好みの作品 王羲之「淳化閣帖(夾雪本)」:虫食いの跡が雪に見えるから夾雪本。素敵な転化。 / 欧陽詢「九成宮醴泉銘(海内第一本)」:手本みたいだなーと思ったら、『楷書表現の完成〜中国・唐時代〜』の展示品でした。 / 高閑「草書千字文」:速さをもった字体が非常に魅力的。尚意派の表現へとつながるらしい。 / 蘇軾「祭黄幾道文巻」「行書李白仙詩巻」:変化を堪能。 / 聖徳太子「法華義疏巻第二」:異形。筆が置かれる様とか運び具合とか想像してしまう。 / 『さまざまな到達点〜中国・明清時代〜』:現代的な感覚が芽生えてきている感じ。 徐渭「行書女芙館十詠巻」「草書杜甫懐西郭茅舎詩軸」:奔放。傅山「草書自書七言絶句詩四屏」:渦巻。金農「楷書画竹題記冊」:フォント採用可。
▼新春特別展示 犬と吉祥の美術 1月2日〜1月29日
「新春企画 博物館に初もうで」の一環。恒例の干支展示に吉祥。
「緑釉犬」(後漢時代・2〜3世紀)、「埴輪犬」(古墳時代・6世紀)は首輪等を装着。古き時代より飼育中。どちらも巻いた尾が可愛い。この頃から延々と巻き続けているのか。埴輪犬は、ちょろっとはみ出た舌に芸の細かさ。
円山応挙「朝顔狗子図杉戸」(天明4年 1784)は、犬の可愛らしさを抽出しまくるとこんな図像になるのだろうなと。キーワードは、ちっちゃい、ムクムク、コロコロ、やんちゃ等。歌川広重「薔薇に犬」(江戸・19世紀)、礒田湖龍斎「水仙に群狗」(江戸・18世紀)の犬たちも、応挙風だったり。でも、辿り着きがちな場所という気も。イメージに関する最大公約数、共通認識というか。そもそも応挙に渡辺始興とか。
江戸時代以降は、犬種が豊富に。酒井抱一「洋犬図絵馬」(文化11年 1814)、月岡芳年「西郷隆盛」(明治21年 1888)に洋犬の姿を確認。西郷さんが、たれ耳で斑の洋犬を連れ歩く。
▼日本の博物学シリーズ 特集陳列「江戸の見世物」 2005年12月23日〜1月15日
資料により、豊富な演目を振り返ることが出来ました。早竹虎吉!見たいなぁ。曲馬の進化形はジンガロでないの?あと、滝の再現細工、ガラス細工とか色々気になる。
圧巻は生人形。生首とか現物が見られるのは強い。国芳や国貞の浮世絵もあり、そこで松本喜三郎を確認。当時のビッグネームぶりを窺うとともに、熊本・大阪で開催された喜三郎展に行かなかったことを後悔。不覚。
▼気になった作品 「阿弥陀来迎図」(仏教の美術―平安〜室町 2005/12/27〜2/5):衣に残る金箔や雲の質感から、制作当時の優美さを窺うことが出来ます。傷みがあるので微かにですが。惜しい。平安時代・12世紀 / 「茶の美術」(2005/10/25〜2/12):「彫唐津茶碗」のシャープな×印、「古染付寄向付」の脱力した象り、「青磁茶碗 銘馬蝗絆」の見立てぶり。作品自体とそれぞれの同居具合に、懐の深さを感じる。江戸時代・17世紀、景徳鎮窯 明時代・17世紀、龍泉窯 南宋時代・13世紀 / 「染付雪景山水図大皿」(暮らしの調度―安土桃山・江戸 2005/12/20〜3/26):鍋島。しんとした雪景色。隙のない描写が、音までも吸い込んでいくよう。江戸時代・17世紀 / 元ネタは乾山:「暮らしの調度―安土桃山・江戸」(2005/12/20〜3/26)にて。仁阿弥道八「銹絵雪笹文大鉢」、「銹絵雪笹文手鉢 「虫明」銹絵銘」の2点あり。道八は雪を降らせすぎて白和え状態。どちらも江戸時代・19世紀 / 窪俊満「群蝶画譜」(浮世絵と衣装―江戸 2005/12/27〜1/29):曲線と繊細さ。バージョン違いもあった。江戸時代・18世紀
▼科博・干支シリーズ2006 戌 1月2日〜1月29日
「忠犬ハチ公」と「南極観測犬ジロ」の剥製を展示。秋田犬に樺太犬。やっぱり大きくて逞しい。ところで、忠犬は苗字のようなものって認識でいいのかな、と夢の欠片もない発言。ジロさんに行こう。今年、ジロさんはタロさんと再会出来るのだそうです。
他に、ニホンオオカミの全身骨格、犬各種の頭蓋骨、解説色々、あっさり終了。会場が狭いとはいえ、手抜きに見えるのですが。昨秋のカラス展示位の広げようを期待していたのが間違いでした。
▼常設は変わらず盛り沢山で、骨や剥製等に囲まれるひととき。
▼印象派と20世紀の美術 2005年10月15日〜3月26日 ブリヂストン美術館の所蔵品が殆ど。以前見た、何度か見た、御馴染みの作品。いつもそこにある心地良さ。
