2002年11-12月
▼グレンヴィル・L.ウィンスロップが収集した19世紀の絵画からイギリス、フランスの18作家86点を展示。 世紀末にラファエル前派、象徴で耽美な絵画が中心。美しすぎ。 ▼アングルの描く女性は陶器のようになめらかだ、ブレイクやバーン=ジョーンズはお目々パッチリがお好き、モローの「出現」とビアズリーによるサロメ共演などありますが、とどめはラファエル前派・ロセッティ番長でしょう。甘美というか独自の世界観というか…。ある意味、常人には描けない絵。ロセッティの脳の皺には、花や宝石、貝殻、なぜか不安なの、女神、水、星が多量に挟まっているにちがいない。「あなたの知らない世界」へようこそ。 ▼全体的には、まとまりがあり観やすい展覧会でした。外側から覗き見したり、阿波踊りでいう「見る阿呆」のノリで堪能しました。ラファエル前派はすごいな。(11/01) 誰にとっても有益でない情報:馬好きジェリコーによる「牛の市」が観られます。牛絵。 |
▼江戸期最初にして最大の巨匠、狩野探幽の代表作である大画面障壁画を中心に、さらに新出の山水図や花鳥図、「写生図鑑」など探幽の魅力を伝える多くの作品を加え、その画業の全貌を全105点により紹介します(東京都美HPより)。「これが探幽だ!」「探幽様式の完成」「画壇制圧」「新たなる挑戦」の4つのセクションで構成。 ▼きっちり描けてたり描けてなかったりと、作品にバラつきがありすぎ。それが第一印象です。人物は、全体的にしっかり描けてますが。 ▼探幽って、描く対象への愛情が均等でなく、そのことがストレートに作品に表れてしまう性質だったのでは。推測ですが。それと、単に手先が追いつかない部分もあったのかも。「細かいとこは目をつぶってね」という作品が結構あったので。 ▼それでも、中国や日本の古画を摸写した「探幽縮図」を観ると、研究熱心で絵のことを真剣に考えていたことがうかがえます。その熱意と真剣さが分散するタイプでもあったのかな?(11/16) 文正筆「鳴鶴図」の摸写が出品されていました。「鳴鶴図」は、伊藤若冲も摸写しています。探幽版、若冲版、元になった文正版とくらべてみると面白いかも。 |
▼室町時代より昭和時代へいたる館蔵絵画の名品を精選し、その多様なる広がりを前・後期に分けて展示いたします(三井文庫HPより)。前・後期それぞれ20点の展示。 ▼後期に、円山応挙の「雪松図屏風」が出るというので行って来ました。右隻しかないのは知ってたけれど、それでも実際に観ると「反則」という二文字が頭の中に…。どんなに素晴らしいものであっても半分は半分。失礼な展示はやめていただきたい。「スペースの都合で…」という但し書きが付いていたけれど、作品数を絞れば十分スペース取れるぞ。それから、HPにも「右隻のみ公開」と明記してほしいです。ポスターだけに書かれてもね。 ▼気を取り直して。森狙仙の「岩上群猿図屏風」は、お猿さんがリアルで可愛らしい。さすがお猿画を得意とした森狙仙。岩を観てたら、長澤蘆雪の「群猿図屏風」を思い出しました。応挙の「昆虫・魚写生図」は、カマキリの足の位置が直してあったりして面白い。本当に上手いし、応挙の生真面目な性格がよく出ている一品です。亀岡規礼の「酒呑童子絵巻」は笑えました。生首。(11/17) |
▼スーラの作品12点をはじめ、シニャックやピサロ父子などフランスの賛同者からベルギーの画家たちまでを含めた23作家の作品103点を集め、複雑で豊かな運動の全貌を、歴史的、理論的な視点を交えて紹介(同展チラシより)。会場には、新印象派が用いた色彩理論に関する資料や詳しい解説があり、「点や色の組み合わせには根拠がある」ことがわかる仕組みになっています。 ▼展示のトップバッターは「スーラと…」のジョルジュ・スーラ。小品や習作っぽいものが多く、ある程度のサイズを保っている作品は僅かでした。でも、元々作品数が少ないし、致し方ないかな。出品作のひとつである「バ=ビュタンの砂浜、オンフルール」は、点がすごく細かく色も美しかったです。「複数の原色を点にして並べると混色したように見え、尚且つ絵具を混ぜ合わせるより明るく澄んだ色となる」という理論の賜物でしょうか。 ▼個人的に面白かったのは、シャルル・アングランの「ノルマンディーの畑」。一点が一面に近い豪快さん。粗いわ色もきついわで、新印象派そして点描画に?が付く作品でした。印象派を通り越し、勢い余って抽象に突入している感が。解説には、新印象主義とフォーヴィズムの統合を企てた云々…とかありました。それから、象徴主義のヤン・トーロップが、点描に転んでた頃の作品が展示されていました。 ▼にしても、新印象派の方々は、画面を埋めるのにどれ程の時間を費やしたのやら。「イルマ・セートの肖像」なんか観ると、気が遠くなります。大きな作品なので。 ▼ひとくちに点描といっても、細やかだったりデカかったり、色が穏やかだったり激しかったりと、それぞれ個性的。根底に理論、浮かび上がる個性、という構図が興味深かったです。(11/22) |
▼お馴染みであるゴッホの「ひまわり」、ゴーギャンの「アリスカンの並木路、アルル」、セザンヌの「りんごとナプキン」を展示。3点は、頑丈そうなガラスの向こうに並べられています。厳重だ。特別展を含め、他の作品は壁に掛けられているだけなのに。まぁ、「ひまわり」は53億円のお花だから、箱入り娘、というかガラス入り扱いは当然か。ちなみに真ん中を陣取っているのは、書くまでもなく「ひまわり」です。 他に東郷青児の作品が1点ありました。(11/22) |
▼評論の対象となった絵画や、愛蔵した美術品を展示し、小林秀雄が求めた美を探る。原稿、出版された本などの展示もあり。 ▼ゴッホ、ルオー、富岡鉄斎などの絵画から、骨董、埴輪や勾玉までと、幅広いジャンルの展示。展示品の傍らには、小林秀雄による文や、骨董を実際に使用している写真が添えられていました。それを読んだり見たりしつつ作品を眺めると、書物の中の評論世界が具現化されていくよう。文章から生まれた、というより小林秀雄という一人の人間から生まれた展覧会という感じ。面白い成り立ちの展覧会だと思います。(11/24) - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - |
▼クールベ絵画の全ジャンルにわたる本展出品約70点を「権力としての<男>」「モデルとしての<女>」「標的としての<鹿>」「所有物としての<自然>」という4つの章に分類し、展示(同展チラシより)。「狩人」という言葉を広義に解釈した結果が、この章分けのようです。 ▼クールベといえば深い緑を湛えた森と、そこに流れる清流や滝。クールベといえば雪の冷たい情景。クールベといえば海と砕け散る波。そんなクールベ節な作品が、ずらりと並んでいました。「狩人」本来の意味に沿った、狩猟画の展示もあります。自画像や女性の肖像画なども充実。でも、森の中の裸婦みたいな作品はありませんので、その辺りを期待すると肩透かしにあうかも。 ▼好きものにとっては、こりゃたまらんな展覧会です。作品個々がどうのというより、浴びるほどクールベ体験ができたことが快感。あ、ひとつの作品としてみると弱いとか、そういうことではないです。(12/07) 会場内にある、クールベの言葉がいい味出してます。まさに「狩人」で自信家、自分大好きで男くさい。あと、どうでもいい話しですが美形兄妹ですな。クールベさんちは。
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▼メトロポリタン美術館のコレクションの中から、パリが最も華やかだった時代、1895年から1930年代までに焦点を当てて、絵画72点を展示。(同展チラシより) ▼遅い時間に入場したせいか、始まったばかりだからか、結構すいてました。今のうちが狙い目かもしれません。 ▼「20世紀初頭にパリで活躍」。このキーワードに合致した画家の作品が展示されています。「エコール・ド・パリ」の範囲を最大に広げた感じで、思ったよりもバラエティに富んだ、豪華な顔ぶれでした。作品自体も、ある程度のレベルを保っているように思います。 ▼タイトルになっているピカソは、青の時代、キュビスム、新古典主義と、要所要所を押さえた作品群で、変遷っぷりがわかりやすい。作品の質もよかったです。 ▼個人的には、「絵の中に入り込める感覚が気持ちいい、でも実際入るとライオンに喰われるよな〜」なルソーや、ヴァロットンの一風変わった静物画、マティスの「金魚鉢」が印象的でした。「金魚鉢」は、小品で色が淡々なのに何故か引っ掛かる。不思議。それから、モディリアーニの「横たわる裸婦」に、じわじわとゆるやかにやられたり。表情といい身体の微妙なラインといい、さり気なくも高濃度にエロ…もとい官能的。バルテュスが観られたのもよかった。展示自体は、キュビスムが興味深かったです。 ▼展示といえば、「エピローグ」が何とも叙情的。同時代に生き、集った芸術家たちを思いながら、会場を後にするという趣向でしょうか。(12/10) |