▼安井曾太郎が10点。石橋財団所蔵を含む、1910年〜50年代の作品が並んでいます。ひなびた風景画、青ざめたルノワール系裸婦から、今描かれたかのような薔薇、面の表現、黒い輪郭に少々キュビスム風まで変幻自在。タッチや色彩など、思うままに操っています。が、見方を変えると、画風に対する迷いが出ているともいえそう。あと、器用さが裏目に作用している感も。変遷を辿るごとに微妙な気持に。
前期:1月4日〜1月22日 後期:1月24日〜2月12日 鎌倉国宝館
▼展示風景は、様々な美人画と北斎作品が主。
▼美人画部門では、宮川長春「美人立姿図」が目に付きました。清涼な色っぽさというか、顔の表情良し。違った意味で目に付いたのが、懐月堂安度「美人愛猫図」。通常よりボリューム控え目。痩せて小さくなってるが元気か?と、問い掛けてみたくなる。加えて、歌川豊勝「七夕美人図」のやさぐれ具合はどうしたものでしょう。不用意に声をかけたら、張り倒されそうです。
▼北斎は、世俗にまみれたような「阿耨観音図」、構図が決まってる「雪中張飛図」、ユーモラスだが表面の模様は忘れてない「蛸図」、疾走感の「波に燕図扇面」など各種。一枚物の滲みやタッチも面白かった。あと、鳥の飛ぶ姿が色々気になる。作品は、東博の北斎展と重なる部分があるのだけど、何度見ても差し支えないのでいいです。
▼主な所以外では、歌川広重による叙情的な雪月花とか。雪がふかふか。司馬江漢「江之島富士遠望図」の油分抜けちゃった感も新鮮。和と洋が綱引きしている図が見えるようでもあり。
1月4日〜3月26日 神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
▼タイトル通りの展示。作品をまとめて見られる良い機会かと思います。画面には、ゴヤが持っている多彩な要素が詰まっていました。
2005年11月23日〜1月22日 神奈川県立近代美術館 鎌倉
▼収蔵作品展。洋画・版画約80点を紹介しています。
昭和の名作という割には、作家作品共に端折り過ぎ。と、よく見たら年代が限定されていました。しかし、それでもやはり端折ってるのではないかと。大きく踏み出したタイトルが空回りしているような。作品は味わい深いものが多く、楽しめました。
▼最初の展示は、具象+シュルレアリスム系。出品数が多いのは松本竣介。5点見られるので、ファンの方にはこたえられないかも(別館には「立てる像・部分下絵」もあり)。印象に残ったのは、古賀春江「サーカスの景」。トラやゾウが点々と。空間が妙で、画面全体が浮遊感に覆われている感じ。筆捌きも合っていると思う。ところで、阿部合成「鱈をかつぐ人」は「海の幸」、佐藤哲三「燻製」は「鮭」のパロディなのでしょうか。
▼次に版画展示。谷中安規多し。漆原木虫「クリスマスローズと蝶とてんとう虫」「アネモネ」はダークトーンに、ぬめりを帯びたような質感が癖になる。最後は抽象部門。中野秀人「有刺鉄線」、山下菊二「病根」、阿部展也「生誕」の並びは狙いなのかどうなのか。キーワードは、甘々のグロとか生理的嫌悪感とかそういう感じかも。
1月7日〜3月26日 神奈川県立近代美術館 葉山
▼パウラ・モーダーゾーン=ベッカーの画業を紹介する日本初の回顧展。ヴォルプスヴェーデの芸術家たちの作品もあわせて展示されていました。
▼色彩に重きをおき、面を強調した作風。そこには、共感していたとされるセザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、ナビ派、日本美術等の片鱗を見ることが出来ます。が、片鱗は片鱗でしかなく、画面の中からはパウラ・モーダーゾーン=ベッカーという人の息遣いが聞こえてくるのでした。そりゃもうしっかりと。
▼で、その息遣いは独特なのか?突出しているのか?というと答えに詰まる。時には「そんな描き方はありなのか」と思ったりもする。それなのに、作品に引き寄せられていく不思議。磁場の在り処は不明。体の線がいいのかなー物語を含んだような空気かなー包み込むような色彩かなーとか色々推測してみたのだけど、解答を欲していないことに気付きました。どこが良いのかわからないけど良いという、宙ぶらりんさが心地良いのかも。
▼図版が気になっていたので、見に行ってみました。少しでも気になったら、足を運ぶべきなのだと思わせてくれた展覧会でした。
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今後の巡回:4月2日〜5月28日 栃木県立美術館
2005年9月17日〜1月9日 森美術館
▼会期も終わってしまいました。端正な、隙のない展示でした。