▼仏像の作られ始めたクシャーン朝(1〜3世紀)のマトゥラーの作品を中心に、それを前後する時期の代表的な作品を展示(インド・マトゥラー彫刻展)。 ▼どちらも、日本と国交樹立50周年を記念して開催。独立した展覧会、図録も分冊にしているのは、両国の政情に拠る所もあるのかも。と、ついつい想像をしてみたり。 ▼観た順に紹介します。まずはインド展。合言葉は、「がっしり、柔らか、ふくよか」。太い手足に頑丈そうな体、女性は丸い胸と腰付き。とりあえず身体が資本です。肉感的です。使用された材質の色や質感も、がっしり柔らかふくよか感を後押し。顔は、ぷっくり唇が特徴。福がついて来そうな、独特な表情の持ち主です。怪物や獅子の像も、楽しく独創性に溢れておりました。 |
▼パキスタン展。インドの彫刻より硬質な面持ち。しかし、硬さに、柔らかく緻密な彫りが同居中。衣のひだなんて美しいの何のって。顔立ちは、福福しい中に、端整さがわさびの如くピリリときいております。洋風だしが色濃い像もあり、外来文化の咀嚼さ加減が窺えます。 ▼同時開催により、両国の個性が浮き彫り状態。インドにしか、パキスタンにしかない味を堪能しました。両国共通である、少々アンバランスなプロポーションも癖になります。(12/14) - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - |
▼ルネサンスからバロックにかけての名画の中から精選された、門外不出のデューラー、クラナハの貴重な板絵をはじめ、ティツィアーノ、ベラスケス、ルーベンスなど65作家81点を一堂に展示(同展チラシより)。 ▼上記の作家の他にも錚々たる顔ぶれ、会場は大入り満員、外にはなぜかダフ屋。展覧会版・有馬記念(※)ですね。これは。 ▼そういえば、有馬記念には、昨年の覇者であるマンハッタンカフェ(競走馬名)や、ダービー馬・ダニノギムレット(同)の姿はなし。ウィーン美術史美術館が誇る、ピーテル・ブリューゲルは、マンハッタンカフェか?タニノギムレットか?馬は引退のため出なかったのですが、ブリューゲルはバリバリの現役。出走、ではなく出品してほしいものです。 ▼印象に残った作品は、デューラー「若いヴェネツィア女性の肖像」。透けるような肌。違った意味で印象に残ったのは、ルーベンスの「メデューサの頭部」。画面がヌラヌラヌメヌメしている。いつもと芸風が違うんでないかい?なんというか、ルーベンスの暗黒面が集結したかのよう。裏の意味で印象に残ったのは、アルチンボルドやサーフェリーの作品。魚や動物の集合体。ここら辺りの作品に焦点をあて、博物図譜を加えた展覧会なんてやったら、面白そうだ〜と、しばし夢想。 ▼全体に漂う雰囲気は、「王道」。よくわかりませんが、模範的な展覧会でした。(12/22) ※年末に行われる競馬レース。一流馬が揃って出走、濃い競馬ファンから薄いファン、競馬は興味ないが有馬だけは馬券買う人まで盛り上がります。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - |
▼今村源、金沢健一、須田悦弘、田中信行、中村政人の仕事を5年間定点観測する、シリーズ企画。今回は第2回展。テーマは「家」。 ▼会場内には、家がどんとおっ建ってます。こちらは中村政人によるもの。室内には、田中信行らの作品が展示されています。 ▼家の横には、金沢健一による「音のかけら-家族のためのテーブル」。テーブルの上には球が…そういえば、ちょっと前にはケーキがのっていたなぁ、と、前回行われた「ピピロッティ・リスト展」がフラッシュバック。同じ場所にテーブル置くなよという気もします。この作品、鉄板を直置きする話もあったようなのですが、そちらの方がよかったような。でも、テーマにしっくり来るのは、やはりテーブルか? ▼「家」という言葉から、素直に想起される作品を提示していたのが、今村源。須田悦弘は、いつでもどこでも須田悦弘でした。 ▼展覧会の主旨等は、入口でもらえる紙に詳しく書かれています。そちらを参照されるとよろしいかと思われます。開催に至るまでのすったもんだ具合も、わかります。と、丸投げして終わらせる2002年冬。by小泉。(12/22) |